ゲーム①
評価ありがとうございます。励みにさせてもらっています。
※ゲーム内でのチャット会話にて「w」や顔文字などの表現が入ります。
始業式とホームルームだけだった今日は、帰りに寄り道をしても昼過ぎには家に着いた。制服から部屋着に着替えて、冷蔵庫の残り物で簡単に軽めの昼食として炒飯を作って食べた。
両親は朝から仕事で、姉は休みだといっていたけれど家にいなかったので買い物かデートだろう。夕飯はいるのかとスマホに文字を打ち込めば、簡潔に「いる」とだけ返ってきた。我が家は家族間の会話もSNSも割と簡潔だ。
冷蔵庫の中身と相談しつつ、買い物に行くのも面倒なのであるもので適当にメニューを組み立てて手早く作ってしまう。今夜はご飯とみそ汁、冷凍庫にあった鶏もも肉を照り焼きにして、野菜室にあった適当な野菜でサラダを作った。
夕飯の支度を終えると日が傾き始めていて、タイミングよくお風呂が沸いたことを告げるアラームが鳴った。どうせ両親は遅くなるだろうし、姉もまだ帰ってきそうにないので一番風呂を頂くことにした。
風呂に浸かりながら今日一日を振り返ってみるが、なんというか……濃い。
漫画やアニメの初回かと言いたくなるほどに何やらいろんな人と出会った気がする。いや、編入初日なので出会う人は全員ほぼ初対面だから間違ってはいないのだが、それにしても、だ。なんというか、キャラが濃かった。
挙動不審なクラスメイトに、見た目から入るタイプの不良、キラキラさわやか光属性の隣の席の男子、押しの強い大学生カフェ店員。
最近の若い子はよくわからないな、と脱力して鼻先まで湯船に浸かる。そのままぶくぶくと蟹のように空気の泡を量産した。
なんだか疲れてしまった編入初日だったが、そんな時こそ楽しいことをしなければ、ということで風呂上りに髪を乾かすのもそこそこに自分の部屋の勉強机に鎮座するノートパソコンを起動した。
何も隠そう、これこそが引っ越しが決まり自室があるとわかったときに買うと決めたものである。それまでのバイト代とお年玉貯金を少しばかり崩してやっと手に入れた自分専用のパソコンに、思わずにんまりしてしまう。
購入に当たり、ゲーム内で知り合ったパソコンに詳しい友人に聞いたり、店頭で数時間かけて吟味した甲斐もあり、今までちょっと固まったり急に落ちたりなんて不具合を抱えつつ自分のスマホか父のちょっと古いデスクトップパソコンでプレイしていたゲームがサクサクと読み込んでくれるし画質も奇麗で快適が過ぎる。
すっかり慣れた手付きでゲームを立ち上げてログインする。
中学生時代からハマっているこのゲームはありふれたMMORPGなのだが、キャラクタークリエイトが非常に凝っていて、顔だけでも目元、鼻、口元はもちろん、額の形や頬骨、耳の形や顎のラインの微調整など事細かに設定できる。
ステータスに補正のつく装備とは別に、仮装や衣装と呼ばれるキャラクターの髪型や服装などの見た目変更アバターがとても多様でどれもオシャレでかわいい。しかもアイテムを使ってパーツごとに色を変えることもできるので、プレイヤーの個性や趣味に合わせて自由にカスタマイズできるのが良い。
前世でもこの手のキャラクリが凝っていたり、アバターが可愛いお着換え系ゲームなどにはまりやすかった私である。めちゃくちゃにやりこんで、今のところ自分のキャラが着用できるアバターのほとんどをコンプリートしていた。
「誰かいるかなー、っと」
行儀悪く椅子の上で胡坐をかきながらポップアップのお知らせを閉じ、ログインボーナスを受け取る。ついでにメール機能を開けば運営からの次のイベントに関するお知らせが届いていた。これは公式HPや攻略サイトでも見られるので今確認しなくてもいいかとさくっと閉じる。
所属ギルドのチャット欄にログイン通知が流れたため、すでにインしていた数人から『おかえり』を意味する挨拶が届いていた。
