三十五、部隊
バルザックの依頼内容であるギルバインの防衛である、それに答えた者はBランク冒険者の全体の七割程度であった。
残りの三割の冒険者は避難誘導を手伝う事を約束し、中央ベースから退出した。
「いい面子が揃った」
再び現れたラザラスは残った面子をひと眺めし、ニヤリと笑って言った。
「では作戦概要を伝える」
ラザラスはそういうとシャルロットにまた合図を出し、シャルロットがまた水の板を空中に浮遊させた。
水の板にメンバー表が映し出された。
Aランク冒険者の名前とBランク冒険者の名前が見て取れる。
「皆も知っての通り、このギルバインは高い城壁に囲まれている。しかし魔人キュルプクスはそれをも超える体長だ。近づかれてしまえば乗り越えられてしまう可能性がある。そこで奴の進軍を阻害する。まずはギルバインの街、東に広がるローレッタ平原で迎え撃つ。ローレッタ平原は人通りも少なく、周りに小さな岩山も存在するため、隠れて強襲する事も可能だ」
ラザラスの話に冒険者たちが固唾を飲んで聞き入っている。
「作戦には、部隊編成を行ったメンバーであたってもらう。既にこちらで部隊編成を行っておいた。それぞれパーティを元にAランク冒険者を割り当てさせてもらった。基本このAランク冒険者の指示に従ってほしい」
セリカはラザラスの話を聞きながら、シャルロットの掲示板を見る。
Aランク冒険者シャルロット・ウェイバーの名前の下にセリカたちの名前があった。
セリカがそれに気づきシャルロットに視線を戻すとシャルロットがウィンクをしてきた。セリカはそれに気づき静かに頷く、そして目線をラザラスへと向けた。
ラザラスの作戦は、ギルバインの街に魔人キュルプクスが到達する前のローレッタ平原にて、先行部隊によってまずは足止めを行い、その後、遠距離による魔法攻撃を行い、撃破するという流れだった。
このラザラスの作戦に異を唱える者は居なかった。
魔王軍との戦闘経験は勿論、魔人との戦闘を行った者などいない。しかもまだその魔人キュルプクスを見ている者もいない。
ラザラスが過去ドラゴンを屠ったとされる元冒険者の経験から来る作戦を信じるしかなかった。
ラザラスの作戦概要は短く終わった、ラザラスは最後に再度Aランク冒険者の指示に従ってほしいと言い残し、部屋を出て行った。
残されたBランク冒険者たちは振り分けられたAランク冒険者の元に集い、Aランク冒険者が持つ専用の冒険者部屋へ移動していった。
――
セリカたちもシャルロットに招かれ、彼女の部屋へ向かった。
中に入るとシャルロットは奥にある、大きな机のある椅子に座り、セリカたちは前に会ったソファーに腰かけた。
「私シャルロット・ウェイバー。水の魔法を得意としているわ。改めてよろしくねえ」
「私はセリカ。こちらが仲間のガガオとゴードン」
「よろしくねえ」
ガガオとゴードンは軽く会釈を交わす。
「後、ミルキィです」
「知っているわ、ここじゃ有名人ですのもねえ」
シャルロットはギルバインの街でも有名なAランク冒険者だ、それがミルキィの名前を知っているとは。セリカは改めてミルキィの人気ぶりに驚いた。
「じゃあ、私たちの作戦会議でもしようかしら。あなた達の評価はギルドから聞いているわ。先日魔王軍と戦って勝ったそうだね」
「あ、それは私たちというか、ミルキィが…」
「うん、大丈夫。まぁ冒険者といっても戦闘が得意な人もいるし私みたいな研究が好きな人間も居るから戦闘力だけが冒険者のすべてじゃないわ。ただ今回ばかりは戦闘力の高さが左右するかもだけどねえ」
「それで俺たちは何すりゃいいんですかい? 俺ら魔術に長けている訳じゃない。アンタの手伝いがロクに出来るとはおもえねえが……」
ガガオは何か苛立ちを覚えている、シャルロットの喋り方がどこかおっとりしているためなのか、それを不快に思う人はいるかもしれない。
しかしガガオが苛立つ理由はセリカにもわかっていた。何故Aランク冒険者としても有名なシャルロット・ウェイバーとチームを組むことになったのか、それがわからない。
「あなたがガガオね。その背中に背負った弓での攻撃が得意なようねえ。その分接近戦は苦手かしら。あとドワーフのゴードン、あなたは逆に接近戦が得意なようねえ」
「ああ、わしは魔法なんて使えん」
「大丈夫よ。セリカちゃんは風の魔法が使えるのよね」
「良いから、作戦を教えてくれませんかね。俺たちの事色々知っているようだけど、俺たちはアンタの事を良くわかってないんだよ」
「ガガオ、そんな言い方」
「良いのよ。Aランクだからって偉い訳でもなんでもないわ。作戦は簡単よ。私とセリカは魔法で遠距離攻撃を仕掛けるわ。ガガオとゴードンは弓や投石器で魔人を狙撃して頂戴」
「私は、何をすれば良いですか?」
ミルキィはシャルロットに質問を行った。
「ふふふ、逆に私が聞きたい事ね、あなたは冒険者になって日も浅いの。だから私はあなたに何が出来るのか良くわかってないの」
セリカはシャルロットが自分たちとチームを組む理由がわからなかった。
同じBランク冒険者の中でも一番のなり立てで、実績も少ない。戦闘経験も豊富とは言い難い。
明らかに実力不足は否めない。
「私はあなたに興味があるの、ミルキィ。あなたの能力がどの程度なのか、凄く知りたいわ」
シャルロットは今まで見た一番の笑顔でほほ笑んだ。
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