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十、申し訳ありませんが待てません

 

 闘技場の一件は瞬く間にギルバインの街に広がった。

 またそのマスターであるセリカたちの噂も広がり、一躍有名人となった。


 セリカにはミルキィとの話を聞きたい冒険者や商人が殺到したものの、ガガオがミルキィのマネージャーを気取り、順番待ちや交渉事の毎日だ。とても冒険者という仕事をしているとは思えないとセリカは思っていた。

 ゴードンはミルキィの情報を探してザーハの元に足しげく通う日々で不在が多くなっている。


 当のミルキィは近所の子供と遊んだり、老人の家に出向き植木が枯れかかっているので水やりの世話をするなど、セリカたちの心配も露知らず、平穏な日々を送っていた。

 そんなミルキィをみたセリカは、博士と暮らしていた毎日はきっとこんな感じだったのだろうと感じていた。


 あの日見た寂しい背中は、そこには無く少しずつ街に溶け込んでいくミルキィの姿に安堵していた。



 セリカの日課は、毎朝冒険者ギルドに出向き自分たちに見合った依頼があるかの確認だった。


 冒険者はギルドによってA~Dまでのランク付けがされており、Dは近所の家の掃除や薬草の採取、Cランクでは夜盗からの護衛や簡単なモンスター退治、Bでは各ギルドからの依頼も増え遠征や大規模な依頼が舞い込んでくる。

 さらにAランクともなれば、ギルバインで知らぬものはいないぐらい有名な冒険者となり、国からの依頼などが来る。もちろん報酬も天と地の差があるものの、高ランクになればなるほど危険が付きまとう。


 セリカたちのパーティはCランク冒険者。大した実績もなく、受ける依頼は多少の戦闘を必要とするもの。ミルキィを発見した際にも受けていたのは商人を鉱山まで護衛する依頼だった。そんな依頼が大半を占めている。


 セリカは大きなため息を吐く、後ろにはミルキィがついて来ている。

 冒険者ギルドからの帰り道、本日のも目新しい依頼は無かった。もちろん依頼がゼロという訳ではない。薬草採取なども街にとっては重要な仕事だ。

 しかしそういった依頼は、薬草の知識や保管方法、運搬方法も気を付けなければならない。


 それにCランクであるセリカたちがそれを受けてしまうと、Dランク冒険者たちの仕事が無くなってしまう。冒険者同士の諍いはご法度であり、ギルドの指定が無ければ低ランクの冒険者が優先される。