『ただいまー』
『早くない? さぼり?? ニート???w』
『一緒にしないでもらえます?^^』
いくつかギルドを渡り歩いた末に辿り着いた今のギルドは、メンバーのほとんどが社会人のため昼間は人が少ないが、大らかかつノリのよい人が多くて毎日クエストがすべて終わってもチャットしている間に数時間が経っていることもざらにある。
平日の夕方ということもあってまだ人は多くないが、それでも馴染みのメンバーに一通り挨拶と軽口を返していると、チャット欄にログイン通知が流れた。
―― 恭 さんがログインしました。
その名前に思わず口元が緩んでしまったことに気付いて慌てて戻す。
『オカ( ゜д゜)エリ』
『おかえりー』
『おかか!』
『しゃけ!』
『たらこ!』
『こんぶ!』
『なんか来るとこ間違えたみたいだから出直すわw』
『誰か梅って言ってやれよwww』
『どこ行くのw』
『浮気? 浮気なの?!』
ふざけるのが好きな人しかいないギルドチャットのカオスっぷりに笑いながら『私というものがありながら……っ!><。ww』と便乗しておいた。
なお、おにぎりは何でもおいしくいただく派だけど、今の気分は鮭だった私である。
いつも通りのノリで一通りふざけあったところで、日課と呼ばれる毎日のクエストをこなして経験値やアイテムを集めなければ、と思い出した。
『日課行く人いるー??』
会話の流れなど丸無視して聞けば、すでにインしていた人たちは平日休みということもあってすでに日課を終えているようだった。私と同じくインしたばかりの恭さんが『行くよ』と言ってくれたので手早くパーティ機能でメンバーに誘った。
ちょっと待ってみたが他に行く人はいなそうだったし、インする人もいなそうだったのでチャット画面をパーティのものに切り替えた。
『他いなそうだから二人で行こうか』
『おけ
そういえば編入初日だったよね? お疲れー』
『ありがとー』
話しながらもサクサクと戦闘系クエストを受注する。少しのローディングを挟んで専用エリアに入れば古びた神殿のような場所に飛ばされる。私も恭さんもレベルは現在の上限である二百まで上げているため、オートモードに切り替えて自分のキャラが動き出し、モブを両手に持つ剣で一撃で倒していくのを眺める。
その間もチャットではくだらないおしゃべりは継続していて、いつの間にか最初のクエは終わっていた。ボスもレベル十くらいが対象なのでスキルを使うまでもなく一撃で倒してしまうのだ。
わずかな経験値と、主に売り払い小銭を稼ぐためのドロップ品を流し見て、次のクエストを受注していく。同じ流れをひたすらに繰り返すだけの単調作業だが、気の合う友人とおしゃべりしながらだとこんなことでも楽しいから不思議だ。
恭さんとはこのギルドに入ってからの付き合いなのでもう一年ちょっとになるが、最初はお互いに相手を社会人だと思っていた。他が社会人ばかりだからというのもあるが、なんとなく話していて雰囲気が大人っぽいというか、落ち着いている気がしたのだ。もちろんふざけるときは全力でふざけるが。
ギルド内での話の拍子でお互いに学生だとわかってからはなんとなく親近感もあり、元々ノリが合うのもあって比較的よくパーティを組むことが多い。
お互いのキャラが同じ暗殺者という双剣と身軽なアクロバットアクションで敵を翻弄し一撃必殺で仕留めるジョブだったのもあって、装備やステ振りなどの相談もしやすかった。
バレンタインイベで一緒に走り抜け、私のキャラの鞄にいまだ眠るアイテム「本命チョコ」の送り主でもある。同じ数を送り合っているので、きっと彼のキャラの鞄にも私の送った「本命チョコ」が眠っていることだろう。
鞄整理するの忘れたな、と思い出したけど楽しいからまた後でやればいいか、と頭の片隅へ追いやった。




