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転生ヒロインは何も知らない  作者:


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戦略的撤退(失敗)

 なんやかんやあってひと段落して早数日。

 吹野さんとの交流が増え――というか、恵美と彼女が意気投合したらしく、私も交えてもらって、といった感じで三人で行動する事が多くなった。呼び方も吹野さん、から友香に変わっている。女友達ゲットだぜ。

 人見知りコミュ障にしてはなかなかハイペースで友人を作ることに成功しているのでは?! なんて自画自賛も飛び出してしまう程度に私は調子に乗っていた。そう、調子に乗っていたのだ。謝る。謝るから神様もっと私に優しくして。


 +++


「花咲さん、男子は全員分揃ったけど、そっちは?」

「女子も全員分揃ったよ、お待たせ」

「大丈夫。それじゃ提出して帰ろうか」


 三時間目の英語の授業終わりに、よくある教師からのお使い任務(授業中のプリントを放課後までに集めて提出する)を請け負ったクラス委員の氷室君と私である。男女同数なのを理由にそれぞれ男子は氷室君に、女子は私に提出してもらって集め終え、提出後はそのまま帰るつもりで鞄も持って教室を出た。

 全員が放課後までに渡してくれたおかげで、個別に追いかける手間が発生しなかったのはありがたい。


 バイトのある恵美と、部活のある友香はすでに別れの挨拶を済ませて早々に教室を出ていた。友香の恋路も気になるが、恵美の方もどうやらバイト先の先輩に気になる人がいる様子なのでそのうち女子らしく恋バナなんかしてみたいところである。喪女でも人の恋バナには興味くらいあるのだ。


 職員室は同じ二階にあるのでさほど遠くはない。遠かったとしても氷室君とならさほど気まずい思いをすることはなかっただろうな、と思う程度には程よい距離感でぽつぽつと雑談を交わした。


「失礼します。二年A組です、英語のプリント提出にきました」

「そこの提出箱に入れておいてもらえる?」

「はい。

 花咲さん、たぶん今後も提出物があると思うけど、だいたいはここの棚に先生の名前がついた箱があるから、そこに入れたら大丈夫だよ」

「なるほど。まずは先生の名前覚えないとだわ」

「それは頑張ってもらうしかないかな」


 職員室についてからはさらっと氷室君が先導してくれて、入り口脇の棚にある箱へプリントを納めるだけだった。

 人見知りコミュ障らしく、あまり人の顔見てお話しできないので、顔と名前を覚えるのは得意じゃない。ぼやいたら笑いながら応援されてしまった。いや、諭されたのか……?

 ちなみにノート等、箱に入りきらない提出物については担当教諭のデスクまで運ぶ必要があるとのこと。顔と名前とデスク位置の把握までしなければならないなんて……と思っていたら、よほどしょっぱい顔をしていたのか、氷室君に笑われた。


「一人でやる事はまずないと思うし、覚えるまでは俺が教えるから大丈夫だよ」

「うっ、ありがとう。すごく助かる、ます……」

「日本語も教えようか?」

「辛辣……!」


 氷室君は聖属性だと言ったな? あれは嘘だ。

 いや、嘘というか、正確ではなかった。この人意外と腹黒かった……!

 気安さの証と言えば聞こえはいいが、早くもいじられていて被っている猫が剝がれそうになる。むしろすでに半分くらい剥がれてる。どうしてこうなった。


「失礼します。……恭二」

「あっれ、弟クンと編入生ちゃんじゃん!」

「兄さん、お疲れ様。水沢先輩、お久しぶりです」

「えと、どもです……」


 咄嗟の挨拶にコミュ力の差が顕著に出過ぎて生きるのがしんどい。

 氷室生徒会長に親近感を覚えつつ、水沢先輩の名前を今思い出したことは悟られないよう目を逸らした。チャラ男が怖かったとかではない。

 ちなみに私のなんとも言えない挨拶を聞いた氷室君が、笑いを堪えるように口元を手で隠したのでもうこの場は彼に一任することにした。敵前逃亡? いいえ、戦略的撤退です。


「二人とも一緒に職員室なんてどーしたの?」

「俺たちクラス委員なんですよ。授業で提出物があったので持ってきたところです」

「なるほどねぇ。編入したててクラス委員やっちゃうなんてすごいねぇ」

「へっ、あ、いや、くじ引きで……」

「あー、そりゃ残念だったね」


 軽快な水沢先輩の質問に、さらりと返す氷室君。その間、生徒会長と私は無言で会釈し合っていたので、急に回ってきた会話のボールについていけず、まごついてしまうのも仕方のないことなのだ。

 それでも気にせず会話を続けてくれるあたり、水沢先輩はやはり悪い人ではないらしい。見た目がね、あの、うん……ちょっと苦手意識を刺激してくるので、あの……あれ、うん、あれなんだけど……。

 そして私のくじ運を思い出したらしい氷室君が思わず、といった風に小さくふき出したのを私は聞き逃していない。あとで話し合おうじゃないか。


「先輩たちは……進路のご相談とかですか?」

「まぁそんなとこ~。

 あ、そーだ編入生ちゃん! この前のアレ、いま大丈夫?」

「アレ?」


 ……って、どれ?

 前半は氷室君に、後半は私に向かって水沢先輩が言った。器用な人だけど、そんな無理に私を会話にまき込んでもらわなくて大丈夫だと言いたい。

 そしてアレ、と言われても私にも心当たりがないので不思議そうな顔してこちらを見られても困る。氷室兄弟から向けられた視線に思わず首を左右に振りそうになりながら、この兄弟は不意の仕草や表情が似ているんだな、と再確認した。


「連・絡・先♡」

「えっ、約束……なんてしましたっけ?」

「したじゃーん! 今は携帯持ってるっしょ?」


 してない。一方的に教室まで行く、とは言われたけど、私は了承も返答もしていないので約束とは言えないと思うんだ。携帯は確かにブレザーのポケットに入っているけども。

 どうやってこの場を無難に逃げるべきか考えても逃げ道がない。もういっそ角が立つのも覚悟でばっさり断っちゃおうかな?! と、諦めの早いアラサーが内心で頭を抱えている。前回ばっさり断ってるのにこの状況な時点で無意味だという事に気付いて私。


「そういえば俺たちもまだ交換してなかったね。委員のこととかで今後必要になるかもしれないし、俺も良い?」

「ぅえっ?! あ、それは、うん……」


 ここでまさか私ではなく水沢先輩への援護射撃が氷室君から出るとは……! 裏切者! と心の中で叫びながらも理由も理由だし断れずに頷く。氷室君とは話し合いだけでは足りないかもしれない。

 この流れで水沢先輩はダメです、なんて言えるはずもなく、私は肩を落としながらポケットから携帯を取り出した。

 戦略的にじゃなくてもいい、撤退したかった……。

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