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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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剣を握るその意味を11

 豪奢な馬車が通り過ぎようとする様をなんとなく目で追っていると、その、窓の向こうからキラリと何かが光って見えた気がした。

(あぁ、煌めいたのは中にいる御仁の金の髪か?)

 光ったものの正体がわかり、興味を失った私が視線を前方に戻そうとした時、一陣の風がふいた。


 桜の花びらが舞い上がり、長くなった私の白金の髪を風がその桃色達とともに弄んだ。


 目の端に白いものが見え、それが自分の髪をひとつに結んでいた白いリボンが解けかかったものだと気がつくと、目に当たらないよう思わず目を伏せたが、すぐに風が弱くなって私はまた目を開けた。



「...........!!」



 私は自分の視界がとらえた対象物にはっと息を飲む。

 馬車の中の人物が私の視線に気づいたかのように窓の外を見たのだ。


 その人は光を閉じ込めたような美しいエメラルドの瞳を数回瞬かせると何事もなかったかのように再び窓から顔を背けてしまった。


 身動きすらできず、目を見開いていた私の目の前でガタゴトと音を立てて馬車が通り過ぎて行く。


「い......今の馬車は!?

 さっきの馬車はどこの家の馬車なんだっ!?」


「お、おい?シャルどうしたんだよ?急に。んー、あれはー......、多分馬車に入れられているピンクの家章からしてガーラント公爵様の馬車じゃないのか?」


「ガーラント公爵.....。」


 社交会にあまり出ない自分であってもよく知っている名家だ。


 フラナン家が風魔法を得意とする血統であるように、ガーラント家は光魔法を得意とする家系で、その親族は皆光を具現化したかのように光り輝く美しい金の髪を持って産まれてくると言う。


 確か、ガーラント公爵家には文官職に就いた息子と王太子の婚約者候補に選ばれた娘がいるはず。


 肩のあたりまで垂れ下がりハタハタと風に揺れる白いサテンのリボンを緩く掴む。


「......やっと見つけた。私の天使。」


 舞い散る桜の中、小さくなっていく馬車の背を見つめる私はきっと、歓喜や安堵といったいろんな感情でぐちゃぐちゃになった情け無い顔をしていたに違いない。





 入団式の会場前に着くと、まずは受付で名前を記入し、今後のスケジュールの書類を手渡された。


「シャル、入団おめでとう。これで3人とも立派な騎士だな。」


 入り口付近で警備のボランティアをしていたレイノルド兄上とハインリヒがすごく嬉しそうな顔で出迎えてくれた。


「あぁ、そうだな。シャルロッテ、入団おめでとう。3人で稽古していた子供の頃が懐かしく思えるよ。」


「あの頃は、くくっ、ハインツはシャルを俺の弟だと思ってたよな。シャルが騎士学校に入ってきて女生徒の服を着ていて初めて女だと知った時のおまえの顔ったら!!くはははは!ショックで三日間寝込んだんだっけ?」


「レイ......あの時のことは忘れろ。」


 ハインリヒが真っ赤な顔をしながら兄上の頭をぐいと手で追いやる。


「兄上、ハインリヒ、ありがとう。あの時ハインリヒが稽古をともにと公爵様に言ってくれなかったら今の私はなかった。感謝している。」


 あの時、ハインリヒの屋敷に行っていたなかったら天使に会うこともなかった。彼の一言がなかったら、稽古に参加もできず、そして天使に会えなかったら騎士になりたいと思いながらも諦めていたかもしれない。いろんな偶然や周りの人の思いのおかげで今の私があるんだ。


「シャルロッテが頑張ったからさ。」


 目を細めてハインリヒが優しい言葉をかけてくれる。

 ハインリヒは私が女だと知った時から、なぜか私のことをシャルと呼ばなくなった。


 騎士学校に入学するころにはブリスタス公爵邸に稽古で行くこともなくなり、たまにしか彼とは顔を合わさないのだが、こう、なんだ?、ハインリヒに優しく微笑まれたり?なんだか見つめられたりすることが増えてきて、心がむず痒くなることがよくあって困る。


 やっぱり、公爵夫人のような庇護欲を感じる女性が母親だからか、ハインリヒは全ての女性に優しくするべきだという考え方の持ち主なのだろうな。


「そろそろ行くよ。」


 もうすぐ式が始まる。


「ちょっと待て。」


 入り口を通ろうとするとハインリヒが慌てたように声をかけてきた。後ろにいる彼の護衛らしき人物から小さな箱を受け取り私に渡してきた。


 警備のボランティアに護衛という変な図になっているが、本来ならボランティアなどする身分ではない公爵令息の彼や兄上は私に祝いの言葉を言うためにその仕事に立候補したのだろう。

 すでに騎士団に所属している兄上たちは本当ならこの時間は勤務時間で入団式には来れないはずなのだから。


 ハインリヒに手渡された箱を開けると、青い花と白い小花が白金色のリボンで結ばれたコサージュが入っていた。

 それをみて、そう言えば、今日騎士団から指定されて着てきた騎士学校時代の制服の胸元に私は何も付けてはいなかったと気付いた。周りを見渡すと花飾りやブローチで華やかに装って入団式に来ている者がほとんどなのに。


「よかったな。シャルが何も着飾らずに出て行ったとハインツに言ったら慌てて用意してたんだぜ。」


「そうなのか?ありがとうハインリヒ。」


「大したことではない。使ってくれるか?」


 あぁ、と頷いて胸元にコサージュをつける。


「しかし、ハインリヒは本当に青が好きだな。卒業式前のプロムの時に用意してくれたドレスも青だったし。母が用意するドレスはフリフリ過ぎて困るから助かったけどさ。」


 コサージュを胸元に刺しながら私がいうと何故かハインリヒの顔が引き攣っていて、レイノルド兄上は肩を振るわせて口元を覆っている。


「うっく、ほんと贈りがいのない妹ですまん...。くはっ!」


「レイ、笑いたければ笑え。」


「そんな!麗しき青き瞳(・・・)の公爵令息様を私の身分のような者が笑うなど恐れおお、ぶはっ!」


「と言いながら笑ってるじゃないか、こら。」


 げらげらと笑うレイノルド兄上の首元を何故かハインリヒが締めあげて2人で騒ぎ出した。


「??

 式が始まるから急ぐよ。じゃあね、兄上たち。」


 レイノルド兄上とハインリヒは本当に仲が良くて良いことだな。うん。


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