剣を握るその意味を17
お待たせしました。
番外編と言いながら実は本編にからんでくる話がチラチラ出ています笑。そして、シャルロッテのこのお話は20話完結を目指していますが、いますが(2回言うやつ)きっちり終わるかは謎ですσ(^_^;)。
ギャオオオオァ.........
私が奴の名を呼んだ瞬間、耳をつんざくような咆哮が聞こえ、同時に目の前の扉が周りの壁ごと大きな水色の足に突き破られた。
衝撃で崩れた石の欠片がパラパラと頭上に降ってくる。
「ひっ!?ひいいいっ!?」
隣で腰を抜かした事務員が泣きそうな顔で......いや、泣いているな。恐怖で泣いているのか、宝物庫が崩れて上司に怒られることに泣いているのかはわからないが。
「開けたぞっ?これでいいのか?」
扉(であった穴)から足を抜いた大きくなったトカゲのようなアイツが、その場所から巨大な青色の片目を覗かせた。
「開けたと言うか、蹴り破ったよな?」
はっ、と私が笑うと、大きくなったアイツは面白そうに喉を鳴らす。
扉をくぐり、異空間の部屋に入ると目の前には10メートルを超えていそうなほど大きな水色の鱗に覆われた竜がいた。
「オイラが元の姿に戻れたのはアンタのおかげだよ。記憶も思い出したぞ。オイラは水竜『カーム•オーシャン』。穏やかな海に住む海竜だ。オイラのことはカームって呼んだらいい。
さあ、アンタは急ぐんだろ?早く剣を選びなよ。」
私が入室したことにより光だした武器達を顎で指し、カームは先を促した。
だが、私が手に取りたい剣はもう決まっている。
スタスタと部屋を歩き目的の剣にたどり着いた。
選剣の儀の時に唯一光らなかったあの剣だ。
カームはドシンドシンと足音をたてながら私の後ろをついて来た。
目の前の壁に飾られているその剣は、再度来てもやはり光ることはなかった。
「お?その剣は無理だぞ?光ってない。おまえに選ばれるのを望んでないぞ?」
「わかっているよ。カーム。
だけど、私はこの剣がいいんだ。」
がしっと青と緑の意匠が施された白いグリップを掴む。剣の意思なのか何か魔法でもかかっているのか、いくら自分のほうへと引っ張っても壁の金具から外れることはなかった。
やはりはずれないか、と刀身に顔を近づけてまじまじと剣を眺める。
すると、掴んでいたグリップがわずかに揺れた。
「?」
動いた?いや、しかしやはり引き寄せようとしても金具からは外れない。
じっと剣を見つめると何故かほのかにピンクがかった。
「............。」
これはもしかして......
私は鼻先が触れるほど剣に顔を寄せると囁いた。
「君がいい。私の剣になってほしい。」
ボボボボボッ!!
「あれ?白っぽかった剣がピンク色になったぞ?」
背後から覗きこんでいたカームが目を丸くして首を傾げた。
「カームは剣に記憶があると言っていたけど、この剣は思考もあるらしい。
どうやら照れているようだが、やっぱり金具からは外れてくれないみたいだね。
ねぇ、君。どうして誰にも光らないんだ?
カームは君の近くによると悲しい気持ちが流れてくると言っていた。君は一体何が悲しいんだ?」
剣には口がないから勿論話せない。
だが、刀身がふるりと震えた気がして、私はさらに剣に語りかけた。
「教えてくれ。君をここに留まらせる理由を。」
そう言った瞬間、ぶわわっと風が巻き起こった。
自分の風魔法の暴発ではない。
目の前の剣から吹き出しているのだ。
「うわあっ?」
だんだんと竜巻のようにぐるぐる回る風達にカームが驚愕の声をあげた。
その風の渦巻く中に見たこともない光景が映し出される。
ーーーこれは村?
金色の稲穂が一面に揺れている。
小さな農村か。
ぐるぐる回る風の中で再び場面は切り替わり、村の住人らしき人間達がこちらに向かって手を合わせて何かを口走っていた。眉を下げて皆懇願するような切羽詰まった表情だ。
風はさらにその光景を消し去り、次に映しだされたのは迫り来る魔獣の大群。
この視界は剣のものなのだろうか、それとも剣の持ち主のものなのか。
剣先が空を切り爆風があがると、魔獣達が一瞬にして吹き飛んでいった。
視界はくるりと反転し、空から襲いかかってくる有翼の魔獣達がうつる。しかしビリビリとした振動とともに剣先が光り全ての有翼魔獣達をものすごい速さで切り落としていった。
強い。
この剣の持ち主の剣技の素晴らしさに思わず息を飲む。
光ったのは剣に魔力を付加したのだろう。
血飛沫が舞う光景に唖然としていると、また景色が移り変わり、最初に見た村人達が映った。
涙を流して喜び手を合わせてくる様子に、先程の魔獣達が村を襲い、そして剣の持ち主がそれを救ったのだろうと予想がついた。
あんな魔獣の大群が来たのなら村は壊滅的なダメージを受けたことだろう。それを防いだのだろうから剣の持ち主はさぞかし感謝されたのではないだろうか。
しかし、その次に映った光景は、そんな穏やかなものではなかった。
泣き叫ぶ村人、怒り狂い剣の持ち主を揺さぶる村人、そしてそれを虚な目でみつめる衰弱した子供たち。
ゆっくりと視界の持ち主が見渡した村は、最初に見た美しい農村の面影は欠片もなかった。
痩せこけた大地、枯れ果てた草木、ヒビの割れたかつては農地だったと思われる荒地。
痩せこけているのは大地だけではなく、その村の人々もだ。
そしてまた風は吹き荒れ、次のシーンを映し出す。
最後に剣の持ち主が見た光景。
ーーそれは、斧を持つ村人が振り下ろしてきた銀色に光る銀の刃だった。
「これが......君が誰の剣にもならない理由?」
風が吹きやみ、宝物庫の壁があらわになる。
問いかけてみたが、今度は風もおこらなければ刀身が色を変えることもなく、剣は沈黙を貫く。
さっきの不思議な現象で見たかぎりを考えると、村を助けた剣の過去の持ち主は、村人に最終的に恨みを買い殺されたのだろう。
戦闘で荒れた大地に作物が育たず村が飢え、そして一度は感謝した村の英雄に恨みを募らせた、おそらくそんな話。
「君と君の持ち主が村を助けなければ最初の段階で村は壊滅していた。その後、村が衰弱しても、それは君達のせいではないんじゃないのか?
作物が育たなければ、作物が育つ地を探しに村を移したり、復興するまで他村から援助を乞うなどの策を村人は考えるべきだったんだ。
動かなかったのは、村に固執して留まり飢えたのは村人達自身の責任だ。」
私はそっと剣のグリップを掴んだ。
「今、君が救える命がある
それはきっと、このまま君がここにいたら消えていく命だ。
私は君の力を手に入れて、私の大事な友人を救いたい。私の大事な友人の大切な人達を救いたい。
ーー沢山の剣の中から、私は君を選ぶ。
どうか、私とともに戦っておくれ。」
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