三十、スケルトン
ノーマの民が巨人キュルプクスを目撃した知らせは、その日のうちにギルバインの憲兵団団長バルザックの耳に届く事となった。
ノーマの民が暮らす遊牧地は、ギルバインから遠く離れ首都アーデルハイドを結ぶギルバイン街道とも違い人通りの少ない深い新緑地帯の開けた遊牧地である。
その反対側に位置するギルバイン鉱山帯にセリカたちパーティは居た。
「ガガオ、そっちに行った!」
セリカは剣を構え、ガガオに合図を出す。
「おうよ!」
ガガオの放つ矢がスケルトンの頭部を貫いた。そのスケルトンは力を失い武具をともにその場に崩れた。
「セリカ、後ろだ!」
セリカの後ろからゴードンが叫ぶ、セリカの背後に別のスケルトンが大きな刃を振り上げる。
その瞬間、ミルキィが凄まじい速度でスケルトンに駆け寄り、その拳でスケルトンの頭部を砕いた。
頭部を砕かれたスケルトンは力なくその場に散らばった。
しかしその場に崩れたスケルトンは、謎の発光を伴い身体の再生を始める。
ミルキィは再生時間を与えず、スケルトンの頭部を踏み潰す。
しかし粉々に砕いたはずのスケルトンはまだカタカタと動いている。
「ミルキィ、術士を探して! このままじゃ際限なく復活する!」
「了解しました、索敵致します」
ミルキィは戦闘態勢を維持しつつ、瞳を閉じ動きを止めた。
「ミルキィちゃん、早くしてくれ! このままじゃ俺らも奴らの仲間入りになっちまうぜ!」
ガガオは悪態をつきながらも矢を放つ、それは見事スケルトンの一体に命中し、それはその場で崩れる。
しかしそれもカタカタと動き出す。
ゴードンは持っていた斧を振りかぶり、そのスケルトンの残骸に重い一撃を加える。
「まだかミルキィ!」
スケルトンの頭部を粉々に砕いたゴードンがミルキィに顔を向ける。
そこはギルバイン街道から少し離れた鉱山帯のひとつ、ピューリッツ坑道という良質な鉱石が採掘される場所だった。
セリカたちは依頼者ザーハからの依頼でピューリッツ坑道に巣くうスケルトンの退治を依頼されていたのである。
依頼者ザーハからの話では、栄えた坑道だったがある日を境に謎のスケルトンが出現した。今は鉱夫達を非難させているものの、まだ貴重な鉱石が採掘できるとして、その奪還をしたいとの事だった。
ギルバイン鉱山にはモンスターによって奪われた鉱山も多い。ピューリッツ坑道もその一つだ。モンスターは様々で単なる猛獣であったりする。
しかしこの坑道のように不死者まで居るケースは珍しい。
セリカ、ガガオ、ゴードン、ミルキィはザーハの依頼によりこの坑道奪還を受けた。
モンスターに占拠された坑道はかなり危険な場所となる。単なる巣穴程度ならさほど問題はないが不死者となると聖職者の力を借りたりしなければならない。
そこに不死者たちが留まり、際限なく復活をする。
坑道に入るや否やすぐにそれらは襲い掛かってきた。
ギルバインの街から一日程度で行き来できる鉱山でもこのようなモンスターが現れる事にセリカたちも驚いた。
セリカが育ったエルフの里でも不死者の扱いは禁忌された闇の魔法、これに対抗するためには強い信仰心を持つ聖職者の聖魔法が有効だったが、あいにくセリカたちのパーティには聖職者は居ない。
セリカたちはこの依頼を受けた際に聖職者が集まる教会に出向き、太陽神ソラールの加護を授かった。
「やっぱちゃんとした聖職者じゃないと骸骨野郎は無理か……」
ゴードンは珍しく弱音を吐いた。
それはゴードンだけではなく、先行するセリカにもガガオにも焦りを感じさせた。
狭い坑道内でも戦闘は分が悪いと踏んだ一行は、坑道出口にスケルトンを誘い出した。しかし坑道出口にもスケルトンたちが出現しており、周りを囲まれてしまったのである。
そして現在に至る。
「索敵完了しました」
「ミルキィ!」
ミルキィは坑道内のスケルトンを無視し、出口に向かって歩き出した。
出口付近には、ゴードンとガガオが居る。坑道内にはセリカがスケルトンを風の魔法で抑えていた。
「ゴードン、ガガオ、しゃがんで下さい」
「え?」
ミルキィは坑道出口に立ち、頭部に魔力を集めた。
ミルキィの額には青く光るトライニウムが埋め込まれており、それが次第に光を帯びてくる。
刹那、ミルキィの額にある青いトライニウムから光線が放たれた。それは木々を貫通し森の中を一直線に発光したのだ。
木々を貫通した光線は、周りに居たスケルトンたちにもあたり、スケルトンたちは両断され地面に崩れた。
寸でのところでゴードンとガガオはその光線を避け、屈みこんだ。
「危ねぇえええええ!」
ミルキィは何かに気が付いたように、光線を横なぎにした。それにより木々は焼き切られてあたりは炎に包まれる。
