第9話
◇
軽快なワルツ音楽が流れているパーティー会場に次々と招待客が入って行く。
レオンハルト様と私は1番最後の入場なので、色とりどりのドレスを着たご令嬢達がパートナーとガーデンに入って行くのを別邸近くから眺めていた。
恋人や婚約者、もしくは異性の親族と共に入場していく彼女達の衣装はとても華やかで美しい。
あの雑誌に書いてあったように、パートナーの瞳や髪の色に合わせたドレスの色を選んでいる者が多いようだ。その衣装をまとった彼女達の表情は幸せを絵に描いたような笑顔で、その表情を見ているパートナーもこちらが恥ずかしくなるぐらいの甘い笑顔を相手に見せていた。
思わず自分の纏っている衣装を見下ろしてしまう。
レオンハルト様がマダムを王城に呼び出してデザインを考えてくれたドレスはAラインドレスだった。
Aラインドレスは中にパニエを重ね履けば、プリンセスラインにもなるある程度生地にボリュームのあるドレスの形だ。
腰をキュッと締め付けることでくびれを出し、そのまま生地を自然に流すことによって、スカート部分が膨らんだプリンセスラインのドレスよりも大人っぽく、見る相手に高貴なイメージを与える。
しかし、私がマダムにお願いして手を加えてもらった今のドレスは、くびれ部分も無く、優雅なラインを描くボリュームのある生地も長さだけはそのままにして半分以上切り取られていた。
マダムははじめデザインを変えることに難色を示していたが、『体型が変わっても着れるドレスがいい(暗に太ったのでくびれのあるデザインは無理)』と私が言ったところ、ハッとした表情をして大きく肯くと店のお針子達を総動員して今日のパーティーに間に合わせてくれたのだ。
なのに。作り変えてもらったのは自分なのに。こうやってドレスを見下ろすと心がキュッとするのはなぜなんだろう。
「アリシア、手を」
レオンハルト様が差し出した手に自分の手を乗せる。
手を差し出してくれた瞬間はこちらを見てくれたような気がした。しかし、私が顔を上げたときにはすでに彼の視線は私から逸らされていた。
そっと乗せた手のひらの触れる部分が燃えるように熱い。
怒っているんだろうか。
怒っているよね?
私より背の高い彼の耳元はうっすらと赤くなっていた。重ねた手指も僅かだが震えているように感じる。
それほどまで、顔を真っ赤にして怒りに震えるぐらいまで私に対して腹が立ったのだろう。
(これでいいのよ)
私が今ここで嫌われて婚約破棄に話をもっていくことが出来たなら、私は国外追放されないし、第二候補の令嬢を危険な目に合わすこともない。私が令嬢に悪事を働かなければ、テオ兄様も両親も貴族達から後ろ指を刺されることもないのだ。
ーーそして、レオンハルト様も愛するご令嬢と何の障害もなく幸せな結婚ができるのだから。
「どうした?アリシア?」
歩みを止めてしまった私に、レオンハルト様が振り向く。
「飼っていたハリネズミが、どうやらヤマアラシだったようで...」
「ハリネズミがヤマアラシ?公爵邸でペットを飼っているのか?」
斜め後ろから視線を感じて振り向けば、庭園の茂みの中からエルケが眉間にシワを寄せて首を左右に振っている。
「いえ。なんでもございませんわ。皆様をお待たせしてはいけませんわね。行きましょう。レオンハルト様」
「ああ、そうだな。
....そういえば、アリシア。そのドレスだが」
「.........っ!」
思わずびくりと肩を震わすと、そんな私を見たレオンハルト様はふいと視線を逸らした。
「いや、何でもない。行こう」
さっきの言葉の続きは何だったのだろう?
勝手にドレスを作り変えたことへの私への責めの言葉だったのだろうか?
ーーきっと今日が婚約者として彼の隣にいられる最後の日になる。
花の咲き誇るガーデンパーティー会場から湧き起こる拍手の中、私は最後の思い出にと胸を突きまくるヤマアラシを抑え込み、満面の笑顔を引き出した。
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