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十三、機能を向上させました

 ウォッカ鉱山。

 数あるギルバイン鉱山の中でもとりわけ珍しい、アーデルハイド公国が所有する国有地である。


 一口に鉱山といっても様々で大規模なものはそこで暮らす鉱夫たちの住居や精錬所まで設ける場所がある、それは一つの町と言っても良い。しかしギルバインの殆どは比較的街から近い距離に位置しており、その日ごとに雇われる日雇い労働者が多い。


 孤児院に住んでいる子供たちの大半は、成人したら鉱夫になると思われる。ギルバインの鉱山は特殊で、掘り当てた人間に数割の報酬が得られる。そのため良い鉱山程日雇い労働者が群がる寸法だ。


 労働意欲を高めるこの方法だが、これが労働者に実に好評で日雇い分と合わせて特別報酬が得られる話は魅力的に映る。

 しかし鉱山での採掘には危険が伴う。無作為に掘るわけにもいかない、労働者は指示された場所で採掘を行うが坑道内は地熱の影響で奥に進めば進むほど暑く、地下水が湧き出るため排水設備にも労働力を必要とする。坑道内にトロッコを用意し、採掘した鉱石を外運び込む設備も充実している。


 ギルバイン鉱山の殆どは商人ギルドが所有しており、それぞれ担当に分かれた商人がそれを指示し、採掘を行う。それに見合った坑道の知識や地質調査も行わなければならない。

 そこで必要となるのが覚醒者の能力だ、彼らの力を使い鉱石の在りかを探り、能力で掘り進めることあると聞く。鉱山に必須な覚醒能力を得ているものは待遇も良く商人ギルドでも上位に位置する。ドワーフは鉱山知識に富み、さらに多くは鉱山関連の覚醒能力を有している事が多い。

 戦闘能力には役に立たない能力でも、その筋では一流と言える。もちろん土の魔法が使えるのは便利な事だが、そんな不安定な冒険者よりも商人ギルドに入り鉱山関連の仕事の方が遥かに稼げる。


 一方のウォッカ鉱山はアーデルハイド公国の国有地であるため、それらの委託をすべてハーマン一人が請負っている。一人でそれを行うにはどれほど大変な事なにか、セリカには想像できなかった。


 ガガオの話では小さな坑道ため、一人でもなんかとやりくり出来るのだろうと言っていた。


 ウォッカ鉱山までは馬車で一週間の道のりだ。ギルバインの街からかなり遠い。

 本来なら正式に冒険者ギルドに護衛依頼をかけるべきだが、毎回この往復二週間を護衛料は安くない。それに毎回強盗に襲われているという事で余計に冒険者ギルドは怪しんでいるという話も聞いた。



 ハーマンと対峙したとき、セリカは何か嫌な予感がした、ドワーフ特有の恰幅のいい身体に短い手足、しかし眼光は鋭く、身にまとっている服もブランド品のように見えた。

 ギルバインの商人と大差はない。眼光の鋭さであればザーハの方がもっとギラついているように思えた。しかしその鋭い眼光はセリカたちに向けられている訳ではなく、ミルキィをずっと見ていた。


「お前が噂のゴーレムか、今回の護衛引き受けてくれて助かった。今、坑道の奥を掘らせていてな、良質の鉱石が見つかったらしい。これ以上夜盗に奪われたらアーデルハイド公国の高官にまたなんて言われるか」


 ガハハと大口を開けて笑うハーマン、ギルバインの街に住んでいればドワーフと話す機会は少なくない、むしろエルフであるセリカの方が珍しい。

 ハーマンは話半分ですぐさま用意していた馬車に乗り込む。馬車は三つ、ハーマンが乗る馬車と大きな荷車を引いた馬車、それにセリカたちが乗り込む馬車だ。ハーマンの馬車とセリカたちの乗る馬車で荷車を引いた馬車を守る寸法だ。


