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サポートキャラ①

評価、ブックマークありがとうございます。

ちょっと確認時間が足りていないので、誤字などあったら教えていただけると助かります。


 春休みがあけて二年生に進級した最初の日、私は決意に萌えていた。いや、燃えていた。気持ちが荒ぶりすぎておかしなことになっている自覚はあるけど、今日ばかりは仕方がない。

 だって、今日は、ヒロインちゃんが編入してくる日なのだから……!



 ――『春をもういちど』通称『春いち』は、前世の私が死ぬ直前、ハマりにハマっていた乙女ゲームだ。

 攻略対象は全部で六人。彼らには彼らなりの悩みや葛藤があるものの、他のゲームに比べるとそこまで重苦しい設定ではない。ゲーム自体も流行りの異世界やファンタジーではなく、あくまでも現代の高校生として、等身大の恋愛を楽しむというコンセプトのものだった。


 悪く言えば地味。よく言えば人間味がある。

 攻略対象たちは当然イケメンだけど、過酷な生い立ちや幼い頃のトラウマなんてものはなく、ちょっとしたボタンの掛け違いや思い込みなどによる誤解によって悩み苦しむ、高校生らしい彼らが魅力的だった。

 だからかはわからないけど、若い子にはあまり人気がなかった。社会人で一通りいろんな乙女ゲーをやってきた層に人気のあるゲームで、王子様や騎士様との恋愛を楽しみ剣や魔法を使って戦ってみたりしたあと、『春いち』で一度感覚を現代に戻して他のゲームをする、なんて人もいた。箸休め的扱い、解せる。私もやった。


 ゲーム内ではもちろん、設定集やキャラデザなんかにもヒロインちゃんの顔は公開されていなくて、それがまた世界観的にも良かったのだけど、私は乙女ゲームは攻略対象×ヒロインを推すタイプのオタクであって、夢女子ではないので残念なところでもあった。

 が、そんな『春いち』の世界に転生した。しかもヒロインちゃんの友人という名のサポートキャラ・山本恵美として。


 ヒロインちゃんのご尊顔をしかとこの目に焼き付け、薄い本を厚くすることこそが、前世の記憶を持ちこの世に生を受けた私の使命なのでは???

 前世の同志たちに届かなくとも、この世に新たな同志を作り出す、そういうクリエイティブなオタクに私はなりたい。


 人体練成すら厭わぬ狂気の公式カプ推しオタクたる私は、鼻息荒く登校して、気付いた。


「(待って、ヒロインちゃん見つけられなくない……???)」


 そう、私は、というかプレイヤーはみんなヒロインちゃんの顔を知らない。

 そしてこのゲーム、ヒロインは家の都合で二年生に上がる春に編入してくるのだが、その前日に美容師の姉に髪を切ってもらうミニイベントがある。ここでの選択肢は三つ。


 一、ばっさりやってもらう

 二、ヘアアレンジを教えてもらう

 三、明日は早いので断る


 この選択肢によって、ヒロインちゃんの髪型が変わる。すると初対面での攻略対象たちの好感度にも変化があるのだ。例えば一のバッサリを選ぶとショートヘアになり、クラスメイトで隣の席になる翔君から髪型を褒められたりといった具合に。


 そもそもヒロインちゃんとサポキャラの出会いは始業式後、教室の中でになる。教室に入るヒロインちゃんと火口将也――通称ひー君の出会いイベントで、大柄なうえに見るからに強面な将也にも臆さないヒロインちゃんに感心して、憧れとともに友人になるのが私、山本恵美というサポートキャラである。

 でも、教室までなんて待てない。

 ヒロインちゃんのご尊顔を確認したい、そんな純粋な欲望と、興奮で眠れなかったここ数日の寝不足テンションの結果、私は職員室に突撃した。




「山本、こいつは編入生の花咲な、同じクラスだから。悪いんだが、体育館まで道案内してやってくれ」


 はい喜んでェ! と某居酒屋バイトのようなテンションで返事をする脳内の私と、リアルヒロインちゃんに一周回って賢者タイムに入っている私がいた。

 返事も自己紹介も噛みまくりなうえ、うっかり名前を聞く前にヒロインちゃんのデフォルトネームを呼ぼうとしてしまって慌てて舌を噛んだ。


「花咲音子です、なんかごめんなさい、山本さんは職員室に用事があったんじゃ?」

「あっ、いや、えーっと……だ、大丈夫! あ、あと私のことは恵美で、敬語じゃなくていいからね、クラスメイトなんだし!」


 私の用事はあなたの顔を確認することです、なんて言えるはずもなかった。

 そして初めて見たヒロインちゃんのご尊顔に感動のあまり触れられなかったが、彼女はショートヘアだった。翔君狙いなのかな、とニヤニヤしそうになるけど必死に表情を取り繕ってヒロインちゃんを体育館へ案内した。


 翔君の攻略ルートは一言でいえば青春。甘酸っぱくて可愛い、一番高校生らしいルートだ。

 始業式後、隣の席になったことからコミュ力の高い翔君からヒロインちゃんに話しかけ、そのなかで髪型を褒められる。その後、別の日に翔君の所属するサッカー部のマネージャーに誘われて入部する。

 サッカーが大好きで一生懸命練習を頑張る翔君のために、ヒロインちゃんはマネージャーとしての仕事はもちろん、個人的に差し入れを作ったり、試合前にはお守りを作って渡したりする。

 健気なヒロインちゃんとさわやか好青年な翔君は傍目にも可愛らしい高校生同士でとてもかわいい。可愛いオブ可愛い。

 けれど、話が進むと翔君が大会前の練習試合で怪我をしてしまう。大切な大会に出られないかもしれない不安と焦りから、医師や監督に止められているにもかかわらず練習をしようとする翔君。そんな彼をヒロインちゃんが説得し、ちゃんと怪我を完治させて大会優勝を目指す、というのが大まかな流れになる。

 翔君に関しては他キャラ以上に闇がないのが特徴ともいえる。彼は根っからの善人で、わんこ属性な人懐っこい好青年なのだ。友達も多くてそれにヤキモチを妬いてしまうヒロインちゃんの描写もすごくよかった。ハイ可愛い。


「(とても、良いと思います……)」


 そんな前世知識を掘り起こし、内心で感涙しながら私は手を合わせた。

 きゃあ、と抑えきれなかった黄色い歓声にふと意識を取り戻す。いつの間にか始業式が始まり、生徒会長挨拶まで進んでいたらしい。

 隣に立つヒロインちゃんが驚いたように周囲を見渡しているのが視界の端で見えた。

 わかる、ゲームではそんな描写もなかったから驚くよね、と思ったけどよく考えるまでもなく、彼女も転生者とは限らなかった。相当に浮かれているらしい。


「生徒会長の氷室聡一先輩、すっごいイケメンでファンの女の子多いの」

「そうなんだ……」


 どこかぼんやりとした声で頷いたヒロインちゃんは、まっすぐに、ひたすら総先輩を見つめていた。


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