剣を握るその意味を14
今回執筆時間がなかなか取れず、ちょっと急いで書いたので、説明足りない部分だなと作者が思った箇所があれば手直しするかもしれませんσ(^_^;)
壁や天井に飾られている全ての武器たちが光りだし歩きながら驚きに辺りを見渡していると、前を歩いていたトカゲのようなそいつが感嘆のため息をついた。
「すっごいな!ここまで沢山の剣たちが光ったのはアンタが初めてだ!今までに半分ぐらいは光るやつはいたけど!」
大きな黒い瞳をキラキラさせて嬉しそうに言う。
「なぜ光りだしたんだ?」
「剣達がアンタを気に入ったからさ!
アンタに選んでもらいたくて光ってる。武器庫の全部の剣が光るなんてすごいよ!さあ、どの剣を選ぶ?
全部光ってるからどれでも選べるぞっ。」
トカゲは、いやトカゲのようなそいつは興奮してピョコピョコと跳ねている。
「いや、全部じゃないな......。」
「えっ?」
「あれを見て。」
私が指さしたその先の一振りの剣。
白を基調としたグリップには青と緑の絡み付くような意匠が施されており、刀身は水色がかった銀色をしていた。
「光らないってことはこの剣は私に選んで欲しくないということなのか?」
「そうだよ。試しに取り外してみてよ。」
トカゲのそいつに促されて剣のグリップに手をかける。壁の金具から取り外そうと手前に引いたが微動だにしなかった。
「びくともしないな。」
「オイラ、今までこの剣が光ったのを見たことないんだ。それにコイツの近くに行くと悲しい悲しいって気持ちになるからいつもはあんまり近寄らない。」
「悲しい?」
「ここにいる剣は皆記憶をもっているから。きっとコイツはこの場所に来る前に悲しいことがあって落ち込んでるんじゃない?」
「ふぅん。なるほど。」
顎に手を当てて、光らない剣を見る。
「面白いじゃないか。私を選ばないんだね。」
クスクスと腹の中から笑いが込み上げる。
ーー私は思うように生きれるようになった。
女に産まれたからと兄達のように立派な騎士にはなれないと思い込んで、思考も体も幼い頃は見えない枷に動けなくなっていたが、成長した今はそれを断ち切って騎士にもなれた。
「あなたも自由に生きないか。私とともに。」
光らない剣に話しかけても静寂がただ広がるのみ。
「なぁ、剣は好きなやつには光るけど、話しかけても言葉は話さないぞっ?」
トカゲみたいなやつがキョトンとした顔で首を傾げる。
「ねぇ、トカゲのような君。私は体調が悪いから今は剣を選ばすまた明日この場所を訪れることにするよ。」
「ん?おまえ体調が悪いようには見えないぞっ?」
「今日一日考えたら君の名前がわかるかもしれないよ?」
そう言うとトカゲのようなそいつは黒い目を見開いてコクコクと頷いた。
元きた道を戻る際、光らない剣を一度だけ振り向いて私は微笑んだ。
「次に来た時には光ってもらうから。」
◇◇
騎士団施設の近くの広場に呼びよせていたフラナン家の馬車に乗り込んで家路へと急ぐ。
本来なら選剣を終えたものは騎士団の宿舎へと向かうのだが、体調不良と理由をつけて先延ばしにした私はまだその資格はなく今日は自邸へと帰ることになった。
馬車の窓から通りを眺めると沢山の場所が行き交っていた。
そうそう出会えるわけはないと頭ではわかっているのに、式典前に見た豪奢な公爵家の馬車をついつい目で探してしまう。
そうこうしているうちに、馬車は自分の屋敷のエントランスへと辿り着いてしまった。
天使が何者かわかったのだから、またすぐに会える機会はある。
ガーラント家は確か娘は1人だけのはず。
名は確か......
馬車から降りながら彼女の名前を思い出していると、出迎えた使用人達がフラナン家の両扉をゆっくりと開けた。
「シャルちゃんおっかえりぃ!」
べろんっ。
扉をくぐると同時に、いきなり目の前の大きな白馬に顔を舌で舐められた。
「................そっちこそおかえり。兄さん。それとルイーガ。」
私の挨拶に嬉しそうにブルルンと鳴いた白馬はフラナン家長男のクラウド兄さんの愛馬ルイーガだ。
ルイーガのヨダレでベタベタになった顔を無表情で拭き取りながら馬上を見ると辺境警備にあたっていて王都には居ないはずの長男がにこやかにこちらを見ている。
「じゃーな!」
クラウドは手を振るとパカランパカランと表現したくなるような軽快な動きで愛馬とともに屋敷のエントランスホールから扉を駆け抜けて外へと走り去って行った。
あまりにも自由奔放な姿だが、すでに慣れてしまっている私はエントランスホールに敷かれている絨毯を見た。
「まだわずかに光っているな。おまえ達もう少しさがれ。」
使用人を後方に下がらせると、絨毯の幾何学模様の配列が変わり魔法陣が現れた。
青白く光出した魔法陣から馬の鳴き声がきこえ、前脚が見えたかと思うと、今度は灰色の馬が美しい長髪の騎士とともに魔法陣から飛び出してきた。
「久しいな、シャル。クラウドが先に転移して来たと思うがどこに行った?」
私は無言で外を指さす。
「......相変わらず自由な奴め。」
「久しぶり。ルカス兄上。緊急用の転移魔法陣を使用するとは何かあったの?」
フラナン家のエントランスホールに敷かれている絨毯は緊急用の転移魔法陣が描かれている魔道具だ。
滅多なことでは使用されないが国中に散らばった親族が有事の際に使用し、馬や馬車ごと転移して王都まで戻ってくることができる。
フラナン家次男であるルカス兄上は、続いて魔法陣から現れる部下達を先に外に出し、片手を上げ詠唱し魔法陣を封鎖すると私に簡単に説明してくれた。
北の魔獣の群れが王都へと近づいて来ている。北から下がるのではなく東を回り、いま王都の南側まで来てしまっているらしい。王都の南側は比較的安全な地域だったから他よりも警備が甘い。
そして安全な地域ゆえに高位貴族のタウンハウスも多く存在している。
「魔獣達の進行ルートを予測した場合、一番危険な場所にあるのは、おそらく最南にあるガーラント公爵邸だ。」
ルカス兄上の言葉がエントランスホールに響いた。
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