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十二、とびきり儲かる仕事

 ギルバインの早朝に発生した宝石強盗は、駆け付けた憲兵団によって取り押さえられた、彼等はやはり覚醒者であったらしく、商人の不在を狙って盗みを繰り返す常習犯であった。


 宝石商、ハーマンの店は何度も強盗に遭っており、夜は冒険者に依頼し警護をつけていたため、早朝を狙ったのだという。

 強盗団を捕まえたミルキィはセリカに連れられ憲兵本部へ行き、そこで事情聴取を受けた、その際に強盗団の一件を聞かされた。早朝に強盗という違和感はそこにあったとセリカは納得した。


 憲兵団の事情聴取は簡単なもので終わった、その日の午後には解放され、宝石強盗を退治した噂は瞬く間に広がった、それは闘技場の一件を凌ぐ速さで。



 定宿に戻ったセリカたちをゴードンが待っていた。

 ゴードンは店の一階にある酒場に座っていた、この酒場は日中定食屋も営んでおり、セリカたちの憩いの場でもあった。

 セリカはゴードンに近づき、近くの椅子に腰を掛ける。ゴードンはすでに一杯やっている。また昼間っから飲んでいるのか。このドワーフは武器よりも酒瓶を持っている時間の方が遥かに長い、セリカはそう思った。


「ようセリカ、ミルキィ。お疲れさん」

「ありがとゴードン。あー、疲れた」


 セリカは目の前にあるテーブルに突っ伏した。


「はっはっは、しかしミルキィ、お前さんは本当に目立つな。商人ギルドに居たわしの耳にも届いてきたぞ」


 ミルキィは『恐縮です』と言いながら、頭に手を添えてペコリと会釈をした。


「本当だよ、まさかあんな事になるなんて」

「まぁ、そう言うな。あの店はハーマンの店だ。商人ギルドでも奴の顔の広さは有名だ。これでまたミルキィの情報も得やすくなったかもしれない」

「なるほど、そうだったのですか」

「さあな、あいつはドワーフだが元々はアーデルハイドから来た商人だ、ギルバインはアーデルハイド公国の都市だ、恩を売っておいて損はないはずだ」

「恩を売るね、その当の本人は一体どこに居たんでしょうね」

「ま、あそこはハーマンの支店だからな、奴も忙しい身だろうて、今どこにいるのか。とはいえ奴がギルバインに来た時には報酬の一つでもくれるかもしれないぞ」

「今すぐほしいよ、その報酬」

「なんだ、今日も依頼無しか」


 セリカはゴードンの顔を見て深くため息をついた。


「んで、ゴードンはどうだったの、ミルキィの情報、何かあった?」

「いや、今朝もザーハに会ってきたが、まだ何もなしだ。ま、焦らず探していこう」

「そうね」


 セリカはテーブルに突っ伏しながらゴードンの話を聞いた、

 するとセリカの目の前にコップが置かれた、ミルキィが頼んで水を持ってきてくれたみたいだ。


 ミルキィを見つめ、にこりと微笑んだ。そのあとコップを手に取り喉を潤した。

 少し癒されたセリカはふと外を眺めた。


「平和だねー」

「今朝、宝石強盗に遭ったばかりじゃないか」

「確かに、そだねー」


 すると店の外から奇声が聞こえた。男の声、甲高く、うるさい。

 こんな声を発するのは、この街で一人しかいない。


「ミルキィちゃーーーーん!」


 セリカとゴードンは、深くため息をついた。

 ガガオだ、道の向こうから走ってくる、すごい勢いで。途中で転べばいいのに、とセリカは思った。と、思っていたら店の前でガガオは転んだ。頭から。セリカはそれをみて噴き出した。


「イテテ」

「全く……本当ドジだね。それでも冒険者?」

「うるさいよ」

「ってか、何そんなに急いでいたのよ、仕事ならないよ、今日も依頼は貰えなかった」

「へっへっへ、やっぱりエルフの小娘じゃ、その程度だろうよ」

「何よ、この前の護衛の依頼だって私が取ってきたんだから!」

「まあ、聞けよ。とびきり儲かる仕事、持ってきたんだぜ」

「なに、またミルキィへの取材依頼? お断りよ、目立って仕方ないんだから」


 ガガオがニヤニヤしながら、テーブルの前に懐から出した袋を置いた、見たところ重量感がある。きっと重いものが入っているのだろう。


「これ、なーんだ?」

「何よ、これ、え?」


 セリカはガガオが置いた袋を手に取った、チャリチャリと音がする、この質感、この音。それは銀貨だった。それも袋いっぱいに詰まっている。セリカはゴードンに目をやり泣きそうな表情を浮かべた。


