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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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剣を握るその意味を⑥

◇ブックマークや☆評価で応援いただけたら嬉しいです(^^)。


 天使の小屋の中はやはり使用人小屋ではなく、誰か高貴な人物が敢えて趣味で庭園に作らせたような豪奢な内装だった。

 あまり広くはないが美しい壁紙が貼られた居心地の良いその部屋には小さなキッチンやラウンドテーブルに2脚の椅子。


 その椅子のひとつに案内され天使に座るように言われたが、私は先には座らず天使が座ろうとしている椅子の背をひいてやった。


「あ、ありがとう...!」


 どう見ても大人用に見えるその椅子は重たく、また高さもあり彼女には座りにくかったのだろう。嬉しそうに礼を言ってニコッと笑う顔がやたらと可愛い。

 そのあと自分も隣に座ったが、椅子は自分でも足が届くギリギリの高さだった。隣に座る天使は足が床に付けられずぶらりと足を所在なげにたらしている。


 丁寧な言葉使いに落ち着いた表情、それゆえに彼女がまるで年上かと錯覚しそうになるが、こうして隣に座ると私よりもかなり背が低く近くで見ると顔も幼い。


(私より1、2歳年下か?)


 じっと見ていると、天使が「ん?」と笑い「どれから食べる?」と聞いてきた。

 目の前にはアフタヌーンティーの準備ができていた。さっき棚から持ってきてくれたティーカップに天使が手ずから紅茶を注いでくれる。

 彼女の手は明らかに幼児のふわふわした小さなものなのに、ポットを持つ手はまるで大人のようにしっかりとしていて、一滴もこぼさない。


 ーーー不思議な子だな。


 見かけは自分より幼い子供なのに、まるで大人と茶会をしているような落ち着き感がある。


「......あなたは天使なのか?」


 つい、心の声をもらしてしまい、はっとして全身が羞恥心で熱くなった。

 この世界では天使なんて御伽話の想像上の生き物だ。

 ほら見ろ、目の前の天使のような幼女も大きな目をさらに大きく見開いて私の言葉にぽかんと口を開けているじゃないか。


「いや、その......君は5、6歳に見えるのに中身がまるで大人のように落ち着いてるからさ。私の周りにいる子供たちで君の年頃の子は何かあるとなぜ?なんで?と聞いてきたりこのように椅子にじっと座ることもなかなか難しい。ましてや陶器のポットから紅茶をこぼさずにいれるなどなかなかできたものではないから......君がまるで見た目と中身が違う天使のような存在のように思えてしまって......。」


 そう言って慌てて言い訳をしたら、彼女は今度は顔を青くした。


 天使、と言われるのが不快だったのだろうか?


 想像上の存在である不老不死の天使は、絵画などでは白い翼を持つ幼い子供の姿で描かれることが多い。

 しかし、とても美しい少年少女の姿をしており、天使と例えられて不快な感情を持つ人間は少ない気がするのだが。


「あああああ。私やってしまった!?」


「は?」


「もしかして私、最近覚醒したばかりだからって、あっちの記憶に引きずられてておばさん臭ふりまいてる!?」


「おば........?」


 急に焦り出した彼女は、綺麗なハニーブロンドの頭を両手で抱え込んで、この世の終わりのように顔面蒼白で早口に叫び出した。


「だって仕方ないじゃない!思い出したのこの前の誕生日だし!明らかに年齢足したら若いとは言えないし!もっと気をつけるべきだった!?でも気をつけなきゃって思っても難しいし!普通の5歳ってなに?あっちでの5歳もすでに過去すぎて記憶にないよ!?5歳ってなに!?普通の5歳ってえぇぇぇっ!?」


 早口すぎて内容が聞き取りにくいが、どちらというと彼女は自問自答しているようなので、私は呆気に取られながらも彼女が落ち着くのを待ってみた。




「............。」


「落ち着いた?せっかく君がいれてくれた紅茶が冷めてしまうから飲もうよ。」


 ひとしきり騒いだあとに彼女は自分がパニックになってしまっていたと気づいて恥ずかしくなったのか、目の前のラウンドテーブルに顔を伏せてしまっていた。


「や。あの。人前で騒ぎ出すなんてお恥ずかしいところを......」


「気にしてないよ。うちの姉上や兄上などもっと騒がしいからね。最初君が物静かすぎる子供に見えていたから、今のでちょっと親近感がわいたぐらいだよ。」


「あなたもかなり冷静な子供なのね?」


「私も?そうかな?だとしたら、歳の離れた姉や兄が数人いるから同い年の子よりは落ち着いちゃったのかもね。」


 1番歳が近いのは1歳上のレイノルド兄上だが、私には他に歳の離れた3人の姉や兄がいる。フラナン家は子沢山なのだ。


 紅茶を口に含み、「食べようか」と天使に微笑むと彼女はへへっと笑って目の前のお菓子を食べながら、どれが美味しい、これは紅茶に合うなどなど、いろいろな話を語ってくれた。


 私はどちらかと言うと、たまに母に参加させられる貴族達のお茶会は苦手で、社交辞令のオンパレードな会話をするのも、茶会のマナーで華美な服装をさせられるのも辟易していたのだが、彼女との小さな茶会はそれとはまったく違うものだった。



 ーーーー楽しい。



 自然体で話す彼女の言葉には社交辞令もみえすいた賛辞も取り繕いも何もなかった。

 それに、こんな稽古着姿で椅子に座り、3段プレートの菓子やサンドイッチを食べていても彼女はまったく気にしていないようだ。2人きりの茶会とはいえ、本来なら簡単なドレスコードぐらいは守るべきであるだろうに。

 


 ーーーーこんなに楽しくリラックスできる茶会は初めてだ。


 私はこの時、生まれて初めて茶会が楽しいと思えたのだった。

 

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