二十一、交戦を開始します
ステインの攻撃により馬車の車輪は破壊された、その反動で馬車は急激に勢いを失い、大きく傾きそして岩に激突した。
馬車からはそこに乗るセリカ、ゴードン、ガガオ、ハーマンを宙に舞わせた。ミルキィもその反動で宙を舞う。そのまま落下したミルキィは岩肌地帯に投げ出された。
ミルキィは岩肌の隙間に転がった、その際にその周囲にはハーマンがウォッカ鉱山から採掘した鉱石が散乱していた、その中には希少な鉱石トライニウムも含まれていた。
ミルキィは球体から岩に小さなアームを伸ばす、その際に馬車が崩れた際に散らばったトライニウム鉱石も吸着した。続けて付近にあった岩にアームを伸ばす。
ミルキィはその岩の成分を分析する、銅鉱、鉛、鉄鉱石などが確認できる。
銑鉄は不純物を取り除けば鋼に変換することが可能だ、ミルキィは再びアームを伸ばし周囲にある砂鉄を密集させる。本来であれば溶鉱炉を用い、徹底的に不純物を取り除きたいところだが、そう悠長にしている訳にはいかない。
不純物交じりの身体になってしまうが、今は時間が惜しい。
ミルキィはアームを使い岩の成分を吸着、除去、酸化させるため、錬成を行う。
レプロス博士に教わったやり方である、突然、身体を使いものにならなくなる場合がある、その際にその手順を教わっていた。岩の成分を分析し、アームを使い吸着と除去、酸化させる方法である。それを錬金術というものだとレプロス博士は言っていた。
本来の製鉄や製鋼は大量の鉱石と火と水を必要とする、しかしミルキィにはそれを必要としない錬成術を持っていた。鉄鉱石に含まれる炭素分を取り除き、硬い鋼や鉄にする工程を球体から出るアームで行う事が出来るのだ。
伸ばしたアームで中心となる核を錬成する、それと同時に周囲に散らばるトライニウムの原石からトライニウムの魔力を吸収する。トライニウムはギルバイン鉱山でも取り分け珍しい希少価値のある鉱石だ。その原石が魔力を帯びており、純度が高いトライニウムは結晶化することによりその魔力を増幅させる。
ミルキィは集めたトライニウムの純度を分析した。
『純度35%』
ハーマンが掘り出したウォッカ鉱山のトライニウムの純度はこの程度である、しかし並みの覚醒者数人分に匹敵する魔力量だとわかる。
ミルキィはこれを元に錬成術を加速させた。
レプロスがミルキィを造り出した際に言っていた。
『その能力を人前で見せるな』
自ら意思を持ち、喋るゴーレムは珍しいとセリカたちが話している姿を見て、ミルキィは自分が稀有な存在である事はわかっていた。
むやみに人前で力を見せるのは控えた方がいいという意味をミルキィは次第に理解していた。その証拠にハーマンに騙され、マスターであるセリカは捕らえられ、今危機に瀕している。
レプロス博士の言った通りである。
ミルキィには目的があった、優しいレプロス博士とマーリーとの三人の生活に戻りたい。しかしもう優しい博士とマーリーは居ない、ならばマスターであるセリカを守るだけだ。
そのセリカは自分のために、命の危険を顧みず救出してくれたのである。
『今度は私がセリカ様をお守りする』
周囲にある岩から錬成した製鉄と鋼、ボディと四肢を形成する魔力量が集まった。これもハーマンが馬車に置いていたトライニウムのお陰である。
ミルキィは純度を高めたトライニウムを球体内に取り込み、アームを岩に伸ばした。
『トライニウムの純度40%』
低い純度だが文句は言っていられない。取り込んだ魔力を一気に解放する。
ミルキィの放った魔力は小さな衝撃波となり、周囲を揺らした。
――。
「な、なんだこいつは!」
ステインの声がその驚きを表していた。馬は驚き、巨大な狼も恐怖に怯えている。
「ミ、ミルキィ!」
セリカの声が聞こえた、自身を呼ぶ声が聞こえる。
ミルキィは錬成とトライニウムから得た魔力によって繋ぎ合わされた新しいボディでゆっくりと立ち上がる。
ミルキィの姿は以前よりも一回り大きくなり、所々に鋼を使用した四肢を組み込んだ。不純物はまだ多く残っているものの、その巨躯は見る者を圧倒させた。