「ちょ、ガガオ!私たちのルール忘れたの!」

「ガガオ!わしらは確かに貧乏だが、やっちゃいけない境界線ってのがあるんだぞ」

「君たちね、どんだけ俺の事信じてないのよ」

「信じられるわけないでしょ!」

「早く返してこい!いや今から憲兵団のとこに行くぞ!」


 セリカとゴードンに詰め寄られてもガガオの表情は変わらない。


「んじゃ説明しましょ、この大金は前金だ。女将さん、二階の部屋、ちょっと借りるぜ」


 ガガオは銀貨の詰まった袋をゴードンから受け取り、二人を促した。二階へ行くぞと首で合図。二人は不安を抱えつつも、ガガオに従った。



 定宿の二階には、セリカたちの部屋と一つだけ空き部屋がある。その空き部屋は窓も無く、落ち着いて話すにはもってこいの場所だ。

 三人は、ミルキィを連れその部屋に入った、ガガオは静かに扉を閉じる。

 部屋には大きなテーブルをソファーが囲んで置いてあり、さらに身体大きいミルキィが部屋に入っても十分なスペースがあった。

 三人はそれぞれいつもの場所に座り、ミルキィは扉の前に佇んでいる。


「それで?その大金はどこから手に入れた」

「ここなら落ち着いて話せる、それに誰にも聞かれなくないんでね」

「どういうことだ」

「ま、順を追って説明するぜ。ミルキィ、扉の外に誰か居ないだろうな?」

「はい、人の気配はありません」


 ガガオは再び懐から袋を取り出しテーブルの上に置いた。


「ミルキィ、今朝宝石強盗を捕まえたらしいな」

「はい、強盗団の五人を捕まえました」

「その強盗団が押し入った店の名前は憶えているか?」

「宝石商のハーマン様と憲兵団の方々からお聞きしました」

「その宝石商から頂いたわけよ」


 セリカはガガオの話を静かに聞いていたものの、不審な点が引っかかる。


「いやガガオ、お礼にしちゃ相当な金額じゃぞ。それにお前は先ほどそれは前金だと言っとっただろ」

「そう、これは前金だ。つまり俺らへの依頼って訳よ」

「依頼?依頼じゃと?どうして冒険者ギルドに頼らない。奴も商人ギルドを利用する商人の一人だろ。各ギルドのルールをわからない程馬鹿ではあるまい」

「んじゃ、そのへんを今から説明するぜ」


 ガガオは懐から煙草を取り出し、火をつける。ガガオは静かに語りはじめた。


 話はこうだった。

 宝石商のハーマンはかなり前から強盗に狙われていた。しかも一度や二度ではないらしい。その証拠に今日もギルバインに設ける宝石店の支店が襲われた。

 しかし今日のように早朝に狙われたのは初めての事で、ハーマン本人も気が気ではないらしい。

 今後は冒険者ギルドに依頼し、日中も警護を依頼するしかないと頭を抱えている。


 店の方はそれでなんとか凌げるとして、問題は鉱山からの輸送ルート、それの安全性の確保だった。


「いやちょっと待て、どうしてハーマンの馬車だけが狙われる話なんだ?街道を行き来する場所は奴のだけではない」

「そこにこの大金が絡んでくるわけよ、おやっさんウォッカ鉱山を知っているかい?」

「ウォッカ鉱山?あそこはギルバインの人間の立ち入りは禁止している国有地だ」

「そう、数多くあるギルバイン鉱山の中でもとりわけ珍しい国有地だ。ハーマンの野郎はアーデルハイド公国からの依頼で、そのウォッカ鉱山から採掘を依頼されている。」

「なるほど、そういう事か」

「さすが元商人だな、おやっさん」

「え、どういうこと?」


 ギルバイン鉱山と一口に言っても、金山、銀山、銅山、宝石などと非常に多く点在している。未開拓の鉱山も存在するという、しかしそのほとんどがギルバイン商人の所有地である。ギルバインの鉱山商人たちは街で鉱夫を雇い、鉱山で採掘された鉱石を流通させその報酬で暮らしている。


