十八、魔王軍四天王レーデン
「さって、どうしたもんかな」
「うっ、ここはえげつない場所だな」
ゴードンは気絶している兵士三人の装備を取り上げてから縄で縛り、セリカが閉じ込められていた部屋の中に連れ込んだ。そして鍵をかけ、差し込んでいた鍵を勢い良く折った。
「二人ともありがとう」
あの異臭がまだ鼻に残っている気がした。しかしそんなことを言っていられない。セリカは頭を振り、気合を入れた。
セリカは兵士の服を着て変装を行う。
「ここはどこ?」
「詳しい場所まではわからねえ。恐らくはギルバインにある遺跡のひとつだ。話はとりあえずここを出てからにしようぜ。ミルキィは別の場所に連れてかれた。すぐ近くだ、そこへ向かうぜ」
セリカは頷いて兵士のヘルメットを深々と被った。
その場所は古い遺跡だった、地下から這い出たセリカたちは周りにいる警備兵たちに気づかれぬようゆっくりと歩いた。
分厚い石が乱雑に詰まれ、あたりには地下へと続く道が数多く見受けられた、いくつかの拠点と思われる小屋が立ち並び、兵士たちの休息所のように見える。オークやキメラのようなモンスターも見かけるが圧倒的に人間の数の方が多い。
地下の施設が本体なのだろうか、セリカはこのどこかに居るミルキィの身を案じていた。
しかしこの状況はどういう事だろうか、セリカは理解が出来なかった。警備兵たちはセリカたちに全く気付く事もなく、呑気に欠伸をしている者もいる。これが魔王軍。話は聞いていたが魔王軍にはモンスターやゴーレムを使役する覚醒者も多いという。魔王ギデオンの力に屈した人間たちなのだろうか。
セリカは魔王軍の主戦力はモンスターであると考えていた。しかしここはどういう事だろう、モンスターの姿は疎らでむしろ人間の方が多い。
魔王ギデオンは人間を滅ぼそうとしているのではないのか?
セリカは目の前にある現実と、聞いていた話の違いに困惑していた。
先頭のガガオが歩みを止めた、どこありきたりな廃墟のようだった。しかしそこには地下に続く大きな階段があった。都合良く警備兵も見当たらない。
「ここにミルキィが居るのね?」
「ああ、さっき兵士の装備を頂戴するときに、聞いた話だ」
「それにしても、ここは一体どういう事だ。ここにいる奴らはただの人間じゃな」
「それもこれも、とりあえずはミルキィを救出してからにしようぜ」
「そうだね、まずはミルキィの救出だね」
地下に続く階段をゆっくりと降りていく、念のため周囲を警戒して降りて行った。
後方をゴードンが歩き、セリカと続く、ガガオは覚醒者の能力を生かし、一番前を歩いた。ガガオの覚醒能力、視野拡大である。ガガオや常人よりも遠くを見通せ、さらに夜目も聞いた。薄暗い地下を探索するのにちょうどいい能力である。
しばらく地下を進んだ後、長い廊下に出た、そこでガガオは再び立ち止まった。
ガガオは口元に人差し指を立て目線で合図を送った。ガガオのいつものサインである、静かに歩けという事だ。
セリカとゴードンはそれに従い、足音を立てずに廊下を歩く。さらにいくつかの角を曲がり、通路を歩く。
少しずつ、人の話し声が聞こえてきた。
ガガオは止まり、ぴたりと壁を背にし、角を覗き込む。
覗き込んだ先は広い空間が広がっていた。
そこには黒い甲冑を来た男と数人の黒いフードを被った男たちが居た、セリカは聞き耳を立てる。相当な距離はあるが広い部屋なのか、会話が聞き取れた。
「これがギルバインの街で有名になっているというゴーレムか」
「へへへ、そうです。こいつは魔王軍の皆様が使役しているゴーレムと違い、喋り自分の意思を持っているゴーレムなんですよ」
「どうだ、解析出来そうか?」
