剣を握るその意味を12
「あ!そうだ!シャル!父上から伝言があるぞ!」
後ろからハインリヒに羽交い締めにされながらレイノルド兄上が私に叫ぶ。
「入団おめでとうって?」
私が振り向いて聞くと、兄上はニヤリと笑った。
「『先日、第五騎士団の新しい団長が決まった。
“風は良くも悪くも吹く”』だそうだ。」
どういう意味だ?と問いかえす時間もなく、すぐに式の集合がかけられた。
まずは第一騎士団〜第五騎士団までの国内国外での任務内容が説明され、そのあと、総長、各騎士団長、事務長からの挨拶になった。
騎士団長の最初の挨拶は第一騎士団長から、そして我が父である第二騎士団長、第三、第四と挨拶が終わり、最後に第五騎士団長の挨拶を残すのみだ。
第五騎士団は団長の入れ替わりの時期を迎え、他の騎士団とは違い副騎士団長も同席していた。
何故かというと、騎士団長が交代する際は必ず副騎士団長も代替わりするという決まりがあるからだ。
たしかに新しい騎士団長に古参の副騎士団長が着いていたならば、騎士団長は命令しづらく気を使ってしまいそうだ。
新しい団長はどんな人物なんだろう?と周囲の者達がそわそわしているのがわかる。
その時、カチャリ、騎士服に付けた装備の音が鳴った。
カチャリ、カチャリ......
しんと静まり返った会場内に音が響く。
端から壇上に向かう長い黒髪のその人にそこにいる者全てが釘付けになった。
「君たちの入団を心より歓迎する。私が新しく第五騎士団を統括するローゼ・フォン・ハードルクよ。」
ざわっと辺りが驚きの声をあげる。
「おい、シャル。あれって...」
後ろに立っていたラスティが私の肩に手をおいて話しかけてきた。
「女性、だな。」
「すごいじゃない!この国初の女性騎士団長の誕生ってことぉ!?」
前にいたユナリアが口元に両手を当てて頬を染めた。
なるほど、父上の伝言の意味がわかった。
“風は良くも悪くも吹く”というのは、良い風が吹く時は好機にのり、悪い風が吹きそうな時は事前に対処せよ、という意味のフラナン家に代々伝わる格言だ。
つまり新しい第五騎士団長に選ばれたのは女性。女性の活躍の場が増えてきたこの機会を活かせ逃すなと言いたいのだろう。
ピシイィィ......ン!!!
「おまえ達はお喋りをしに入団しに来たのかしら?」
ざわついていた会場が一気に静まり返る。
第五騎士団長のサーベルが鞘ごと空気を切ったのだ。切られた空間はピシ、ピシッと不穏な音と光をスパークさせて騎士団長の頭上で蠢いている。
しんと静まり返った会場に第五騎士団長の朗々たる声が響き渡った。
「さあ、何をしにきたわけ?この始まりの日におまえ達に問おうじゃないの?
おまえ達は、何の為に剣を握る?
各自、所属が決まる前に自身の胸に問うて考えてみよ!」
そう言い放つと彼女は白いマントを翻し、壇上から降りて颯爽と自席へと戻っていく。
その後ろをオレンジの髪の男がクスクスと笑いながら付いて行った。あの男が副騎士団長なんだろう。
その男は席に戻る際、私達に背を向けたまま軽く手を振った。挨拶でもしたのかと思える仕草だったが、そうではない。彼が手を振ると同時に先程騎士団長が開けた空間の乱れが一瞬にして修復された。
「すっげえ...!!空間に軽い一振りで穴開ける騎士団長に、空間修復を無詠唱でする副騎士団長かよ......!」
近くで誰かがボソッと呟く。
たしかにすごかった。
ざわついていた会場が彼女のその一動で一瞬にして静まり返ったのだ。
何をしに来た?何のために剣を握る?か。
そんなこと、決まってるだろう?
私は騎士になるためにここに来た。国や王族、国民を守るために我等は剣を握るんだ。
その時の私はたしかにそう思っていて、その自分の答えが間違えてはいないと確信していたんだ。
◇
「いよいよだ......!!」
「落ち着きなさいよ、ラスティ。学校から来てる指導官が睨み効かせてるわよぉ。」
ユナリアの言葉によこを見れば確かに観覧席から私達が卒業した騎士学校の教官達が、ちゃんとしろよ?と言わんばかりに私達に鋭い視線を送ってきている。
「だってよ!夢にまで見た宝物庫だぜ!
あの中に俺の相棒がいるかと思うと、もう、さぁ〜!あー!早く中に入りてぇ!」
騎士団長達の挨拶が終わった後、新入団員の私達は騎士団の“宝物庫”の前へと移動させられていた。
宝物庫と言っても、金銀財宝を保管している建物というわけではない。
中にあるのはーーーーー
「やったぜ!俺は魔法剣だった!!」
建物の中から出てきた同じ新入団員の男が眩い紫の光を放つ剣を手に興奮した声をあげた。
そう。この宝物庫は騎士や冒険者が集めた剣、そして街の鍛冶屋達が丹精込めて作り上げた剣などを保管している武器庫なのだ。正式には武器庫なのだが、騎士団員達はみな宝物庫と呼んでいる。なぜなら、それぐらい騎士達にとって宝のような武器達が保管されている場所だからだ。
新入団員は入団式後、選剣の儀式を受ける。
宝物庫に一人で入り、自分が騎士人生を共にする剣を手に入れるのだ。
「私は精霊の守り石が付いている剣だったわ。」
宝物庫から出てきたユナリアが嬉しそうに剣を見せる。騎士学校の卒業生の中でも華奢な体格の彼女にちょうど合わせたような細身の騎士剣には黄緑色とピンク色がまざったような淡い光の石が嵌め込まれていた。
「ラスティはどんな剣だったんだ?」
あたりを見渡したがラスティが見当たらない。
「アイツならあそこよ。」
「............。」
ユナリアが眉を上げて指を刺す先を見れば、地面に丸くなった大柄な男が大剣を抱え鞘に頬擦りして涙を流して歓喜していた。
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