三十二、冒険者ギルド
ギルバインの街には大通りがあり、それが街を北部、東部、西部、南部に分けている。ドワーフが建設した高く厚い城壁に囲まれ、それぞれに門が設置されている。
ギルバイン冒険者ギルドは東部に位置しており、ギルドの建物もドワーフが建設した。
建物は四階建てとなっており、中に入ると巨大な掲示板が目に付く。様々な依頼がそこに書かれており、依頼状況などがある程度書かれている。
巨大な掲示板には魔法技術が使われており、そこに行かなくても掲示板の内容を変更することが出来る。
掲示板の下には、受付が複数名おりそれぞれランク分けがされている。
Bランク冒険者受付は三名だが、Cランクとなると十名以上の従業員が居る。
Aランク冒険者は二階に自室が与えられており、そこで直接依頼を受け、Bランク以下は受付に出向き依頼を受ける。
Dランク以下の冒険者は部屋の四方に張られたいくつかの掲示板に目をやり、自らどこの依頼者のどんな内容かを受付で受注する必要がある。
セリカたちが到着したとき、その装いは別なものに変わっていた。
中央の巨大掲示板はギルバインの街とその周辺地図が映し出されており、いつも賑わうギルドカウンターには冒険者の姿は無く、受付は閑散としていた。
セリカはその異様な雰囲気にあたりを見回すと、どの冒険者もギルドの変わり様に圧倒されていた。
中には顔見知りも大勢いた、Cランク冒険者仲間だった者だ。
「こ、これはどういうことじゃ」
「俺もさっき来てビックリよ。これじゃまるで……」
ガガオはその言葉を飲み込んだ、この冒険者ギルドが出す雰囲気がそれを口に出すことを躊躇させた。
「冒険者セリカと仲間の三人ですね」
セリカは受付の従業員に声をかけられた。
「二階、中央ベースへ集まりください。間もなく始まります」
「始まる……? 一体何が?」
セリカが質問を返すが、答えが返ってくる事は無く従業員はまた別の冒険者に声をかけ集まる人々を誘導していく。
セリカたちは状況が呑み込めないものの、大人しく二階中央ベースという場所を目指した。
二階へと続く階段をあがると目の前に大勢の人だかりがあった。恐らくそこが中央ベースだろう。賑わう面々の顔を見るとCランク冒険者たちが居た。
セリカたちは別の従業員に案内され、中央ベースの奥へと歩いていく。
中央ベースへ通されたセリカたちはその部屋の広さに驚いた。
大人数が使用出来る会議室のようだった、しかしそこにあるべきテーブルや椅子などは一切なく無理矢理人を押し込めたような異様な雰囲気がそこにあった。
ここでお待ちくださいと言われ、立ち止まるセリカたち。周りを見るとBランク冒険者たちなのかそれぞれが只者ではない雰囲気を醸し出していた。
「なんなのこれ?」
「どうやらBランク冒険者が集められたようですね」
ミルキィが周りを見ながらそう言った。
一体何人の人間がここに集まっているのだろうか。ざっと見ても百人以上冒険者が居る。この人たち全員Bランク冒険者だという事か。セリカはそう思いだながらも部屋の正面を見る。
部屋の正面には、奥は一段高くなっている。奥に扉がありそこから数名の人間が現れた。
その人間たちはセリカたちBランク冒険者に向き合い、静かに持ち場に立った。
「Aランク冒険者……!」
「ありゃ賢者シャルロットだ。初めて見るぜ」
「隣には疾風のジャックも居る」
冒険者ギルド内ではその顔を知らない者は居ない、ギルバイン冒険者で選ばれた人間たちAランク冒険者だ。
その存在感に圧倒されるセリカたちBランク冒険者たち。先ほどまで賑わっていた中央室はいつしか静まり返っていた。
その静まり返った事を察してか、また奥にある扉が開いた。
そこからは二人の男が現れた。
二人の男の登場に完全に場が支配されていた、男の一人が一段高くなっている場所の中央に立つ。
「皆、忙しい中呼び出してすまない。依頼を終えていきなり呼びつけた者や依頼途中で呼び戻して申し訳なく思う」
そこに居た冒険者がその男の言葉に包まれた。
「改めて自己紹介しておこう。俺の名はラザラス・ザックハート。このギルバイン冒険者ギルドのギルド長をやっている」
Bランク冒険者の全員が息を飲み込んだ。面識は無くてもギルバインの街に住む者なら知らない人間は居ない。ギルバイン冒険者の創設者だ。
元Aランク冒険者ラザラス・ザックハート。彼の地でドラゴンを退治したしたという逸話を持つヒューマンだ。
色黒の肌に髪の毛は逆立ち端正な顔をしているが、その片目はドラゴン退治の際に負傷したとされ、隻眼のラザラスと呼ばれ生きる伝説となっている人物だ。
「あれが……ラザラス・ザックハート」
ギルバインに住む冒険者の到達点とされるAランク冒険者、そのAランク冒険者とギルド長のラザラスがBランク冒険者を集めて話をしている。
この異様な雰囲気に誰一人として口を開こうとしない。
「皆を集めたには理由がある、その理由については奴から話がある。状況把握が出来ないだろうが、今は静かに聞いてほしい」
壇上に立つラザラスがもう一人の男に合図を送る。
合図された男は一歩前に踏み出し、咳払いを一つ。そして静かに話だした。
「私はバルザック・ヴェズ・シュタインベルグ。この街の憲兵団の団長をやっている」
静まり返った場は一瞬どよめき立った。
バルザックは話を続けた。
「皆、静かに聞いてほしい。何故私がここ冒険者ギルドに居るのかを。二日前私の元に一つの書簡が本国アーデルハイド公国から届いた。差出人はアーデルハイド公国の防衛大臣エンドール」
アーデルハイド公国の大臣からの書簡?という声がいくつか部屋あちこちで聞こえだした。それも無視し、バルザックは話を進めた。
「大臣エンドールの書簡には、こう書かれていた。魔王軍四天王レーデンがアーデルハイド公国に対し宣戦布告を行ったと」
その場にいた冒険者が一瞬にしてざわめいた。
そのざわめきを抑えるために、バルザックは声をあげた。
「そして! 魔王軍四天王レーデンは、まず手始めにこのギルバインの街を壊滅させると!」
ざわめきは一瞬にして静まり返った。
「そして……本国アーデルハイドはギルバインからの撤退を命じた!」
バルザックの言葉に、そこに居た冒険者全員、虚を突かれた。
「つまり、本国アーデルハイドはギルバイン、この街を見放したのだ!」
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