十五、魔王軍
後ろ手に縛られセリカたちは、隠し持っていた武器も奪われ拘束された。
大雨が視覚と聴覚を遮る、男たちもフード被り表情はわからない。しかしわかっていた、その男たちは本来守るべき対象たちだったという事を。
拘束されたセリカを見るやミルキィは戦闘態勢を解除した、ミルキィも大きめの鎖で繋がれ行動不能に陥った。
「理解出来ません。セリカ様をお放しください」
ミルキィはただその言葉を繰り返した。なんて従順なゴーレムだろうか。不甲斐ない自分をセリカは責めた。同じく囚われたゴードンとガガオも同じのようだ。二人は悔しさのあまり拘束される間でも男たちに悪態をつきまくっていた。
降り続く雨の中、セリカたちはハーマンが居る小屋の中へ連行された。
小屋の扉が開くとハーマンが居た。その小屋はセリカたちが小屋よりも広く、簡素なテーブルを囲んでソファーが並んで、そのソファーにはハーマンとその従者が座っていた。
ハーマンは下卑た笑いを浮かべ、祝杯でもあげていたのか手にはグラスを持っていた。
「待っていたぞ、この瞬間を」
ハーマンは立ち上がり四人に近づいた。そしてハーマンはセリカの顎を掴み、涎を垂らしながら卑猥な笑みを浮かべている。
「触るな!」
「何度見ても上玉だな、冒険者にしておくのは実に勿体ない」
「汚い手で私に触るな!」
ハーマンから笑いが零れる、ハーマンが吐いた臭い息がセリカにかかりセリカは顔を歪める。
「何が起きたって顔だな、ゴードン」
「ああ、お前は前から気にいらなかったが、今度ばかりはやり過ぎだな。こんな事をしてわしらの冒険者ギルドが黙っちゃいないぜ」
「ま、そうだろうな。商人ギルドも今回の件で俺を排除するだろう」
「それだけじゃねえ!冒険者ギルドで賞金首になるだろうよ! アーデルハイドだろうが、ドワーフの国だろうが、どこへ逃げても冒険者ギルドはお前を追いかける!」
「ははは、そうかそうか。それじゃどこかに鞍替えしなきゃな」
「てめえ、何言って」
小屋の奥から何者かが歩いてくる、黒いフードと黒いマントを纏い、甲冑の音が聞こえる。奴はゆっくりと三人に近づいた。
黒い甲冑に背中に背負った分厚い両手剣、その歩き方だけでわかる。この男は強い。
セリカだけではない、ゴードンもガガオもそれに気が付いていた。
黒い甲冑はフルプレートで装備するだけで、相当な胆力を要する。それを纏いながらこの歩み様。凄まじい強さ。それがわからないセリカたちではない。
ゆっくりと近づく、その一挙手一投足に三人は言われもしない恐怖感を覚えた。こんな男は初めて見る。漂う殺気、恐らく覚醒者でもあるだろう。そのひとつひとつからセリカたちとの戦力差が伺い知れた。
「このゴーレムか」
「な!」
「なんだと!目的はミルキィか!」
セリカは男が口にした言葉が理解できなかった。甲冑の男はミルキィに近づき値踏みをするかのようにその姿を見上げた。
「はい、こいつは喋るゴーレムで、ギルバインの街で有名な今や知らぬものはおりません」
「てめえ! 嵌めやがったな! 最初から俺たちをダシにミルキィを捕まえる事が目的だったのかよ!」
「そうだ、馬鹿だなお前は。お前のような意地汚いヒューマンにそんな儲け話をするわけがないだろう」
「この守銭奴! バガガオ!」
「なんだこのおやじドワーフが!」
甲冑の男は、ガガオとゴードンの会話を無視し、ハーマンと話を続けた。
「ハーマンよ、このゴーレムは貰っていく。良いな。我が魔王軍で研究させよう」
「は、問題ありません。私の調べではゴーレムの頭部に起動スイッチがございます」
「な、なんですって!」
「ステイン様、このゴーレムはこのエルフをマスターとしております」
「ふむ、それではこのエルフは必要か。そこの汚い二人は?」
「汚くない!ちゃんとトイレ言った後手を洗ってるわい!」
「は、私の調べでは何の関係もありません」
「あるわ、ボケ!俺はミルキィちゃんの親友だ!」
甲冑の男はガガオの腹を蹴り上げた。ガガオは苦痛に顔を歪め、痛みに苦しんだ。
「ちきしょ……」
「私の仲間たちに暴行はお止めください」
甲冑の男とハーマンは驚き、言葉を失った。
「ははは! 思っていたよりも凄いゴーレムだな、こいつは。この人間たちの感情でも持っているのか。こんなゴーレム、我が魔王軍でも初めて見る」
「ま、魔王軍……」
「この期に及んでまだ状況が理解出来ないらしいな。エルフとはどこまで呑気な種族なのだ。ここまでくると一興ものだな」
「ええ、良いのは見た目だけですな、エルフは」
ステインと名乗る黒い甲冑の男とハーマンはセリカを、それを笑った。
やはり、そうだったか。
セリカは自分の不甲斐なさに心底嫌気がさした。ギルバインの街で有名になり意思を持ったゴーレム。敵対する人間側にそれが居る、それが魔王軍にとってどれだけの脅威になるのか。
普通に考えれば簡単な事だ。魔王ギデオンは世界でも強国とされる軍事国家エブレールを真っ先に陥落させた。そして世界にある古代遺跡を居城としている。
脅威となる存在を滅ぼし、古代戦争の引き金となった文明をわが手に入れたのだ。その中でも見つかっていない意思を持った喋るゴーレムを魔王軍が放っておくわけはない。
逆に考えれば、それが脅威となるかならないか、それを確かめる必要もある。もし利用出来るのであれば自軍に加えたい、そう思うのは不思議ではなかった。
セリカは心底悔しかった。悔しさのあまりかみしめた唇から血が出た。
自分の至らなさがこの一件を引き起こした。ゴードンやガガオも同罪と言えるが、ミルキィのマスターはセリカである。マスターである自分がもっとミルキィの事を考えてあげるべきだった。
人間の敵じゃない。戦闘用ゴーレムじゃない。ただそれだけでミルキィにただ守られている存在。ミルキィの力ならこの状況を突破する事は可能だろう。しかしそれは決してしない。マスターである自分が囚われているからだ。
ミルキィの足かせになっている、それがセリカには悔しくて仕方が無かった。
悔しい、悔しい、悔しい。
セリカの大きな瞳に涙が滲んだ。
「セリカ様」
さすがのミルキィもこの状況が理解出来たらしい。いつもの歯切れのいいミルキィも言葉を詰まらせた。
「ごめん、ミルキィ。私のせいだ」
セリカは涙を浮かべミルキィを見つめた。ミルキィは表情?ひとつ変えず、答えた。
「セリカ様は泣かれる何かをされたのでしょうか」
「ふ、マスターとゴーレムの物語か。泣けるな。おい、さっさと起動スイッチを切れ」
黒い甲冑の男、ステインはハーマンの従者に命令し、ミルキィの頭部にあるスイッチをオフにさせた。
「お止めください、お止め」
ミルキィは停止した、頭部に光る青いモノアイが消えた。
「ごめん、ミルキィ。本当にごめん……」
セリカの瞳から大粒の涙はしばらく止まることは無かった。
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