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転生ヒロインは何も知らない  作者:


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クラス委員会①

 氷室君に案内してもらい、少し雑談を交えながら視聴覚室に到着した。開始時間の五分前だが、室内にはほとんどのクラスの委員か集まっているようだった。

 顔見知り同士だったのか、雑談をしている人が多く、室内は和気藹々とした空気で少し緊張がほどける。

 私たちは空いていた前方の長机に並んで座る事にした。


「ちょっと遅かったかな、ごめんね案内してもらっちゃって」

「気にしないで、迷子になるよりマシだから」

「こ、校内で迷子になるほど方向音痴じゃないから……」


 たぶん。

 案内してもらう際に西にあれがあって東はこうなってる、なんて説明に対して私から見て左右どっちが西で東なのか聞いたせいか、氷室君の中で私はすっかり方向音痴として認識されたらしい。

 残念ながら生まれ変わっても方位磁石は備わらなかったし、地図は相変わらず垂らしたインクの染みと同じように見える。

 そんな私の弁明は氷室君には届かなかったようで、「だと良いんだけど」と流されてしまった。解せぬ。


 そうこうしている間にまだ来ていなかったクラス委員や、生徒会の役員が入室して室内はほどほどに埋まっていた。

 生徒会役員たちは会長以外一番前の長机に座り、教壇に氷室生徒会長が立つ。眼鏡の奥の怜悧な目が室内をざっと見渡し、私の隣――氷室君で一瞬止まったが、すぐに逸らされた。

 あまり仲の良い兄弟ではないのかもしれない。元より踏み込むつもりもなかったけれど、ますます触れない方が良さそうだ。


「――生徒会長の氷室だ。今後、行事等の際に生徒会からの通達を各自のクラスの生徒たちに伝えてもらうことになる。その都度説明は行うが、不明点があれば早めに役員へ問い合わせるように」


 簡潔な挨拶と説明ののち、会長の指示で役員の人たちが持ち込んだ資料が配布された。

 コピー用紙一枚にまとめられたそれは、年間の大まかな行事のスケジュール表と、それに伴い開催されるクラス委員の集まりについて記載されていた。

 思ったよりも行事が多く、集まりも比例して多いが実際の仕事は連絡係と、行事によっては配布資料の作成なのでさほど難しいことはなさそうで一安心である。

 多分クラス委員が敬遠されがちなのは本来の業務とは別に教師から何かと雑事を頼まれやすいという点な気がする。


「早速だが、今配った行事予定表の簡易版を全生徒に配布してもらいたい」


 その声と共に、続いて生徒会役員が各クラス分と思われるプリントの束を並べ始め、三年A組から順に呼ばれた。呼ばれたクラスの委員が立ち上がり、プリントとホチキスを受け取った。

 なるほど、プリントは二枚一組で、それを組んでホチキス止めをするのと、明日クラスへの配布が最初の仕事らしい。

 前世OLとしては印刷機のステープル機能でやってくれ、と思わないでもないが、ステープルが安いものでないことぐらいは知っている。全校生徒分もたった二枚のために使いたくはないのだろう。経費削減、わかります。


 なんてことを考えていると私達のクラス、二年A組が呼ばれた。

 特に声を掛け合う事もなく二人で立ち上がり、役員から必要なものを受け取る。さすがは気遣いの人である氷室君がプリントの方を先に受け取ってくれて、視線で示された私はホチキスだけ手にして席に戻った。

 正直、私はいらなかった気もするが、何もしないのもそれはそれで気になってしまう。子供のお手伝いレベルだとしても協力したという事実を作ってくれたのだと感謝した。


「ありがとう」

「資料は俺が組むから、留めるの任せていい?」


 あえてお礼には触れないのは、気遣いというより気恥ずかしさからくるように感じた。こういうところは高校生男子って感じである。



 ぽつぽつと雑談を交えながら氷室君が二枚セットにしてくれたプリントを揃えて左端をホチキスでぱちんと留める。他のクラスも似たような感じで、単純作業だからついつい会話が弾んでしまったらしく後方の席で女生徒の甲高い歓声が上がった。

 驚いて思わず振り返れば、その手には資料もホチキスもなくてスマホが握られていた。

 女生徒二人は別のクラスの友人同士らしく、相方の男子生徒たちは少し離れた席で黙々とそれぞれの作業をしていた。

 恐らく彼女らも望んでこの委員会に入ったわけではないのだろうが、それにしてもそんな堂々とサボるなよ、と思わず呆れてしまう。

 そう思ったのは私だけではないようで、視線を戻せば同じように手が止まっていた氷室君と目が合ってお互いに苦笑した。相方が氷室君で良かった。


「そこ、作業が終わったなら他の者の迷惑になるので退室しろ。終わっていないのなら終わらせてから遊べ」


 ぴしゃり。

 それほど大きくはないのに、硬質な声が室内を縦断するように飛んだ。声の主は確認しなくてもわかる、生徒会長だ。

 前方の席で作業をしていた事もあって割と近いところで発せられた声に、自分に向けられたものではないとわかっていても口を噤んだ。私だけではないようで、室内には水を打ったような沈黙が広がり、紙をめくる音ですら咎められそうな雰囲気に全員が口を閉ざし、手を止めていた。


「す、すいません……」

「ごめんなさい……」


 注意を受けた女生徒たちはそんな空気を一身に浴びて慌ててスマホを鞄にしまった。自業自得とはいえ、少し可哀想になってしまうほど萎縮した様子に、生徒会長は小さく息を吐くと「次からは気を付けるように」と短く締めくくった。


「作業が終わり次第帰っていい。資料は持ち帰ってもいいが、紛失などしないように」


 全員に向けてそう告げると、生徒会長は他の生徒会役員と別の資料を手に何やら話し出した。一拍を置いて、気まずい空気を打ち消すように紙をめくる音がした。


評価、ブクマありがとうございます。

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