三十一、召集命令
セリカたちがピューリッツ坑道の依頼を終え、ギルバインの街に帰りついたのは、その日の夜の事だった。
ギルバインの街にたどり着いた四人は宿で夕食を行う事とし、一度解散をした。
セリカはミルキィと共にそのまま定宿へ向かい、ゴードンはザーハが居る商人ギルドへ、ガガオは冒険者ギルドへ依頼完了の報告へと向かった。
一度部屋に帰り、武具を外し一階へと降りる階段の途中でセリカは足を止めた。
セリカが目にしたのは宿屋の女将と会話をするミルキィだった。
「ミルキィ、昨日うちの子供たちと遊んでくれたらしいじゃない。ありがとね」
「いえ、とんでもありません。楽しい時間を過ごす事が出来て幸せでした」
ミルキィは以前のような巨大な身体から完全な人型に進化している、誰が彼を土と石で出来たゴーレムだと思うだろうか。
「なんていい子なんだい、私ゴーレムなんて昔話ぐらいでしか聞いたこと無かったけど、みんなあんたみたいにいい子なのかい?」
「どうでしょうか、私は他のゴーレムと出会った事はありません。しかし私のように喋るゴーレムは珍しいとの事です」
ミルキィは時折笑顔を見せて宿屋の女将と談笑をしている。
ミルキィの言う通りだ。どう見ても彼は普通のゴーレムではない。
普通のゴーレムは喋る事は無い、それに意思を持ち自分で行動する事もない。ましてや先ほどピューリッツ坑道で見せた死者を弔う事など、ゴーレムの域を遥かに超えている。
セリカがエルフの里で見聞きしていたそれと大きくかけ離れ過ぎていた。
もしかするとミルキィはゴーレムではないのではないか。そう思えてくる。
セリカが二人の会話を聞いていると、ミルキィがセリカの姿を見つけほほ笑んだ。
「セリカ様、こちらです」
セリカは階段を降り、ミルキィの隣に座る。女将さんにお茶を注文し、女将さんは店の奥へ姿を消した。
セリカは、チラリと横目でミルキィを見る。ミルキィは姿勢良く椅子に座り少しにこやかな表情を浮かべている。
ミルキィは最近よくほほ笑むようになった。
以前のミルキィは土と石で出来ていたため、表情など一切わからなかった。
先日のステインとの闘いの後、また自己進化を行い完全な人型と男前の顔を造り上げた。ミルキィ曰く顔はどのようにも変えられと言う。
何故、その顔にしたのかと聞くと、さあ何故でしょう?とほほ笑んだ。
青い髪の毛も造り出し、パッと見ただけでは本当に人間のように見える。しかしゴーレムの名残なのか、接合部のようなものは四肢の至る場所にあり、やはりどこか造られた事がわかる。
近頃になって冗談なども言うようになり、また一段と人間らしくなってきている。
会話だけを聞いているととてもゴーレムとの会話とは思えない。
「セリカ様、少しご相談があるのですが」
「うん?」
奥から女将がお茶を持ってきた、セリカはそのカップを受け取り一口飲んだ。
「博士の事です。博士は以前ステインが話していたアーデルハイド公国の特級技師だったと言います。あれからゴードン様やザーハ様に調べて頂いておりますが未だに情報が得られておりません」
「うん」
「私、一度首都アーデルハイドに行ってみたいと思います」
セリカはカップを置きミルキィに目線を流す。
「その気持ちはわからなくはないけど……」
そんな会話の中、ゴードンが酒瓶を片手に宿屋に戻ってきた。ゴードンは頬を赤らめ上機嫌の様子でセリカたちの席に近寄り椅子に腰かけた。
「どうしたんじゃ?」
「ミルキィが首都アーデルハイドに行ってみたいって」
「行ってどうする?」
椅子に深く腰かけたゴードンが酒瓶を口につけミルキィを横目で見た。
「お前が行って貴族連中が会ってくれる保証がどこにある。アテはあるのか?」
「ありません、しかしここに居ても情報が得られないのであれば」
「まあ待て。お前の言う事も良くわかる。ザーハを頼ればすぐに情報が得られると思っていたわしが浅はかだった。すまんミルキィ」
ゴードンは珍しく頭を下げた、ミルキィは慌てて言葉を返した。
「いえ、ゴードンの責任ではありません。ただお願いして待つばかりでは都合が良すぎるかと思っておりました」
「そこでだ。さっきザーハから聞いたんだがギルバインの鉱石を首都アーデルハイドの上級貴族が大量購入をしたいらしい。それも急ぎって話だ」
「急ぎの話?」
セリカが怪訝な表情を浮かべた。
首都アーデルハイドには定期便で毎日のように貨物が運び出されている。ギルバインで収穫された野菜や穀物など、勿論その中にギルバイン産の鉱石も含まれている。
その定期便を利用すれば大抵の物流は可能にも関わらず、急ぎでほしいというのには何か裏があるとセリカは思った。
「何か危険な事なんじゃ……」
「いやいや、荷物は銅鉱や銀、金などの鉱石が大半だ。勿論希少価値の高いトライニウムなんてのも含まれるが、何故だかその貴族様は急ぎで欲しいとの事だ。急ぎの分依頼料もかなりのモンらしい。首都アーデルハイドまでの道のりだ。短くはねえが荷物を護衛して後はその場で別れりゃいい」
「依頼者はザーハ?」
「そうだ、あいつは今その荷造りで大忙しだって話だ。それに相手は上級貴族だ。これにかこつけて顔を売っておく算段だろう」
「なるほど、そこで貴族と親しくなりさえすれば、レプロス博士の事も聞き出せるわけね」
「そういうこった。どうだセリカ、ミルキィ」
確かに美味しい話である。それに上級貴族とも繋がりを持てるかもしれない。
裏があるとは思うが、元々の依頼者はザーハである。裏が無い方がおかしいと言える。
「私はセリカ様の許可を頂ければ同行したいと思います」
「やりましょう、ガガオが戻ったらザーハのとこへ行きましょう」
「おーーーっと、ちょいまち」
セリカがゴードンに返事をした瞬間、ガガオが大きな声を上げて近づいてきた。
ガガオは冒険者ギルドに依頼完了の報告に行ったはず戻って来るにはやけに早く感じた。
「その話、ちょいまち!」
「なんなのよいきなり、大丈夫よ。仲間外れにしたりしないよ」
「違うんだって!俺らにお呼びがかかったんだ!」
「お呼び?誰がわしらを呼んでるんだ」
「そ、それがよ……」
ガガオは冒険者ギルドからここまで走ってきたのだろうか、肩で息をしており額には汗が流れている。
宿屋の女将がゴードンの酒瓶を持ってきていたが、ガガオはそれを手に取りグイっと飲み干した。
「おい、それはわしの」
「んな事はどうでもいいんだよ。呼んでるんだよ!」
「だから誰が?」
「ギルドが!」
「は?意味がわからん。お前ギルドに行ってきたんだろ」
「言って来たよ!行って来たら全員呼んで来いって言われたんだよ!」
「全員?わしらもか?依頼完了の報告は誰か一人で十分だろ。子供かお前は」
「ちがううううううう!!ギルド長が俺らを呼んでるんだよ!」
「ギルド長……?」
「冒険者ギルド長、ラザラス・ザックハートだよ!あいつが俺らを呼んでんだよ!」
セリカとゴードンはお互いを見た。二人ともキョトンとした目で首を傾げ、ガガオを見た。
「またお前悪さをしでかしたのか」
「んな事するかい!A、Bランク冒険者全員に召集命令がかかったんだ!」
「えええええええええ」
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