ミルキィの放った光線が何かに直撃したのか、森の遠くから何者かの叫び声が聞こえた。
その叫び声が聞こえた瞬間、坑道出口と坑道内から追いかけてきていたスケルトンたちはその場に崩れた。
『えげつねえな』とゴードンが呟いた。
ミルキィは驚く三人を尻目にその声の元に歩いていく。
そしてミルキィは歩きながら、右手を声の方向へ向ける、そして右手で射出しそれを掴む。
ミルキィは歩みを進め、その声の主の元まで辿り着いた。そこに居たのは黒いフードを被ったスケルトンだった。
「貴方がここのスケルトンを操っていたのですね」
黒いフードを被っているスケルトンは右手に杖を持ち、左手は欠損していた。ミルキィの光線がこのスケルトンの左手を焼き斬ったのだ。
ミルキィが射出した右手はスケルトンの右手を握っていた。
「どんな事情があるかはわかりませんが、安らかに眠ってください」
ミルキィはそういうとフードのスケルトンの頭部めがけ渾身の一撃を放った。
ミルキィの一撃を受け、フードのスケルトンの頭部は粉々に砕け、残った身体は動きを止め、その場でバラバラに崩れ去った。
崩れ去るスケルトンの最後を看取り、ミルキィはセリカたちに顔を向けた。
「もう大丈夫です。彼がここのスケルトンを操っていた張本人だと思われます」
セリカとゴードン、ガガオはミルキィに駆け寄る。三人とも小さな傷はあるものの大した事は無い。ミルキィは三人にニコリとほほ笑んだ。
「てめえ!俺らが躱さなかったらどうするつもりだったんだよ!」
「ああ、わしらまで黒焦げ…真っ二つになってたかもしれん」
「ちゃんと警告しました」
ミルキィは満面の笑顔を浮かべセリカに向き合う。ミルキィはセリカの身体を見る。
「傷はいくつか見受けられますが、大したことはありません」
ミルキィの笑顔にセリカは胸が高鳴るのを覚えた。
「セリカ様?」
セリカは頬を赤らめ、ミルキィに背中を向けた。
「ひ、人をジロジロ見ないでよ」
「失礼しました、スケルトンの攻撃を受けられておりましたので、深刻な傷になっていないかと思いました」
「私は大丈夫よ、でもありがと。私たち三人だけじゃ術士を見つけられなかったかもしれない。ミルキィのお陰よ」
頬を赤らめたセリカは背中越しのミルキィにお礼を述べる。
「術士を倒したし、もう大丈夫だと思うけど念のためもう一度坑道内を調べましょう。それが終わったらギルバインに戻るわよ」
セリカの言葉にゴードンとガガオが気のない返事を返す。二人は悪態をつきながら坑道内に入って行った。
しかしミルキィはその場に蹲った。
動かないミルキィを心配したセリカが声をかける。
「ミルキィ?」
「少しばかり時間を頂けませんか」
ミルキィはそういうとセリカの返事も聞かずに、地面に穴を掘りだした。
「何をするの…?」
ミルキィは足元の黒いフードを拾い、周りに散らばった骨も一本一本丁寧に拾い集めた。
そして先ほど掘った穴の中にすべて入れた。
ミルキィは土を上からかけて言った。
「この者が何このような事をしたのか、私にはわかりません。ですが何かやり残した事があったのではないでしょうか」
ミルキィは少しずつ土を盛って行く。
「私たちはこの者たちの眠りを妨げただけなのかもしれません。しかし死者は何も語ってくれません。だから静かに眠ってくれる事を願います」
ミルキィは土を盛り固め、近くにあった石を手に持った、再び額のトライニウムが光りその石を削り取っていく。
それは四角く成形され、小さな墓石を造り出した。
「この方のお名前がわかれば良かったのですが、今はこれが限界です」
ミルキィは四角く切り出した石を盛った土の上に置き、一輪の花をそこに添えた。
ミルキィはその後、散らばったスケルトンたちの亡骸を集めそれぞれ穴を掘り土に埋めていった。それは十数にのぼり、そのどれもミルキィは丁寧に彼らを見舞った。
セリカはミルキィの行動が理解できなかった。ただのゴーレムがこんなことまでするとは想像すらしていなかったからだ。
冒険者である、いや同じ人間であるセリカでさえ、このような事を考えなかった。
もちろん聖職者であれば、その行動を起こす事はあったかもしれない。
彼らを葬るミルキィの姿に、手伝う事すら忘れそれを魅入ってしまっていた。
それをすべて終えたミルキィは静かに立ち上がり、セリカに向き合った。
「お時間を取らせました。二人の元へ行きましょう、セリカ様」
ミルキィのその姿にセリカは再び胸が高鳴るのを覚えた。
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