十六、自分の無力さを呪うがいい
拘束されたセリカたちは魔王軍が用意して馬車に乗せられた。
大雨の中、馬車は走る。セリカはステインが乗る馬車の荷台に縄で縛られ、さらには猿轡をされ床に転がっていた。周りには覚醒者らしきが黒いフードを被った男が四人座っていた。
「風の魔法を使うんだったな。一度でも使ってみろ、お前の仲間の命は無いと思え」
ステインはそう言った。この男は本気だ。兜被っているため顔は見えないしかしその身体から出る圧力は、それを本気だと感じさせた。
ミルキィは、起動スイッチは切られ、球体とボディに切り離された。ミルキィのスイッチさえ入れればなんとかここを抜け出せるかもしれない。しかしそれにはマスターである自分が自由になる事が最優先である。セリカは拘束されつつも、思考を巡らせた。
「へへへ、しかしいい女ですね」
「エルフィ大陸に行けば、こんな綺麗なエルフが選り取り見取りらしいぜ」
「まあアジトにつくまで辛抱だ。ステイン様が楽しんだ後、おこぼれを頂戴出来るかもしれねえ」
男たちの卑猥な会話が耳につく、セリカは吐き気がしてきた。こんな男どもに蹂躙されるのか、それともまだ何かに利用されるのだろうか。セリカは男たちを睨む。
しかしそんな卑猥な男たちの会話を遮るように甲冑の男の声が聞こえた。
「お前たち、いい度胸をしているな。我ら魔王軍の貴重な研究材料をそういう下卑た目で見ているとは」
「い、いや、ステインさん俺らそういうつもりじゃ……」
「では、どういうつもりだ。私を愚弄する気か! 私は魔王軍四天王が一人レーデン様に忠誠を誓う者、お前ら下卑た発想の者共と一緒にするな!」
「は……失礼しました!」
仲間割れか。どうせならもっとやってほしいと願うものの、このステインという男の言葉に全員が笑みを止めた。
「おい、エルフ。変な気は起こさない事だな。お前はあのゴーレムの研究材料のひとつだ」
セリカはステインを激しく睨んだ。ステインはセリカを見ようともせず、そのまま話を続けた。
「そう睨んでももうお前には何もできまい。自分の無力さを呪うがいい。あのゴーレムを解析し、我ら魔王軍のゴーレム隊に加えてやるわ」
セリカは自分の無力さに打ちひしがれた。セリカの瞳からはまた涙が零れた。後ろに見える馬車に居るミルキィに心からの謝罪を何度も繰り返した。
(ごめん、ミルキィ。本当にごめん)
馬車は激しく揺れながらまだ進んでいる。
ガガオとゴードンは別の馬車に乗せられていた。
ガガオは耳を澄ます。周りに他の馬車の音がしない。とはいえ、この大雨の中、もしかすると近くにいる可能性もある。縄さえ何とか出来れば馬車を奪い逃げられるかもしれない、ガガオはそう考えていた。
二人は後ろ手に、手と足を縛られており、猿轡をされている。しかも馬車には黒装束のローブをまとった従者が二人手綱を握っている。この二人以外は監視する奴らも居ない。
どうやらガガオたちの馬車が最後列のようで、後ろにも馬車は無い。
縄を切ることが出来れば馬車を奪い、逃げられるかもしれないとガガオは考えていた。
「ん!」
「んん?」
隣で仲良く転がっているゴードンがガガオに何か合図を出す。しかしガガオはそれが何の合図なのかさっぱりわからない。必死に猿轡を外そうとするガガオだがきつく縛られており何も喋る事が出来ない。
「んんん!」
「ん??」
そういうとゴードンは身を捻じる。ガガオに背中を向けたいらしい。何やってんだか、このおっさんドワーフは、短い手足で何をしようと。
そう思うガガオがゴードンの真意がようやく読み取れた。
「ん!」
ガガオはゴードンと身体を捻じり背中を向ける。二人は手足を縛られている、しかし監視の目は無い。お互いが背中合わせになれば縄を解けるのだ。
ガガオは少しだけ動く手でゴードンに合図を送る、早く解いてくれ、そしたらおっさんの縄を解き、馬車を奪える。
ガガオが合図を送るも、ゴードンからの合図は無い。どういうことだ、縄を解いてくれるっていう合図じゃないのか、ガガオは首を捻じりなんとかゴードンの背中を見る。
当のゴードンは手を『早くしろ』と言わんばかりにバタバタさせている。
『いや俺のを解くんじゃなくて、俺が解くのかい!』とガガオはゴードンの手にかかる縄に手をかけた。
かなりきつく縛られている。時折、揺れる馬車の中で、なぜか仲良く手を繋いだりする場面もあった。縄を解く作業は慎重にならざるを得ない。一度バレてしまえば、今度はお互い向かい合わせで縛られそうだ。ドワーフの親父と向い合せなんて、まっぴらごめんだとガガオは思った。
揺れる馬車に、従者たちが喋り出した。
「全く、ひどい雨だな。道がぬかるんでいる。もう少し速度を落としたらどうだ」
「そうはいかんだろ、ステイン様のアジトまではまだかかる。こんな小悪党でも、あのゴーレムの役に立つかもしれん」
「ま、そうだな。ステイン様はああ見えて騎士道を重んじているからな」
「そうだ、さっきのハーマンってやつはどうした?」
「あのゴーレムと一緒の馬車だ」
「あのエルフは、ステイン様の馬車か」
「ああ……涎が出るほど、いい女だったな」
二人の従者はセリカの話題で持ち切りなようで、魔王軍も所詮男どもの集まりって事か。
ガガオは二人の会話を聞きつつも、ようやくゴードンの縄を解いた。
すぐさまゴードンはガガオの縄を解く。今振り向かれたらすべて水の泡になる。
ゴードンは悟られぬよう静かにガガオの縄を解く。
「なあ、ステイン様のアジトまであとどれぐらいだ?」
「もうすぐだろ、朝までには戻れるさ。ただこの雨じゃ朝日は拝めないだろうがな」
従者の一人が空を見上げた。
そして上がらぬ雨に『ふう』とため息をついた。
「いや、お前らはここで降りてもらうぜ!」
「おりゃ!」
ガガオとゴードンは馬車に積まれていた角材で二人の従者を殴り飛ばした。ひるんだ隙にゴードンは従者たちの武器を取り上げる。
素早く武器を構えたゴードンは手綱をガガオに任せ、二人の従者を馬車の中に押し込んだ。
「おっと、動くなよ。よくもわしらを騙しやがったな」
ゴードンは従者たちの顔に短剣を突きつけ、それをチラつかせた。武器を取り上げられた従者たちは降参したのか、手を上げ身体を強張らせた。二人の従者は下っ端なのか抵抗する素振りを全く見せなかった。
「たたたた、助けてくれ。俺には女房と子供が居るんだ」
「さて、どうしましょうかね」
ガガオは手綱を握りながら、ゴードンに目で合図を送った。
ゴードンは握りしめた縄を持ち、ニヤリと笑った。
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