三人称の方の彼女がいつも相席してくる。
初めてラブコメっぽいのを書いてみました。
個人的には結構力作です。
短編も初めてなので、いろいろな挑戦をした作品です。
まったりと呼んでいただけたら嬉しいです。
「相席いいかな。」
学食。それは、食好きの俺にとって至福の時間であり、落ち着かない時間でもある。
なぜなら、俺はとある女子と、毎日相席をしているからだ。
俺の名前は伊藤ハヤト。いたって平凡な高校生だ。
勉強も運動も平均レベル。
何かに特出しているわけでも無い。
趣味は食。食しかない!
俺の食についての愛を語ると長くなるが、とにかく食が好きだ。
だから、高校の学食は俺にとって至福の時。だったはずだが・・・
さっきも言ったが、俺は毎日とある女子と相席をしている。
だが、この相席は落ち着かない。
俺は、食というのは1人で楽しむものだと思うのだ。
それを毎日のように、彼女でもない異性と学食を食べるのはどうなのだろうか。
「焼肉定食お願いします。」
学食のおばさんに注文をする。
この日は焼肉定食。
学食のメニューは、ご飯類から麺類まで様々だ。
入学して半年で、俺はこの学食のメニューを制覇してしまった。
どれも美味しかったが、俺のイチオシは焼肉定食。
こうして様々なものを実際に食べて比較して、自分のイチオシを決める。
これが俺流の、食の醍醐味だ。
「はいよ。」
俺はおばさんから焼肉定食を受け取り、食堂の端の席に着く。
食べ始めて5分もしない頃、彼女がやってくる。
いや、彼女というのは三人称の方だが。
黄金色で肩先までかかった髪。大きな目。夏用のセーラー服。
盆に乗ったうどんをテーブルに置き、当然のように俺の目の前の席に着く。
「相席いいかな。」
座ってんじゃん。
河野リルハ。同じクラスの女子。
クラスでは全くと言って良いほど接点が無いが、学食の時だけ、なぜかこうして俺の所に来る。そして特に会話もせずに食う。
他にも空いている席はあるのだ。だが、今日もこうして俺の席に来た。
嫌いではないが、よく分からない人だなと思う。
すると、俺の中に一つの疑問が湧いた。
どうしていつも俺のとこで食うんだろう。
聞いてみるか?いや、今までほとんど会話をしてこなかったのに・・・
勇気を出せ!俺!聞くんだ!
「あのさ、」
「うん」
案外あっさり反応するもんだな。会話ができないやつではなさそう。
「何でいつも俺のとこで食うんだ?」
髪を耳にかけ、うどんをすする彼女に問う。
「あ、ごめん、迷惑だった?」
不安げな表情で彼女は言う。
「いやいや、別に迷惑なわけじゃ・・・」
「あ、そう」
彼女はまた、元の塩対応に戻る。
「ひ み つ」
「秘密?どういうことだよ?」
「そのままの意味だよ。」
ニヤついた彼女は言う。
やっぱりよく分からない。
「食べなよ。焼肉定食冷めちゃうよ。」
あぁ、すっかり忘れてた。
「あ、うどん食べる?あーんってしてあげようか?」
「いらねぇよ!」
不意打ちすぎるだろ。いきなりどうしたんだよこいつ。
ていうか、こんなに会話が成立したのは初めてかもな。俺から少し話しかけただけで、ここまでいくとは・・・恐るべし。
また黙々と食べ始める。
食べていると、一瞬だけある想像が頭をよぎった。
『あーんしてあげよっか?』
普通こんな事興味のない異性に言うのだろうか。
いや、相席してる時点でだいぶおかしい。
まさか俺のこと・・・好きとか?
急に恥ずかしくなって、ご飯を口いっぱいに詰め込む。
そして、ふと彼女の方を見てみる。
見ている。まっすぐな眼差しで。
おいおいおいおいどういうことだ?!
俺はすぐに目を逸らし下を向く。
めっちゃ見てんじゃん!これはもう確定ルートなのでは?!今日中に告白とか来ちゃうレベルだろこれ!
恥ずい・・・かなり。
とっとと食って、今日のところは撤収しよう。
俺はご飯と肉をかきこみ、味噌汁をすぐに飲み干した。
よし、行こう。
そしてもう一度彼女を見る。
彼女は今まで見たことないほどキラキラとした目で、俺を直視している。
あぁぁぁぁぁぁ!すげー見てるぅぅぅ!!!
もうこれ確定だ・・・
彼女は俺に恋している。
だがはずかしい。やはり今日のところは撤収・・・
「あ、ごめんなさい!こんなに、ジロジロと・・・」
彼女は顔を赤らめている。見ているこっちが恥ずかしくなるほどに。
「いやいや、大丈夫だよ。あ、じゃあ今日はもう行くねー」
俺がそう言って去ろうとすると、
「ちょっとまって。」
呼ばれた。告白だ。
嫌ではない、断るつもりもない。彼女は美人だし、今日の様子を見ていたら少し可愛くも思えてきた。
でも、どうやって返事すればいいのか分からない。
それに、女子から告白なんてちょっとかっこ悪いし。
「さっき、あなたと相席する理由。秘密って言ったでしょ?」
「うん。」
来るぞ、告白。
「私、あなたが食べるところを見るのが好きなの。」
「え?」
どういうことだ?これがこの人なりの告白って事?
まあ、ずいぶん顔を赤らめてたし、照れ屋なのかも。
ここは男から行くべき所だ。
「ありがとう。よろしくお願いします。」
「え?」
彼女はきょとんとした表情に戻る。
「何のこと?」
「え?」
俺の頭の中は、今疑問しかない。
状況を整理しよう。
俺は彼女に、『私、あなたの食べるところを見るのが好きなの』と告白を受けた。
ん?
あなたの食べるところを見るのが好きって事は・・・
「えぇぇぇぇぇぇ!!ご、ごめん!俺の勘違いだから!気にしないで!」
彼女は依然きょとんとした表情で俺を見つめる。
「あぁ、じゃあまた後で!!」
俺は慌てて食堂を出る。
ハア、ハア。
今世紀一の恥ずかしさだ。
彼女は俺が食べているところを見るのが好きなだけであって、俺が好きなわけじゃない。
相席も、俺が食べているところを間近で見るための行為。
俺は勝手に告白と勘違いして、勝手によろしくとか言ってしまった。
あぁ、恥ずい・・・
その後、昼休み終了のチャイムが鳴り、俺の世界一恥ずかしい昼休みと、不思議な相席が幕を閉じた。
完
今回短編楽だったので今後も短編を書くかも?
良ければ評価コメントよろしくお願いします。