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十九、助けに来たよ

 ガガオの作戦はこうだ。ガガオが外にある小屋に火をつける、周りの警備兵たちを混乱させミルキィを護送すると偽ってゴードンが馬車を手に入れる。

 セリカはミルキィを分析する学者たちを倒しミルキィを起動させ、外に出たところでゴードンとガガオに合流。素早く乗り込み森の中へ走らせる。


 誰がミスしても作戦は失敗する。ミルキィは球体のまま運べば馬車に乗り込むのも容易い。ボディも運べれば良かったがセリカ一人では運べるシロモノではない。

 ミルキィには申し訳ないが、ボディは諦めざるを得ない。

 とにかくここを脱出さえ出来れば冒険者ギルドに、ハーマンの裏切りやここが魔王軍のアジトである事を教える事が出来る。


 セリカは二人と分かれ、ミルキィが居る部屋へとゆっくりと向かう。ハーマンと学者のような男たちの話し声が聞こえた。学者たちはそれぞれに黒いフードを被っている。それが魔王軍の証なのだろうか。

 セリカは部屋の様子を伺う、学者たちは球体のミルキィの近くに二人、ミルキィのボディと四肢が置かれている台の近くに二人、それとハーマンの合計五人。

 学者たちが武器などは携帯している様子はない、ゴーレムの分析には不要なものだ。ハーマンの腰にも武器らしきものは見当たらない。

 五人とは言え丸腰の相手に勝てないセリカではない。


 セリカはそれを待った、ガガオが外を混乱させるときを。

 小さな地下室だ、多少入り組んでいるものの、外の騒ぎが聞こえない距離ではない。


 しばらくすると通路の方から人の声が聞こえて来た。

 恐らくガガオが警備兵たちの小屋に火うけたのだろう。

 よし、今がその時だ。セリカは立ち上がり剣をギュッと握りしめ風の魔法を放った。


 セリカが放った風の魔法はミルキィのボディが置かれている台の近くにいた学者に命中し、首を胴体から切り離した。

 続けてセリカは握りしめた片手剣で球体のミルキィが居る学者の首を撥ねる、激しい血しぶきと共に残った学者たちとハーマンと黒い学者たちが奇声を上げた。

 驚くハーマンと学者たち、そんな中、一人の学者が何か能力を使う仕草を見せた。


「遅い!」


 再びセリカは精神を集中させ風の魔法でその学者の首を切り裂く。

 実にあっけない、覚醒者だと思われるが防御すらしない。恐らくは戦闘に特化した覚醒能力ではない者たちだろう。覚悟を決めたセリカの敵ではない。

 残ったもう一人の学者は逃げる素振りを見せた、素早く風の魔法でその背中に刃を放つ。放った風の刃は、その男の背中を簡単に切り裂き胴体が真っ二つに割れた。


 あたりに血の匂いが充満する。

 夜盗やモンスターの命を奪うのは初めてではないが何度感じても気持ちのいいものではない、しかしセリカはこれも自分の甘さが蒔いた種だという事も理解していた。もう油断はしない、セリカは神経のすべてを戦闘に集中させた。


 セリカは黒い男たちを全員死んだことを確かめ、あたりを見回しそれ以外の気配がない事も確認した。

 そしてその場で蹲るハーマンに近づいた。


「よくも私たちを騙してくれわね」

「こ、この小娘が!」


 ハーマンは隠し持っていた短剣を懐から取り出し、その刃をセリカに向かって振りかざした。

 しかしセリカは手に持った片手剣でそれを難なく弾き飛ばし、ハーマンの喉元に片手剣を構えた。


「ひ、ひい!」


 ハーマンも覚醒者だろうが戦闘行為は不慣れだと思わせた、その立ち居振る舞いがそう思わせた。セリカは片手剣の柄でハーマンの腹部を思い切り殴打した。

 ハーマンは汚い胃液を吐きながら、奇声を上げその場を転がった。

 セリカは逆にこんな奴らに捕らえられた自分が心底情けなく思えた。


 このハーマンという男、殺してやりたいぐらい憎い相手だが、この男は殺せない。ギルバインに連れ帰り憲兵団に行き渡す必要がある。そうしなければこの男が魔王軍にどこまで入り込んでいるのか調べることができない。

 この男が知る魔王軍の情報がどの程度なのかは計り知れないが、それを調べるためにもこの男は生かしておかなければならない。

 冒険者は荒くれ者集まりだと言われる事も多い、もちろん人と争う事も多い分それは仕方ない。人を殺めてもそれが賞金稼ぎであったりすれば報奨金が貰えたりもする、依頼内容でそういった行為に及ぶこともある。しかし冒険者はそういう事だけをやっている訳ではない。

 街のお助け人、誰かに言われた言葉が実にしっくり来た。

 街のために何が出来るか、冒険者になって街のために、街で暮らす人たちのために何かをしたいとセリカは思っていた。それが冒険者になったきっかけだ。


 魔王軍の学者と言っても彼らに家族は居ただろう、それを思うと心の中で彼らの家族には申し訳ないと思える。しかし彼らがミルキィを利用しようとするのであれば容赦はしない。その影響でギルバインの街が襲われるかもしれない。その力が世界を襲うかもしれない。そんなことは絶対にさせない。


 セリカは強く剣を握りしめた。


「まだ生かしておいてあげるわ。でも私を見くびらない事ね。少しでも妙な真似をしたらあいつらと同じ目に遭ってもらうから」


 泣き叫ぶハーマンの腹部を強く蹴り上げる。鈍い音が部屋に響いた。苦しむハーマンは再び腹部を抱え蹲った。


 セリカは球体のままとなっているミルキィを手に取り素早くスイッチを入れる。

 部屋の中で例の起動音が響いた。


「ミルキィ、助けに来たよ」


 ミルキィは目を覚ました、そして何事も無かったかのように呑気に言った。


「おはようございます、セリカ様」


 呑気なミルキィの挨拶に少しだけ張り詰めた緊張がほぐれたセリカ。しかしまだここを無事に逃げ出せている訳ではない。ここから逃げ出しギルバインに戻る事までは気を抜けない。

 左手で球体のままのミルキィを抱え、セリカはハーマンを再び見下ろす。


「さあ、ついて来てもらうわよ」


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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