 もちろん、Dランク冒険者がそれらの依頼を受けなければ、セリカたちCランク冒険者もその依頼を受けることが出来る、しかしそれも早い者勝ちだ。


 セリカの性格上、我先にという事も出来ず、今日も依頼無しの一日となった。

 冒険者ギルドからの帰り道、セリカは再び大きなため息を吐いた。



「はあ、なかなかいい依頼は無いのもね。Cランクって微妙な冒険者だと言えるわ」

「それは困りました」

「そうね、困りました」


 ゴーレムであるミルキィに慰められている。それがセリカをまた落ち込ませた。

 ガガオが持ってくる仕事はミルキィのものであり、セリカはただそこに突っ立っているだけが多い。昨日はギルバイン地方新聞の取材だった。


 すれ違う子供たちがミルキィを発見し、集まってくる。


「あ、ミルキィだ!」

「でっけー!」

「このまえのお花ありがとう! おかあさんとってもよろこんでくれたよ!」


 なんだ、このミルキィの人気は、セリカはちょっぴり嫉妬した。


「いいわねー、ミルキィは子供に人気があって」

「私は子供が大好きです」


 少し皮肉っぽく言ってみたがミルキィには届かないらしい、当然といえば当然か。

 元々はレプロス博士がマーリーと遊ぶために造ったゴーレムなのだから。


「こんど、また遊んでよ!」

「わたしも!」

「おれも!」


 まてまて、マスターは私だぞ、とセリカは子供たちに目線をやる。純粋でキラキラした目が眩しい。


「あなたたちミルキィが怖くないの?」

「ぜんぜん!」

「さいしょはこわかったけど、一緒にあそんでくれるし、いまはぜんぜんこわくないよ!」

「このまえ、わたしがまいごになったとき、たすけにきてくれたの」

「あら、そーお」


 セリカも子供は好きだ、この子たちは、少し裕福な暮らしをしている子供たちだろう。

 セリカには支えてあげたい子供たちが居る。親から捨てられ、国からの援助も少なく、貧民街の孤児院で暮らす子供たちが。

 貧民街は街の外れにある、ミルキィも連れて行った事がある。ミルキィはそこでも大人気だった。決して治安のいい場所ではない。強盗やスリも多く、怪しげな店も多い。

 そんな場所から早く助けてあげたい。しかしセリカにそんなお金は無い。

 無力を痛感し、なんとかCランク冒険者になった。けれど現実は違った。

 ろくな依頼もなくただ過ごす毎日、セリカは内心焦りながらも、いつかあの子たちを助けたいと思っているのだ。


「じゃあねミルキィ!」

「はい、また遊びましょう」

「ばいばーい!」


 子供たちは口々にミルキィに手を振った。


「エルフのねえちゃんもこんどあそぼ!」

「うん、楽しみにしてるね」


 やっぱり子供は可愛い、セリカは子供たちに微笑んだ。


「さ、宿に戻りましょうか、またガガオが変な依頼受けて来たかもしれないし」

「はい、セリカ様」




 そんなとき突然、どこかからか女性の悲鳴が聞こえた。

 セリカは声の方向を振り返る、ここは高級な店が立ち並ぶ商店街、どこからその声が聞こえたのか。


「いまのは、悲鳴?」

「どうやら、そのようです」

「行こうミルキィ」

「はい」


 セリカとミルキィは人だかりが出来ている場所へ走った。

 あそこだ、高級宝石店で有名な店ハーマン、その店の前に大勢の人だかり、セリカはまさかと思いつつも人をかき分けて進む。


 セリカが目にしたのは、ガラス越しに見える店内に覆面を被った男が数人、彼らは手には武器と大きな荷物、そして女性を抱えている。

 恐らくは女性店員だろうか、人質にとっているようだ。


「宝石強盗だってよ」

「憲兵団は何やってんだ」


 セリカの耳に人だかりの声が届く、周りにいる人々は商人、買い物帰りの主婦、冒険者らしき姿も見て取れた。


「なんだ、ハーマンの店か。あくどい商売やってるからな、いい気味だ」

「おい。誰か、助けにいってやれよ」


 そういうお前らが行け、とセリカは心の中で悪態をつく。しかしセリカも助けに行こうにも身体がこわばっていた。

 私も冒険者の端くれ、ここで何か出来る事があるかもしれない、セリカは思考を巡らせた。

 風の魔法で矢を作り出し、武器を持つ手を狙い撃ちして出来るかもしれない。しかしここからでは店内の様子が良くわからない。強盗が何人かもわからないし、人質に被害が及ぶ可能性だってある、下手すると自分の命だって危うい。


 セリカは憲兵団が到着する前に何か出来る事はないのか、そう考えていた。

 すると後ろに立っていた、ミルキィが動いた。ミルキィは人並をかき分け進んでいく。


「セリカ様、少し傍を離れる事をご了承ください」

「え?」


 ミルキィはセリカの返事も聞かず店に歩いて行った。少しずつ近づくミルキィ。ミルキィを止めようとセリカは詰め寄る。しかしそれは周りの人だかりに阻まれた。


「ちょっと、どいて!」


 風の魔法で人を吹き飛ばすか、セリカは一瞬そう考えた。しかしそんな考えもまとまらない間にミルキィはどんどん店に進んでいく。


「ミルキィ! ダメ! 憲兵団を待つのよ!」

「申し訳ありませんが、待てません」


 ミルキィはそう言い残し、宝石店に入って行った。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


ブックマーク、レビューやいいね、ご評価、ご感想等頂けますと大変励みになります。


レビューや感想が面倒であれば、いいねや評価だけでも作者は大喜びで部屋を走り回ります笑


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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