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二十、自己進化を実行します

 古代遺跡と言っても居住空間はほとんどない、地下へと続く階段はいくつかあるものの、そのすべてが使わるわけではない。地下室が居住空間になっているものもあるだろう。しかしそのすべてで警備兵が暮らせるとは思えない。その証拠に遺跡近辺には小屋がいくつも立ち並んでいる。


 必然的にそこを拠点とするには寝泊まりする場所を造る必要がある。また水や食べ物だって必要になる。

 この遺跡は四方を森に囲まれているため、木材は豊富である。近くには川も流れている。モンスターは普通に暮らせるが、人間はそう簡単には暮らせない。

 川の水はろ過し蒸留させなければ、食中毒の恐れもある。モンスターに比べ人間は環境の変化に弱いのだ。


 覚醒者が居れば水を飲み水に変える事も可能だろう、しかし彼らも食糧を必要とする。少ない人数と言え、森で狩りだけをして生活しているわけではない。どこかから食糧が運び込まれ、この拠点を維持しているのだ。


 魔王軍と言っても兵士は生活しなければならない。

 食糧が保管されている場所が火事になりでもすれば、大打撃だ。敵に攻め込まれるよりも遥かに損害は大きい。



 ガガオは兵士から仕入れた情報で食糧庫の場所を知っていた、ゆっくりとその裏手に近づき、小屋に火をつけた。小屋は木造である、簡単に燃え広がり警備兵たちの注意はそこへ向くだろう。

 しばらく待って簡単には消えない程度の炎になった。


「後はおっさんとセリカだ」


 ガガオは大きく息を吸い込み叫んだ。


「火事だ!食糧庫が燃えているぞ!」


 周りの警備兵がざわめき出した。早く消さないとお前らの食い物がなくなるぜ。ガガオはそう思いながら足早に食糧庫を後にした。



 ざわめき出す警備兵たちを尻目に馬車が置いてあった方を見る、兵士の恰好に扮したゴードンの姿が見える。繋いであった馬の手綱を握りしめ馬車を走らせた。

 警備兵たちの目は食糧庫の方に集中している、走り出す馬車を呼び止める者もいない。


 ガガオはゴードンが乗る馬車に乗り込み合図を出す。


「よし成功だ、奴ら食糧を失う事がよっぽど怖いらしい」

「当たり前だ、こんな山の中、飢え死になんかしたくないだろう」

「セリカはうまくやれただろうか」

「大丈夫だ、ああ見えてもお前よりも強い」

「そうだといいけどな!」


 ガガオは荷台を見回す、荷台には木箱がいくつか積まれており中身を簡単に確認した。

 木箱の中には宝石や鉱石が詰まっていた。


「わお! これはハーマンが運び込んだ馬車か!」


 他の木箱も確認すると武器も積まれていた。弓と矢筒もそこにあった。これがあればなんとか出来るとガガオは思った。後は空箱のようで重量がかさむため荷台から投げ捨てた。


「これで多少軽くなったはずだ」



 ゴードンとガガオはセリカが待つ場所へと馬車を走らせた。

 セリカが居る地下への階段前に警備兵が二人居た。ガガオとゴードンが出た時にはその姿は無かったがステインが警備を命じたのだろうと思った。


 しかしその警備兵の意識は食糧庫に向いている、警備兵の二人は何か話をしているようだった。

 ガガオは背中に背負った矢筒から矢を二本取り出し、二本を手に持ち一本を弓にあてがえた。

 強く弦を引き、狙いを警備兵の一人に定める。ガガオは狙いを定め、それを放った。


 ガガオの放った矢は警備兵の首に命中し、すぐさまもう一本でもう一人の警備兵の首を貫く。


「お見事」


 ゴードンは馬車の速度を緩め、セリカが居る地下へ続く遺跡の前で停止させた。


 暗い地下へ続く階段からハーマンが姿を現した、そして後ろにセリカの姿があった。

 ハーマンはセリカに相当痛めつけられたらしく息も絶え絶えで口から涎を流している。兵士に扮したセリカはミルキィの姿もあった。球体のままだがあの巨体を運べるものではない。