 ウォッカ鉱山までは馬車で一週間、何事も起きなければいいとセリカは思った。三日は整備された街道を進み、そこから山を越えていく予定である。


 用意された馬車は一般的な四輪の馬車ですべて木造りである。馬車の前後は開いており、布で締め切る事も可能だった。しかし護衛の依頼なので常に開けておく必要があった。

 馬車の中には簡単な荷物が運び込まれている、セリカたちが事前に用意した食料、調理器具、寝具それらが詰まった木箱がいくつか並んでいた。セリカたちはこの馬車で寝泊まりしながらハーマンとその荷車を守るのだ。


 馬車の足は遅いものの徒歩で行くよりかはずっと早い、しかし馬車にミルキィは乗れないため、セリカたちの馬車の後ろをミルキィは追いかける形となった、


 揺れる馬車の中にはセリカとゴードンがいた、ガガオは馬術の心得があるので手綱を握っていた。


「しかし揺れるな」

「安物の馬車だぜ、これ」

「これじゃ酒がこぼれるわ、おいガガオもっと丁寧に走らせんか」

「無茶言うぜ、なんなら代わってくれよ。道中全部に俺に走らせる気かよ」


 街道は整備されているとは言うものの、その道に凹凸が無いわけではない、それに時折ひっかかり馬車が大きく揺れる。まだ一日目というものの、ゴードンとガガオは相も変わらず仲良く悪態をついていた。


「ねえ、ゴードン、本当に上前品を盗むの?」

「なんだセリカ、いっちょ前に正義感が邪魔するのか?」

「全部、頂くわけじゃねぇ。ちょびっとだ、ちょびっと」


 手綱を握るガガオも二人の会話に参加する。背中越しからか少し声が大きい。ハーマンに聞こえないかと少し心配するせりかだったがハーマンの馬車は扉が閉められており、間を挟んで荷台を積んだ馬車もある、また馬の蹄や馬車の車輪の音も大きくこの距離なら聞こえないであろうとセリカは思った。


「正式な依頼ならもちろんご法度だが、ザーハの話じゃハーマンの野郎相当上前をはねていると聞く。少しばかり頂いても問題あるまいて」

「今回の依頼は冒険者ギルドも商人ギルドも関わっていない。任せろ悪いようにはせんよ。それとも何か、分け前は欲しくないのか。お前だって金が要るんだろ」

「そりゃそうだけど」

「ミルキィの廃墟を盗掘しといて、良く言うぜ。今更聖人気取りかよ」


 そういうつもりはない、セリカにも生活がかかっている。孤児院にもお金を届けたい。それが少し汚いお金であっても。ただミルキィの力を奮う事に後ろめたさがあった。


 ミルキィがそれを望んでいるようには感じなかったからだ。いやしかし、そもそもミルキィの意思などないのだ。しかし時折何かミルキィに感情があるように思えてしまう。

 ミルキィはただのゴーレムではない、それはわかっていた。ただ先日の強盗騒ぎの際にセリカはミルキィに行くなと命令したはずだった。しかしミルキィはそれを拒否した。

 つまりミルキィはある程度意思を持っているというのではないのか。

 そんな事を考えるうちに、その日は暮れていった。



 朝、セリカは馬車の中で目を覚ました。

 狭い馬車の中で寝たため、身体がこわばっていたセリカは大きく伸びをする。ゴードンが昨夜見張りを勝手出てくれたため、ゆっくりと眠る事が出来た。まだ重い瞼を開けるため、かけた毛布を畳みまだ寝ているガガオを横目に馬車の外に出る。


 馬車を降りた目の前にミルキィとゴードンが焚火を囲んで座っていた。その近くにはハーマンの召使が三人、別の焚火を囲んでおり、いずれもそれらの馬車に乗っている事は知っていた。