 その中でもウォッカ鉱山は珍しいアーデルハイド公国の国有地、しかし自分たちで鉱夫を雇い管理運営をするには莫大な費用がかかる、国としては少ない費用でそれを行いたい。

 そこに現れたのが宝石商のハーマンだった。ハーマンはアーデルハイド公国の高官に話を持ち掛け、少ない費用でその採掘作業と公国までの輸送を一手に引き受けていた。

 つまり鉱山運営の委託を請け負ったのだ。


「それはわかったけど、このお金とその委託に何の関係があるの?」

「だからよ、ハーマンは鉱山運営を一手に任されたわけだ。全部、全部な」


 ガガオの説明じゃ到底理解できなかった。セリカはゴードンに視線を送った。


「鉱山で取れた宝石をアーデルハイド公国に全量送らずに、自分の店で売りさばいて利益を得ている、という事か」

「ええ!」

「あの強盗団だってそれを知ってハーマンの店を襲ったに違いない。あのハーマンが上前を撥ねている事を誰かが知っているってわけだ。商人同士、表じゃ仲良く徒党を組んだりしているが裏じゃ誰を蹴落とすかの競争だぜ。それに奴は最近、冒険者ギルドから目をつけられているらしい」

「その犯人を捜すのを私たちの依頼?」

「ぜんぜん違う、そんなもの探したって一文の値打ちもありゃしない。ハーマンは護衛を依頼してきた。俺ら四人にな」

「四人……?」


 セリカはミルキィを見た、ミルキィは静かにそこに佇んでいた。


「ウォッカ鉱山からの上前品の宝石をギルバインに運ぶ」

「それだけ?」

「へっへっへ、それだけで終わらない。護衛は護衛でキッチリお仕事するさ、ただ」

「ただ?」



 不審がるセリカを尻目にガガオはニヤリと笑った。


「その上前、すこしばかり頂戴しちゃいましょう」


 ようやくセリカにもガガオの言っている意味が理解出来た。

 ハーマンはアーデルハイド公国の委託を受け、鉱山関連の仕事を請け負っている。

 真っ当な仕事をしていればいいものを、裏でアーデルハイド公国に送るべき採掘した宝石を懐に入れている。その情報がどこかからか漏れたのか、それに目を付けた強盗は徒党と組んで毎日襲われている。

 表向きは護衛を冒険者ギルドに依頼しているものの、毎回襲われるハーマンは冒険者ギルドに目をつけられているとの事だ。怪しむ冒険者ギルドに気づいたハーマン、そんな矢先、自身の経営する宝石店にまで強盗が入る始末。

 事を荒立てたくないハーマンとしてはこれ以上中文句を浴びたくない、そこでその強盗を捕まえたミルキィに目をつけ、鉱山からの上前品をギルバインに運ぶ道中の護衛を依頼してきたのだ。


 ガガオは、その護衛の道中に、その宝石を少しばかり貰おうという事だ。


 セリカは呆れた、よくもそこまで考えたものだ。


「それによ、ハーマンからすれば俺らがすこしばかり頂戴しても文句は言えねぇ。なんせ自分もアーデルハイド公国からくすねた物だからな」

「その話、のったぜ」

「さすがおやっさんだぜ、ミルキィやるだろ?」

「私はセリカ様の許可なくこの街を離れられません」

「そういうなよ、ちょこっと護衛するだけで、こんなに大金が貰えるんだぜ」


 ガガオは手にした大金が入った袋を握った。


「新しいボディも仕立てられる、いつまでも銅や石ころじゃ恰好がつかないだろ」

「私は今のままで十分です」

「なんだよ、前金も貰っちゃってるんだから、今更出来ませんとは言えないだろ! 大丈夫だって、俺らの力を合わせれば強盗でも夜盗でもちょろいぜ!」

「少し気になるのは、ウォッカ鉱山と言えばかなりの山奥だ。近くには古代遺跡もある。魔王軍が居城になってなければ、いいのだが」

「アーデルハイド公国の国有地だぜ? 奴等もそんな馬鹿な真似はしないだろうさ。それにそんときはミルキィちゃんがやっつけてくれる、だろ?」


 ミルキィはセリカの方を向いた。


「やろうミルキィ」


 セリカは、ミルキィの顔?を真っすぐ見つめた。

 ミルキィは静かに頷いた。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 12話まで読ませていただきました。 地の文は多めですが、適時説明が入ってくるので、世界観のつかみやすいファンタジーだと思います。 孤児院の子供たちのためとはいえ、小悪党のようにお金を稼ごう…
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