剣を握るその意味を ⑩
公爵邸に忍び込んだことは結局、ブリスタス公爵令息が弟(私)も稽古に呼んでくれと公爵に頼んだことによって父上にバレてしまったが、そのことがあってからは堂々と兄上達の稽古に参加できることになった。
そして、フラナン家にいる時でもハインリヒ殿との稽古のためと言えば、剣術の稽古や基礎鍛錬を堂々と庭や稽古場でできるようになったのだ。
今までのように自室横の衣装部屋で隠れて素振りの練習などをしなくて済むようになったことは私にとってすごく嬉しいことだった。
フラナン家は代々騎士を輩出している血筋なので、女であってもそのへんの貴族令嬢よりは剣術や攻撃魔法に長けている。しかし、フラナン家でも女性であると、いつか他家に嫁ぐためのたしなみとしての女性としての教養やマナーを身につけることに重きをおかれてしまう。だから今までは隠れて練習するしなかったのだ。
でもこれからは自由に思い切り練習ができる!
ーー「あなたの思うままに生きて。」
あのとき天使の言った言葉が頭の中で響いた気がした。
そして、その次の週から私はレイノルド兄上とともにハインリヒとの稽古に参加したのだが、ブリスタス公爵邸で出会った天使に再び会うことはあれ以来一度もなかった。
レイノルド兄上に確認してもハインリヒにはやはり妹はおらず、どうせあとで父上に忍び込んだことがバレるのならあの時天使に自分の名をなのって彼女の名前を聞いておけば良かったと後悔した。
ハインリヒにあの日公爵邸に私達以外の貴族はいたかと聞いても、公爵邸は来客が多すぎて誰がその日にきたかは執事長にでも聞かなければわからないとのことだった。
そして来客リストは邸の秘密事項であるため見せれないらしく結局彼女が誰だったのかはわからなかった。
また会いたいな、そんな気持ちで母が参加する茶会やパーティーに顔を出してもやはりいない。
ーーー彼女はやっぱり人間ではなく本当に天使だったのかもしれない。
月日が流れて騎士を養成する王立学校に入学するころには、そんな諦めとともに私は彼女を探すこともしなくなっていった。
◇◇◇
「いよいよ入団式ね。」
王立学校をともに卒業した同志達とともに騎士団の入団式会場へと早足で歩く。
会場へと続く道は東の国から贈られてきた桜というピンク色の花が咲く木が並ぶように植えられており、入団式を迎える私達を祝ってくれるかのように美しい花々を咲き誇っていた。
「上機嫌だな。ユナリア。」
「うふふ。」
「そりゃそうだろ。宝物庫に入れるんだぜ。俺だって浮足立ってる。」
浮足立っているのは私達だけではないようで、周りを歩く入団希望者達の表情も皆一様に明るい顔をしていた。
「ぷっ。ラスティ、貴方もしかして昨日なかなか寝れなかったのぉ?」
「なっ!?そんなことはないぞっ!俺を遠足前日の子供みたいに言うなっ。...おい?シャル急に立ち止まってどうした?」
「王宮の方向から馬車が来る音がする。全員道端に避けるんだ。」
「マジか!」
私の言葉を聞いて、慌ててユナリアとラスティが道の端へと移動する。するとすぐに私たちの横を城門から出てきた豪奢な馬車が横切った。
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