 ガガオはセリカの姿に安堵したものの、すぐさま意識を外へ向けた。警備兵たちの声が聞こえてくる、馬車の異変に気が付いたようだった。



「セリカ! 早く馬車に乗れ!」


 ガガオはそう叫び、セリカは馬車の荷台に飛び乗った。


「ハーマン、お前にはキッチリ落とし前つけてもらうぜ」


 ガガオはハーマンの服を掴み、馬車の中に引きずり込む。ハーマンはその勢いで荷台の床に転がった。


「おっさん!とっとと出してくれ!」

「あいよ!」


 ゴードンが手綱を握り強く弾く、二頭の馬が勢い良く走り出した。

 馬車の荷台が激しく揺れた、荷台にある木箱が激しく撥ねる。そんな中ガガオがハーマンの元に駆け寄る。

 そしてガガオは縄を取り出しハーマンを縛り上げる、荷台にでぷっと太ったハーマンが再び転がった。あの間にも馬車は走りもう少しで森に差し掛かるところだった。


 馬車を追うように警備兵たちが駆け寄ってくる。モンスターを解き放ったのか勢いよくセリカたちが乗る馬車にそれが近づいてきた。

 モンスターは二匹、巨大な狼のようだ、それがこちらに走ってきている。


「そう簡単にさせるかよ!」


 ガガオは再び弓を構えた、矢筒から矢を一本取り出し、強く引いた弦が音を鳴らす。

 ガガオが放った矢は命中する事なく地面に刺さった。すぐさまガガオは矢筒から二本目を取り出し構える。

 巨大な狼の後ろから馬に乗った兵士が見えた。


「くそ、馬車揺れてうまく当たらねえ!」

「言い訳なんざいいから、とっとと追っ払え!」


 ガガオは悪態をつきながらも何度も矢を射る、どんどん騎兵と巨大な狼が近づいてくる。


「もっと早く走れねえのかよ!」

「重量オーバーじゃ!」


 ガガオは悪態をつきながらも弓を構え、また矢を放った。矢は騎兵に命中し、兵士は落馬した。しかしまた別の騎兵が速度を上げ隣にまで来ていた。

 セリカは荷台から身を乗り出し、風の魔法を騎兵に放った。風の魔法は騎兵に直撃し、バランスを崩した兵士は馬から転げ落ちた。


 増え続ける追手から逃げながらもようやく馬車は森の中へ侵入した。しかし騎兵や巨大な狼たちは変わらず馬車を追いかけてくる。


「ちきしょう! どんどん増えるぜ。矢の数がたりねえぞ!」


 巨大な狼と騎兵が馬車目掛け追いかけてくる。荷台を引いた馬車では分が悪かった。追いかけてくる騎兵の中にステインの姿も見えた。


「くそ!あのステインって野郎も追いかけて来やがった!」

「どうしてもっと盛大に燃やしてこなかったんだよ! 馬鹿野郎!」

「無茶言うな、このくそ親父が!」

「ガガオ! そんな事は良いからもっと狙って!」


 セリカはこの緊迫する中でも悪態を忘れない二人に呆れながらも、風の魔法を騎兵に放つ。しかし風の刃は木々に阻まれ、騎兵に当たらなかった。


 そんなとき馬車の荷車が大きく撥ねた、何かの石を踏んでしまったのだろう。セリカとガガオ、転がるハーマンは大きく体勢を崩し荷台に転がった。

 セリカはその衝撃で脇に抱えていたミルキィを手放してしまった。慌てたセリカは荷台を転がるミルキィを抱きしめた。


「状況把握、完了しました。自己進化を実行します」


 ミルキィの不思議な言葉をセリカは聞く。しかしその時、ステインの刃が馬車の車輪を破壊した。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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