胴体、長く伸びた腕、太く頑丈そうな脚。そして本体である球体を守るように囲まれた黒く輝いた頭部。以前のミルキィとは異なるその姿に周りに居た騎兵や狼は恐れおののいた。
ミルキィは周囲の人間たちが自分の姿に驚いている隙にセリカの無事を確認する。
セリカの身体はボロボロでところどころ裂傷の痕が見えてとれる、また身体の動かし方から見て、背中に強い打撲を受けたと思われる。馬車から投げ出された際にそれを負ったと理解出来た。
ミルキィは仮のマスター登録とはいえ、ここまで自身を守ってくれるマスターに出会えた事に感謝した。
セリカのそれに答えるように静かに言った。
「もう大丈夫です、セリカ様」
「ふふ、ははは! 大したものだ、正直驚いたよ。」
ミルキィは声の方向へ身体を向かせた。声の主はステインという名前だという事は知っていた。
「私に交戦の意思はありません、兵を連れて撤退を進言します」
「ははは! なんだと? お前如き、たかがゴーレム一体に恐れをなして背を向ける私ではない」
「す、ステイン様、このゴーレム普通じゃありません!」
騎兵の一人が声を上げる、ステインはその兵士に視線をやりしばらく口を閉ざした。
「わ、私はこんなゴーレム初めて見ます! 一度撤退し体制を」
刹那、兵士の首が宙を舞った。ステインが跳ね飛ばしたとわかるまで、幾分かの時間を必要とした。
ゴロっとそれが岩肌に叩きつけられ、周囲に居た残りの騎兵が悲鳴をあげる。
「ひいい!」
ステインは血で染まった両手剣を勢いよく払った、その速度に剣の付着した兵士の血が飛び散る。
「敵前逃亡など騎士のする事か! 我ら魔王軍は決して逃げる事は無い!」
ステインが大きな声で残った騎兵たちに活を入れた。その声に我を失っていた騎兵が意識をミルキィとセリカたちに集中させた。
「味方を殺める必要があったのでしょうか」
「恐怖が伝染した味方は敵にも優る」
「言葉の意味は理解致します、しかし殺める事までは無かったと思います」
「なんだ、お前はとんでもないゴーレムだな! ゴーレムとは元来戦いのために造り出された兵器だろうが!」
ミルキィはステインの言葉を静かに聞いた。
確かに普通のゴーレムとは、そういうものだという事。しかしそれは違う。
「私は争い事を好みません」
「ははは! ゴーレムとは何度も戦ったがお前のようなゴーレムは確かに初めてだ!お前を造ったレプロスという男、相当な人道主義者だったようだな」
「レプロス博士をご存じなのですか」
「ああ、私が忠誠を誓う魔王軍四天王レーデン様がレプロスの名を語っていたよ。だがそんな事は関係ない。お前を希少なゴーレムとして魔王軍に加えるつもりだったがもういい。そのような甘い考えなど要らぬ。仲間と共にここで殺してやる!」
レプロス博士を知っている、魔王軍四天王レーデン。
ミルキィの造られた意味、それを知る鍵となるかもしれない、魔王軍四天王。それを知るステインという男。
「かかってこい! 俺を倒せればいくらでもレプロスの情報をくれてやる」
自分の手がかりがそこにあるかもしれない、そう思うとミルキィは拳を握りしめた。
「あなたが私を破壊するというのであれば、私はそれを防がねばなりません。私はレプロス博士とマーリーの情報を教えて頂きたい」
「さあ来い、ゴーレム!」
ステインが両手剣を構え、ミルキィに対峙した。完全な戦闘態勢だとわかる。
「交戦を開始します」
この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m
ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。
レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑
皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。




