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転生ヒロインは何も知らない  作者:


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図書室

 編入から早数週間、ゴールデンウィークを目前に控えた学校内はどこか浮足立っている気がした。

 私はというと連休中に稼ぐべく、学校と家の中間くらいの駅内商業施設にある本屋でのバイトを決めたばかりなので、休みだからと浮かれてばかりもいられない。定期圏内、学校からほどほどに離れているから学校関係者と会う可能性もそれほど高くない、さらに大手書店の支店という事で業務のマニュアルもしっかりしていて安心感がある。

 前世でも学生時代に本屋でバイトをしていた事があるが、地域内の個人経営みたいな小さい本屋だったので店長ルールやご近所付き合いで業務内容が微妙に変わったりして覚えるのに苦労したのを覚えている。休憩時間に在庫から読みたい本をお借りして読ませてもらったりと、緩くて本好きとしてはありがたい環境ではあったのだが。

 今世での本屋バイト初日は先輩についてひたすら仕事を教わり、メモを取り、本の配置を覚え……と慌ただしく終えた。書店独自の決まり事はあるにしろ、基本的にやる事は前世の頃と変わりない。本棚の配置図を頭に叩き込みながら、気になる本をメモするぐらいの余裕もあった。

 気にはなるけどハードカバーだし、と思って購入は見送ったのだ。買うのは学校の図書室で探してみてからでも遅くはない。


 そんなわけで連休初日を明日に控えた放課後、バイトや部活へ向かう友人二人と別れ、一人で図書室へとやってきた。校内の地図もだいぶ覚えてきている。

 バイト中に走り書いたメモを片手に、背の高い本棚の合間を縫うように見て回る。進学校だけあって参考書や辞典系の本が多いけど、小説も割と豊富でありがたい。ラノベコーナーまであったので歴代の図書委員か司書にオタクがいたと思われる。

 先人に親近感を覚えつつ目的の本を探して本棚の角を曲がれば先客がいた。

 ふわふわとした甘い髪色に小柄な背丈。一見して美少女に見紛うばかりにぱっちりとした目。制服を着ていなかったら間違いなく女の子だと思っていたに違いない美少年だ。

 美少年君は棚の上にある本が取りたいらしく、手を伸ばしているが微妙に届いていない。

 背伸びをしてめいっぱい手を伸ばす小柄な少年はなんとも庇護欲をそそる光景だった。何も考えずに近づいて手を伸ばしてしまうほどには。

 軽く背伸びして手を伸ばせば、棚の上部の本には無事手が届いた。これで届かなかったらいらぬ恥をかくところだったので内心でほっとする。


「これであってる?」

「えっ、あ……ありがとうございます」


 本を差し出せば美少年は目を丸くしてからぺこりと頭を下げる。仕草が一々可愛らしい。

 本を渡してから気付いたけど、これ少女漫画とかで良くある感じのイベントだったのでは?

 いつだかの昼休みにこんな場面のページを見せられ熱弁されたのを思い出した。その場面では本が取れずに困っていたのはヒロインで、本を取ってくれたのはヒーローだったが。

 性別が逆転しているとはいえ、自ら少女漫画的行動をしてしまったのがなんだか気恥ずかしい。美少年の顔がまともに見られない。


「そ、それじゃ……」

「あ、あの! 花咲先輩……ですよね?」


 見知らぬ美少年に名前を把握されてるのなに? え? なに??? こわ……。


「あの、先輩は覚えてないかもですけど、僕まえにも助けてもらったことがあって……」


 びっくりして固まる私をよそに、美少年は頬を染めながら話しかけてくる。

 私はそんな「一日一善がモットー」みたいな善人ではないし、人助けなど心当たりがまるでない。どなたか別の人と間違えているのではなかろうか。


「えぇと……? 人違いじゃないかな……?」

「いえ! 前に購買で変えなくて困ってたら、先輩がコロッケパンをくれました」

「購買……、コロッケパン……」


 購買と言えばあの統率や協調性などひと匙もない高校生の若い食欲と食欲がぶつかり合う阿鼻叫喚の人ごみを思い出す。

 結局あの人の多さと争奪戦に混じる(精神的な)若さがなくて恵美の付き添いで一度行ったきりだ。

 たしかにあの時はなにか適当にパンを買えたのを覚えている。コロッケパンだったかどうかは定かではないが。

 そしてお弁当もあって食べきれないそのパンを、近くにいた誰かに押し付けたのもつられて思い出した。


「あ、お乳争奪戦に勝てない子犬!」

「え?」

 

 思い出したはいいが、余計なことまで思い出してしまった。

 さっきまで少女漫画のヒロインに見えていた美少年が、すっかり母犬の母乳を吸いたいのに思うようにお乳が吸えず、兄弟たちより一回り小さい子犬にしか見えなくなってしまった。

 そして美少年の中で私に対する認識が「助けてくれた先輩」から、「ほぼ初対面の相手を急に犬扱いするやべー奴」に変わってしまった恐れがある。


「あ、あはは、なんでもない……」

「あ、はい……。えっと、それで僕、前ちゃんとお礼を言えなかったので……」


 私の引きつり笑いの誤魔化しを、美少年は首を傾げつつも頷きで流してくれた。天使かな?

 仕切り直して話を続ける間、本を抱えたままぶかぶかのカーディガンの袖をいじる仕草がこれまた可愛い。百点満点。

 可愛いショタキャラより、ガチムチおっさんキャラの方が好きな私であるが、うっかり新しい扉が開かれそうである。いや落ち着こう。変態臭い。


「改めて、購買ではありがとうございました。あと、今日も本を取ってくださって、助かりました」

「いえいえ、お気になさらず……」


 改まってお礼を言われて小さな頭を下げられるとなんだか照れくさい。つられて私も頭を下げた。

 学校の後輩相手にかしこまりすぎた対応に失敗を悟ったがすでに何とも言い難い空気が漂っている。

 どちらともなく愛想笑いで場を濁すしかなかった。コミュ障にはハードルが高かったようだ。

閲覧ありがとうございます。

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