十一、無力化しました
店内に入ったミルキィはまずは人数を確認した。
店内には従業員らしき人物が三人、覆面を被った男が五人。一人は手に刃物を持ち女性従業員を人質に取っていた。残り二人の従業員は怯え、柱の陰に隠れている。
全員で、八人。幸い客の姿は見えない。
開店準備を襲った宝石泥棒という事を理解した。
覆面の男たちはそれぞれに武器を携帯している、しかし現在は宝石を袋に詰め込んでいた様子で、ミルキィが現れた事に驚きを隠せず、その手は止まっていた。
分析。
ミルキィは瞬時に状況を把握した、人質の命が最優先。残りの従業員は覆面の男たちから距離もあり、すぐに危険はないと判断する。
「な、なんだ、お前は!」
覆面の男の一人が声を上げた。
「私の名前はミルキィ。すぐにその女性を離してください」
ミルキィはその声の主に語りかける、最初に声をあげた青い覆面の男は右手の宝石、左手に大きな袋を抱えている。腰には曲刀らしき武器を携帯し、すぐさま戦闘行為に及ぶ事は無い。
店の奥の方に二人の黒い覆面の男、その一人も宝石と袋を手に握りしめている。それぞれ片手剣、短剣を携帯している、これも対応可能。
残る赤い覆面の男は右手に短剣を持ち、左手で女性従業員の手を握っている。腰には片手剣を携帯している、女性従業員の手を後ろ手に、覆面の男と重なるようにミルキィから最も離れた場所。店の反対側。
即時対応の必然性。警告無視と同時に攻撃を行う、敵の無力化。
「まさか……お前、噂のゴーレムか!」
「噂かどうかはわかりませんが、私はゴーレムです。警告します。まもなく憲兵団が到着します。人質を解放してください」
初手、警告。
「ざけんな! 俺はあのダハンなんてケチな剣闘士じゃねぇ、俺たちの邪魔をするなら俺の覚醒能力を見せ」
警告無視、攻撃開始。
ミルキィは手を伸ばし、指を赤い覆面の男に向けた。
その瞬間ミルキィの人差し指は第一関節から勢いよく放たれ、赤い覆面の喉元を強打した。
「ぐぅええ」
ミルキィの放った指先は、赤い覆面の男の喉元を捉え、深々と突き刺さっていた。人間には中心線という弱点がある、その一つが喉である。ミルキィはそこに寸分の狂い無く指先を発射させたのだ。
喉元に強打を受け赤い覆面の男が悶え苦しむ、手に持った短剣を床に落とした、落ちた短剣はミルキィの足元まで転がった。
そして男はその苦しみからか人質である女性従業員の手を離した。赤い覆面の男は喉に来る痛みで立つこともままならず、その場に蹲った。
女性従業員は赤い覆面の男から離れミルキィに駆け寄った。ミルキィは男が落とした短剣を踏みこれを破壊、そして女性に優しく声をかけた。
「もう大丈夫です、お店の外に出ていてください」
「は、はい、ありがとう!」
女性従業員は足早に店の外に向かった、それを見送る前にミルキィは再び警告を行う。
「警告します、武装解除を行い投降してください」
「ふ、ふざけんな!」
残り四人、ミルキィは歩きながら赤い覆面の男の傍まで来て、未だに苦しんでいる男の首をつかんで覆面を剥ぐ、そして腰に下げた片手剣の刀身を握りつぶし破壊、無力化させた後、男を店の外に放り投げた。
店の外から叫び声が聞こえた。
「彼は喉を強打しました、数分は呼吸もままならないでしょう」
黒い覆面の男の一人が両手をミルキィに向けた、覚醒者のようで何かの魔法を唱える様子が見えた。
ミルキィはその男目掛け、今度は右手の中指を放った。距離があったため、それは喉ではなく男の鳩尾を捉えた。
「!」
黒い男は口から胃液を垂れ流し、何の言葉を発する事無くその場に崩れ去った。
残り三人。
「彼の鳩尾に強打を与えました、これも数分間呼吸がままなりません」
もう一人の黒い男が武器を構えた。
しかし腰が引けており明らかに戦闘行為を行うようには見えない。突然現れたミルキィの姿に戦意喪失気味だった。
ミルキィは店内に歩みを進め、蹲る黒い男の覆面を剥ぎ、店外へ放り投げた。
残り二人。
黒い覆面の男は戦意喪失、ミルキィは歩み寄り覆面を剥ぎ、片手剣を破壊、念のため腹部に強打を見舞いし、四人目の男も店外へ放り投げた。
立て続けに店外に放り出される人間を見て、周りはそれを悟ったのか、歓声が聞こえてくる。
残り一人。
ミルキィは振り返り、青い覆面の男を見る、しかしそこに姿は無く、ミルキィは下を見下ろす。
「油断したな!」
青い覆面の男が火の魔法でミルキィの頭部に火炎を浴びせる。
その衝撃は凄まじく、店外からは叫び声が聞こえた。
「無駄です。私に魔法は利きません」
ミルキィは炎の中、その大きな左手で覆面の男の背中に掌打を見舞った。
「背中は丈夫な皮膚で覆われております。しかし肺への衝撃は防ぎきれません」
ミルキィはそう言い、赤い覆面の男の首を掴んだ。口からよだれをたらしながら息も絶え絶えの男の覆面を剥がし、柱の裏に隠れている従業員に声をかけた。
「すべて無力化しました」
柱の裏から恐怖におののいた表情を浮かべた二人の従業員が顔を出した。
一人は中年の女性、もう一人は商人なのか、でっぷりと太ったお腹が特徴的だった。
「あ、ありがとう」
二人の表情から、それが恐怖だったことを表していた。
「後は憲兵団の到着を待ちましょう」
ミルキィは首を掴んでいた男をまた店外へ放り投げ、自分も店外へ歩いて行った。
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