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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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剣を握るその意味を15


「南のガーラント公爵邸......?」


「そうだ、姉上のいる辺境伯領(北の守り)を避けて南に回って攻め込んできている。そんな知恵が魔獣達にあるとは思えんがな。不可解な話だ。私はもう行くぞ。」


「私も行っても?」


「あぁ、今日は入団式だったか。だったらシャル、おまえも立派な騎士の1人だ。加勢したら良い。」


 ルカス兄上は私を見てふっと笑うと手綱をふり、扉をくぐり抜けた。


「はい!!」


 駆けていく後ろ姿に返事をし、自分の馬をエントランスに回すよう使用人に指示する。

 バサっと羽音が聞こえ開いた扉から屋敷の外を見るとルカス兄上の灰色の馬が魔力で翼を生やして飛び立っていった。




「なんてあり様だ!」


 王都南へと馬を走らせガーラント公爵邸の近くまでたどり着くと、第二騎士団長の父上と魔獣退治を専門とする第四騎士団の団長が頭を抱えていた。


「父上。」


「シャルロッテか。」


「ガーラント公爵邸の周りが燃えています。水魔法を使っていないのですか?」


 私が現場に着いた時にはもう辺り一体が炎に包まれていた。王都の外にいる魔獣達が放った炎か。


「使っている。使ってはいるのだが、どうやらただの火ではなさそうでな。消しても消しても燃え上がるのだ。」


 目を凝らして見ると公爵邸にはまだ燃え移ってはいない。私の周囲にいる魔法庁の魔術師達が休むことなく水の結界を作り出しているからだろう。だが、作った結界は豪炎に焼かれすぐに焼失し、また術師が呪文を唱え結界を張り、また壊されの繰り返しでじわじわと炎が公爵邸へと近付いている。


 公爵邸より南を見ると、ドンッと腹の中にまで響く音や何かを切り裂くような高音とともに閃光がバチバチと走った。おそらく長兄達が王都の外で第四騎士団とともに交戦しているのであろう。


 その時公爵邸の3階のバルコニーにある大きなガラス扉が開いた。ドレスを着た女性が濃紺のお仕着せを着た女性達の腕を引っ張りバルコニーに避難させているようだ。しかしお仕着せを着た女達は口に手を当てなかなか屋敷内から出てこようとしない。恐怖で足がすくんでいるのだろうか。


 ドレスを着た女性が彼女たちを引っ張るようにバルコニーへと連れ出す。

 全員をバルコニーに出したあと、ドレスの女性が私達のいる方角を振り返った。


 強い意志を持つエメラルドの瞳。

 熱風になびく金髪は、炎に照らさせて赤く光っていた。



「アリシア嬢がバルコニーに出てきたぞ!」



 近くにいる騎士達が叫ぶ。

 

 探していあの時の天使が、いま目の前で炎に囲まれていた。

 アリシア・フォン・ガーラント。

 やっと再会できたのに......!


 皮膚をチリチリと炙り出す火の熱気に負けないように目を凝らすと、アリシア公爵令嬢の横で1人だけ落ち着いた様子のお仕着せを着た女性が手を盛んに動かしていた。

 どうやらその女性は水魔法を唱え、アリシアや自分達の皮膚が焼けつかないように魔法で出現させた水を自分達の頭上から降らせているようだ。

 何度も何度も唱え続け水で体を湿らすが熱風ですぐに乾いてしまう。それでも健気に魔法を紡ぎ出している様子が痛ましい。

 それに早く助けに行かなければ彼女の魔力も尽きてしまうだろう。


 一体どうしたら......っ?


 風魔法は使える。我がフラナン伯爵家は剣と相性がいい風系魔法が得意だ。

 しかし水魔法で消えない、おそらく魔獣達が吐き出した魔力の炎を消せるほどの風魔法などあるのだろうか。


(それに、この剣では無理か)


 腰につけている剣は、騎士学校から貸与されている学生用の剣だ。今日の選剣の儀で返却するのが普通だが、選剣を終えてない私は特例でいまだ使用することを許可された。

 ただこの剣では、私の全魔力を付加させることはできないだろう。魔法を発動させる前に、急激な魔力付加に剣が耐えきれずに果ててしまう。


 こんなことなら無理矢理にでもあの剣をもぎ取ってこれば良かったか。


「いや、今からでも遅くはないな。」


 無詠唱ではなく、言葉で呪文を紡ぎ履いているブーツに風属性の強化魔術を施す。


「シャルロッテ?何をしている?」


 魔力の匂いに父上が私を振り返る。


「忘れた物を取って戻ってきます!あ、そうだ!」


「なんだ?」


「父上は騎士に入団したとき宝物庫で『声』を聞きましたか?」


「声......。あぁ、あの場所を守っている姿の見えないアイツか。」


「はい。」


 父上もあのトカゲのような奴は見えなかったのか。


「あの声がどうした?それにおまえ、それは騎士学校の剣じゃないか。自分の剣を選ばなかったのか?」


「選びましたよ。ちょっと手強い相手で今口説いている最中なんです。

 父上、あの宝物庫はいつからあの場所に?」


「口説く......?まさか、まさか...。」


 何を勘違いしたのか父上のこめかみに青筋が走る。


「団長!剣の話です!剣の話です!娘さんは男の話をしているわけじゃありませえぇんっ!」

「シャルロッテ殿、宝物庫は建国時に作られたと聞いたことがありますよ。」


 何故かぷるぷると震える父上の代わりに周りにいた部下達や魔法庁の魔術師達が慌てて質問に答えてくれた。


「わかった。ありがとう。すぐに戻る。」


 馬から降り、父上の部下に手綱を渡すと、ダン!と踏み込んで近くの建物の屋根に飛び上がる。


 魔力は消費するが仕方ない。一刻の猶予もないのだ。ここから街の屋根上を魔力で風に乗り、走り抜ける。



 目的地は......、宝物庫だ。

 






 

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