委員会決め
授業がすべて終わった帰りのホームルームでは朝に連絡があった通り、委員会決めが始まった。
早々に立候補で決まっているのは保健委員と図書委員、美化委員、それから体育委員と文化祭実行委員だ。どれも定期的に仕事はあっても内容は簡単なものだったり、限定的な期間のみの仕事だったりと比較的自由の多いものばかりだ。
残りは風紀委員とクラス委員という、なんとなくイメージ的にもちょっとお堅い系の委員会である。
一クラスの人数に対し、委員会の数が少ないことからもわかる通り、男女一人ずつ選任されたとしてもどの委員会にも所属しない人は出てくる。不公平な気もするが、多少とはいえ内申点に関わってくることを考えればやりたい人がやる方が良いのも頷けた。
クラス委員はその名の通りクラスの代表だが、主な仕事は生徒会との連携や教師の雑用係だ。あとはこういった委員会決めなどの際に司会進行をするぐらい。
風紀委員は定期的に校門に立って登校してくる生徒への朝の挨拶と持ち物点検がある。比較的自由な校風の白高では服装点検は特に実施されないらしいが、あまりにもだと教師から注意されることもあるとか。
「立候補ないならくじ引きで決めるぞー」
こうなる事は予想済みだったのだろう、福田先生が空き時間に作ってきたという小さな白い紙を四つ折りにしたものが入った書類箱を揺らした。
男女の人数が同数なので、すでに委員が決まった人数分の白紙を除き、クラス委員と風紀委員のくじを一つずつ作って男女別に引けばよいというわけだ。
「恨みっこなしな。ほれ、引いてけ。開封して当たったら手上げろよー」
真っ先に小さく折りたたまれた紙の入った箱を差し出されたので、適当に一つ選んで手に取る。
それを開いている間にも先生が後ろの席の子にも同じように引かせていくが、手の中の紙片には「クラス委員」の文字があった。編入したばかりでクラス委員とはこれ如何に。
がっくりと項垂れつつ手を上げれば、すぐに先生が気付いてくれて「花咲、黒板に名前書いとけ」と指示があった。その声が若干笑っているように感じられたのは気のせいではないはずだ。いや、私だって一番最初に引いておきながら見事に引き当てる強運(?)を自分事でなければ笑ったかもしれないけれども。
なお、隣の席の風間君は遠慮なく笑っていた。ちくしょう、光属性野郎め。
黒板の右端、クラス委員と書かれた左側の空いたスペースに「花咲音子」と書けば、女子たちが安堵の息を吐くのが聞こえた。まだ風紀委員も残っているとはいえ、あちらは数か月に一度、一週間ほどの業務らしいのでどちらかといえばクラス委員の方が嫌なのだろう。私は人身御供か。
憂鬱さに肩を落としながら席に戻り、相方となる男子や風紀委員が決まるのをやさぐれた気持ちで待った。
風間君には「すごい強運だね」と笑いながら言われたので「分けてあげるよ」と彼にも当たるように手を合わせて祈っておいた。もちろんそんな私の祈りなど通じるはずもなく、彼は真っ白な白紙のくじを見せつけてきたけれど。ドヤ顔が腹立たしいことこの上なし。
ゲームのガチャは当たらないくせに、どうしてこういう時だけ引きが強いのか。甚だ疑問である。どうせ当たるならガチャに当たりたい。
そうこうしている間に黒板に空いていたスペースには残りの三人の名前も記載され、委員会決めが終わったのだった。
なお、くじが終わってから福田先生には編入生なのにと謝られたが、笑いながらだったので盛大に眉を寄せるしかできなかった。教師でなければ足を踏んでいたかもしれない。
私とペアになったクラス委員の男子は氷室恭二君といって、どこかで覚えのある名前だと思ったら、生徒会長の弟らしい。
長めの前髪と眼鏡で顔立ちはあまりよくわからないが、友人との様子を見るに物腰も穏やかで印象は悪くない。
「氷室は普通に良い奴だよ。話してみると面白いし、けっこう冗談とか言うし」
氷室君の見た目がわからず、風間君に聞いた際の評論からも好意的な印象を受けた。あの生徒会長の弟、という事で風間君も初めはとても生真面目な人物かと思っていたらしい。
その生徒会長を良く知らない私からすれば、どこにでもいる普通の男子高校生といった感じではあるが。
頑張ってね、という軽い応援と共に手を振った風間君はホームルームが終わると共に鞄を引っ掴んで教室を出ていった。早く部活に行きたくて仕方なかったらしい。その背中に見えていないとは思いつつ私も軽く手を振り返した。
ふと、朝にも感じた違和感を覚えて振った手を中途半端におろした状態で教室を見渡すが、やはり特に変わった様子はない。すでに先生が退室した教室では帰宅の準備をしいていたり、友人との会話に花を咲かせていたりするクラスメイトの姿があるだけだ。
気のせいというには一日で二度も感じた違和感に首を傾げていると、「花咲さん」と聞き覚えのない声に呼ばれて振りかえった。
「あ、ごめんね」
机の前に鞄を肩にかけた氷室君がいて、彼の声かと思うより先に私も席を立つ。教科書やペンケースをしまって重くなった鞄を慌てて手に取る私に、氷室君は軽く手を上げて制すると薄く笑みを浮かべた。
「大丈夫、まだ時間には余裕あるから。まだ話したことなかったし、挨拶とあと案内がいるかなって思って」
「ありがとう、確かに場所わかんなかったから助かるよ」
確かに恵美は今日から早速バイトだと言っていたし、私の道案内のために付き合わせるのは悪いと思っていたのでとてもありがたい。高校生にしてこの気遣い、人としての差を感じさせる。
風間君はキラキラ眩しい光属性だが、きっと彼は優しく慈愛に満ちた聖属性に違いない。ゲーム脳ですまん。
「改めて、花咲音子です、よろしくね」
「氷室恭二です。細々した面倒事の多い仕事だけど、頑張ろう」
お互い改まって自己紹介をするのはなんだか気恥ずかしさもあって笑ってしまった。
氷室君の後に続いて教室を出る。クラス委員の打ち合わせは基本的に特別の指示がなければいつも視聴覚室で行われるらしい。
視聴覚室までの道すがら、間にある特別教室なども教えてもらいつつ話を聞いていると、クラス委員について詳しいので一年のときにもやっていたのかと聞けば、氷室君本人ではなく彼の友人がクラス委員だったので話を聞いたり仕事を手伝ったりしたことがあるという。なんという頼もしさ。前の学校でも、前世でもやったことのない委員会に対する不安が少しばかり和らぐ気がした。
氷室君は話しやすく聞き上手なうえ、説明もわかりやすくて案内された場所はすぐに覚えられそうだった。高校生にしては非常に社会性というか、社交性というか、対人感覚に優れた人という印象だ。きっと頭の回転が速い天才タイプ。
対人能力の低い私としてはコンプレックスが刺激されるが、善意から優しくしてくれる人に八つ当たりなんて大人げない対応はできるはずもない。
それに言葉は悪いが見た目が地味系なため気安さがある。
気にしないようにしていたけど、この学校は顔面偏差値の試験でもあるのかというほど整った顔の人が多い気がする。風間君や火口君なんかが特にそうだし、恵美も挙動不審なことを除けば美少女だ。昼休みに会った一年生も美少年と言った感じだった。これから委員会で関わる事になるだろう生徒会長もファンがいるほどのイケメンだと恵美が言っていた。
二次元かよ、というツッコミが喉元まで出かかったけど氷室君に不審者扱いされるのは今後の委員会活動に差し支えるのでなんとか堪えた。
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