「わかりません。噂は聞いておりましたがそれが本当ならとんでもない発見です。この遺跡群でもそういったものは見つかっておりません。恐らくは我が魔王軍でもそういったゴーレムが居るとは聞いておりません」
「この球体が本体と言っていたな」
この口調とあの黒い甲冑、ステインがそこに居た。それにハーマンも居る。
これではっきりした、ハーマンが手引きしてミルキィを魔王軍に売り渡したのだ。セリカはこの現状を見て憤りを感じた。
「嫌な気分だぜ、ギルバインの商人が魔王軍と繋がっていたなんて」
ミルキィは球体の状態にされ、台の上に乗せられている。周りには黒いフードと被った学者らしき人間が取り囲んでいる。
さらに隣の台にはミルキィのボディがバラバラになって置かれている。
「ミルキィ……!」
セリカは小さく唇を噛み締めて呟いた。もちろん向こう側の奴らに聞こえない小声で。
ミルキィの姿は無残にもバラバラにされている、それだけでセリカの怒りは頂点に達しようとしている。
「我が魔王軍のゴーレム部隊に加える、早く分析をしろ」
「ステイン様、あの話ですが」
「なんだお前を魔王軍に加えるという話か。良いだろう私からレーデン様に取り合ってやろう」
「へへへ、これからもお力になりますぜ」
「しかし、どういうゴーレムなのだ。このようなゴーレム私も初めて見る」
「商人ギルドの連中から聞いた話ですが、このゴーレムを造った人間がおりまして、そいつの名をレプロスと言っておりました」
「レプロス?」
「ええ、ギルバインの役所でも商人ギルドでも、その名前を聞いたことはありません。どのような者なのか」
「レプロス・ロスか?」
セリカはその言葉に衝撃が走った、まさかレプロス博士の名前を魔王軍から聞く事になるとは。
「さあ、そこまではわかりませんが確かそのような名前で探しているようです。あとマーリーという名前の孫娘が居たという事です」
「アーデルハイド公国の特級技師にそのような名前の男がいたという話は聞いた事があるな。確か覚醒者の研究をしていたはずだが」
「そうだったのですか、さすがステイン様」
「レーデン様から聞いた話だ。私が直接会った訳ではない」
アーデルハイド公国の特級技師。
すべて初耳だった、ギルバインの商人ギルドの情報網さえわからなかった。まさか魔王軍のステインがこれほどの情報を持っていたなんて。ステインはどのような男なのか。
セリカには理解できなかった、どうしてそこまでの情報を魔王軍が持っているのだろうと。
「レーデン、レーデンってあの魔王軍四天王の事か」
ゴードンが小さく呟いた。
「ふん、まあいい。俺は一度レーデン様の元に戻る。ハーマンお前はここに残りゴーレム技師にありったけの情報を話せ」
「はは!」
ステインが踵返す、このままでは鉢合わせしてしまう。セリカたちは足音を立てず、そして足早に近くにある小部屋に逃げ込んだ。
小部屋前にある通路をステインの足音が通り過ぎていく、やがてその足音が聞こえない程までになってようやく安堵の息を吐いた。
「さて、どうするかね」
「ああ、まさかこんなとこでミルキィの情報が手に入るとは。さっきステインの野郎が話していたレーデンってのは魔王軍四天王の一人だろうよ。まさかこんなとこで」
魔王軍四天王レーデン、名前はだけは聞いた事があった、どのような者かはわからないが覚醒者であり、噂話程度では強力な再生能力を持っているという。
敵から受けたダメージを瞬時に回復出来る尋常じゃない再生能力、味方にとってはこれ以上ない程の心強いが敵対した際の絶望感は凄まじいと思えた。
「魔王軍の話を今しても仕方ない、とにかくミルキィを助け出そう」
セリカは二人の顔を見合わせた、二人はゆっくりと頷いた。
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