「おはようゴードン、何か変わりは無かった?」

「おう、特にない。ここは街道の脇だからな。人気もある。こんな場所で仕掛けてくる馬鹿は居ない」


 それもそうか、ゴードンが見張りを勝手出てくれた意味が少し理解出来た。

 目線をミルキィに戻す、ミルキィの姿にセリカは少し驚いた。


「ミルキィ、その腕どうしたの?」


 ミルキィの腕の大きさが変わっている、一回り大きくなっている気がした。


「機能を向上させました」


 ミルキィはゴードンの足元にあるコップを拾い上げ、セリカに手渡した。


「暖かいお茶をどうぞ」

「え?」


 ミルキィは手渡されたコップに指を差しだし、そう言った。

 するとミルキィの人差し指がパかッと割れそこから液体が注ぎ込まれた。


「い、いつのまにこんな機能を」

「な、セリカの奴驚くって言っただろ」


 ゴードンはガハハと笑いながら、焚火に木をくべた。焚火を見ると朝ご飯なのか野兎が丸ごと焼かれている。その野兎の丸焼きの焼ける匂いがセリカのお腹を鳴らす。


「このウサギ、さっきミルキィが捕まえてきてな、もうすぐ焼ける。そろそろガガオを起こしてきてくれ。まだ焼いてないがあいつの分もあるぞ」


 ゴードンはそう言い、目線を足元に送る、ミルキィの足元には何匹もの野兎が見られる。


「先ほどハーマン様と向こうの方々へもお渡ししてきました。こちらは後で捌いて保存用に致します」


 便利だ、セリカは普通に関心をした。きっとレプロス博士もマーリーもこのミルキィを造り一緒にこんな生活していたのだと思う。

 セリカたちは普段は宿屋暮らしのため野営の準備もいらないし、狩りをする必要もない。しかし三人が暮らしていた森の奥ではこういった技術も必要だったに違いない。

 そのためミルキィは狩りや調理、身の回りの世話などに特化していたのかもしれない。


「旨そうな匂いがする」


 眠そうな目をこすりながら、ガガオが起きていた。

 その後、三人は簡単な食事を済ませ、また馬車に乗り込んだ。

 当のミルキィはまた後ろからついて来ていた。



 ミルキィの動力源は一体なんなのか、セリカはそれを聞いたことがある。


『私は、太陽光をエネルギーとしています』とミルキィは言っていた。


 植物みたいだな、とガガオは笑ったが確かにその通りかもしれない。

 セリカが生まれ育った里でもゴーレムを使役していたエルフがいた、そのエルフもゴーレムをよく日光浴させていた、泥と土に命を吹き込み精霊の加護によって造られたゴーレムでも無尽蔵という訳にはいかない、しかも造り出す際には相当な魔力を消費すると言っていた、つまりレプロス博士は魔術師か何かだったのだろうか。

 しかしドワーフであるゴードンらの知るゴーレムとはまた違う、ドワーフのゴーレムたちは粘土を使い、体内に魔石を埋め込み、それをコアとして動く。

 コアとする魔石の種類によってゴーレムの性能は大きく違い、土木作業用や力仕事などをさせたりするようだ。

 古代遺跡から発見されるゴーレムにしてもそうだ、遺跡を守る守護者として指示だけはさせるものの、その遺跡が崩れていようが関係ない、命令された指示に違反したものだけを排除するのだ。



 ミルキィには自分も知らない機能が多く存在する、先日の強盗事件のときの指を発射する武装もセリカは知らなかったし、先ほどの指からお茶が出るのも全く指示していない。

 しかしミルキィに聞いても、具体的に答えてくれない。


『私は自己進化をするプログラムが組まれておりますので』


 と、はぐらかされる。そのあと何度聞いても同じ答えしか返ってこない。そんなときばかり従順なゴーレムのふりをしている気がしていた。

 いや、マスターならその辺教えてくれてもいいでしょ、やはりミルキィ自身が言った、『仮マスター』登録なのだろうか、セリカはそんな気がしていた。



 セリカたち一行が鉱山地帯を登り問題のウォッカ鉱山に到着したのは、ギルバインから出発して七日目の事だった。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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