二十二、小国ミロランド
私の祖国、小国ミロランド。小さいながらも古代遺跡を研究する魔法国家として、名を馳せていた。
家で私の帰りを待つ幼い兄弟、身体が弱く働けない祖父。両親は私たちを置いてどこかへ逃げてしまった。私は子供の頃から剣術には自信があった、いつかミロランドを飛び出し冒険者になることを夢見た。
しかしそんな夢はとうに砕かれていた、私には幼い兄弟と祖父を養わなければならない。ただそれだけを考えて憲兵の仕事を全うした。
憲兵の仕事は稼ぎが少なく、いつも兄弟たちには苦労をかけた。いつかお腹いっぱい食べさせてやる事が私の生きる目的となっていた。
憲兵の仕事に就いて五年以上が経過したとき、騎士見習いの募集に私は飛びつき騎士試験を受けた。結果は見事合格。私は無事騎士見習いとして城で働く事になった。
私はこの時喜びのあまり震えた、騎士見習いで結果を残し、いつか聖騎士になって貴族の仲間入りができるかもしれない。私はそれだけを考えた。
そして騎士として働く日々は今思い出しても苦しい日々だった。騎士と言ってもただ城に居ればいいという訳ではない。平民出身の私は貴族出身の騎士たちの世話をする事だった。
城で開かれる会議に出席する聖騎士たちの雑用をこなし、近隣で発生するモンスターの被害の確認のため出陣し、休む間もなく私は城に帰り護衛の任務につく事もあった。
憲兵時代よりも安い給料に不満を頂きながらも私は必死に任務をこなした。
幼い兄弟と祖父の顔を見ると私は疲れが吹き飛んだ。それだけが私の原動力だ。
しかし平民出身で覚醒能力のない私には、ろくな任務が与えられない。
いくら努力しても、貴族騎士たちと同列に扱ってくれない。
私は憎んだ、貴族たちは何の努力をしたのだろうか。剣術でも戦術でも命のやりとりでも私の方が遥かに上に思えた。結局は生まれた家系でその者の運命が決められているのかと。
貴族たちが開くパーティでも着飾る事も許されず、同位の者の警護をする毎日。
いや聖騎士になれば私も貴族の仲間入りだ。平民出身でも努力をすれば貴族になれるかもしれない。それだけを胸に秘め私は愚痴一つ零さず任務に専念した。
しかしある日の事、業を煮やした私は騎士兵長に聖騎士になるにはどうすれば良いかを聞いた。
騎士兵長は私を煙たがったものの、聖騎士になるには、貴族である事と覚醒能力が必要だと聞かされた。当時私はまだ未覚醒であり、すでに二十歳を超えていた。二十歳までに覚醒しなければ、死ぬまで覚醒する事は無い。
それが小国ミロランドで伝えられている古い伝承だった。
私の心は折れそうになっていた。
目の前に立ちはだかる絶望に私の視界は真っ白になったのだ。
いくら働いてもいくら努力しても、聖騎士として認められない。
たとえ覚醒者となっても貴族にはなれない。
私には幸せをつかむ事は不可能なのか。
誰にも認められず、実力のない人間が上に立ち、実力ある人間を踏み台にする。こんな理不尽な事があっていいのだろうか。
いや私には守るべき、兄弟や祖父が居るのだ。こんな事でくじけてはいられない。
私は気を取り戻し、愛する家族の待つ家に帰った。
しかし私の帰りを待っていた家族は、私が帰りやお金をせびってきた。その現実に私は希望を失った。
私は一体何のために生まれ、生きていたのだ。
そんなとき、強国エブレールが魔王軍に陥落させられたことを聞く。エブレールの隣国だった小国ミロランドは混乱に陥った。
ミロランドの首相はエブレール奪還のために、街の兵士に徴兵を行い、魔王軍に立ち向かう決意を固めた。しかし魔王軍はその考えを見透かしたように、ミロランドの準備が整う前に軍勢を率いミロランドを襲撃したのだ。
夥しいモンスターの数を従え、遠く地平線を埋め尽くす魔王軍。
その姿に恐れを抱き、ミロランドの国王は首相と高官を連れは逃げ出していた。
守るべきモノを失ったミロランドはたった三日で陥落した。
私は戦った、ミロランドを守るために。
しかし私一人の力ではどうすることもできなかった。
せめて国王が戻れるよう王宮を守らなければならない。それだけは死守しようと考えた。モンスターに囲まれ絶体絶命のとき、私は能力の覚醒を得た。
覚醒した私の奮戦に魔王軍は四天王レーデンを差し向けた。
目の前に立ちはだかる絶対強者の匂い、私は死を覚悟した。しかしレーデンは私に止めを刺すことはしなかった。
私の隣に居た、怯える騎士兵長を切り殺し、レーデンは私に言った。
「お前はすべてを失った、それでも私に歯向かうつもりか」
その時、私は握っていた剣を床に置いた。
いや、すでにそんなモノは無かったのだ。守るべきモノなんて。
私は兜を外し、その場に膝をつき、レーデンに介錯を頼んだ。せめて最後は聖騎士らしく戦場で強者に討たれたい。
「これは驚いた、お前のような者が何を必死に守っていたのだ。守るべき国か?守るべき民か?」
そんなモノ最初から存在しない。
私は静かに目を閉じた。もうどうでもいい。
「私は、聖騎士になりたかった。それもお前たち魔王軍の前に敗れ去った。もう思い残す事はない。殺してくれ」
私は目を閉じたまま、言った。
「ならば、俺の許に来い。俺が我が魔王軍の聖騎士と認めてやる」
私は我が耳を疑った。
私が長年臨んだ言葉、願い、努力した日々、辱められながらも絶えた日々、苦渋を舐めさせられた日々。それが走馬灯のように蘇る。
生きる事に絶望した日々、生まれた家が違っただけで正当な評価もされず、上にこびへつらった日々、私は一体何のために生まれて来たのだ。
貴族主義を憎みしかしそれを打倒することもせず、その立場に甘えた日々。
それを易々とやってのけた魔王軍。祖国ミロランドを滅ぼした魔王軍がそれを言ったのだ。
そう、私には何もなかったのだ。
守るべきモノなど最初からなかったのだ。
――。
ステインは握りしめた両手剣をミルキィ目掛け大きく振りかぶった。
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