剣を握るその意味を③
「がっ!?」
ブリスタス公爵令息の木刀が、私の持つそれに打ち付けられ、手に振動が響き思わず声が漏れる。
彼は兄上よりもがっしりとした体付きをしておりやはり筋力もすごいのであろう、グリップを掴む私の手は彼の攻撃を受け止める度にじんじんと痺れた。
......しかもコイツ、手加減しているな。
レイノルド兄上もそれほど体格が大きいわけではないが、私はさらに兄上より華奢な体型をしている。
フラナン伯爵家は代々剣術に優れた家系ではあるが、とくに体格が良い遺伝子を持っているわけでもなく、どちらかと言うと今打ち合いをしているブリスタス公爵令息や公爵様のほうが素晴らしい体格をしている。
公爵令息の腕に比べると毎日鍛えているはずの私の腕が細腕に見えてしまうほどだ。
自分よりひ弱そうに見える私に手を抜いて相手してやっているということか。
こんな屈辱は初めてではないので、今更腹も立たないが、彼が本気を出さないことにはわざわざ公爵邸まで来た意味がない。
「ブリスタス公爵令息殿、本気で打ち合え!」
ガツンとぶつかり合った木刀越しに彼の青い双眸を睨む。
しかし、そんなことはできないとでも言いたげな表情をされ私は小さく舌打ちをした。
「だったら本気をださせてやる!おい、そこのおまえ笛を鳴らせ!」
ギリギリと木刀を押し付けあったまま、少し離れた場所にいた先程の大男に笛を鳴らすよう叫ぶ。
急に私に命じられた男は公爵令息のほうを見て笛を鳴らしますよ?とアイコンタクトを取った後、思い切り笛を鳴らした。
ピーーーーーッ!!
「君は私より幼く見えるが、もう剣に属性付与ができるのかっ?私やレイノルドでさえ習得できたのはつい最近だぞ。」
少し驚いた表情で聞いてくる公爵令息の木刀を横に弾いて、後ろ飛びで距離を取った。
「ああ、できるよ。というかもうすでにできている」
ニヤリと笑った私に彼は目を見開いた。
「は?まさか、無詠唱で......!?」
そう、私は笛が鳴るとともに2つの魔法を無詠唱で自分自身と木刀にかけ終わっていた。
ーーーー属性付与
剣......風刃
ブーツ......疾風
本当は自身に魔法をかけて腕力を上げたいが、いまの私には武器防具に属性付与するこれが精一杯だ。
しかし、7歳で2つの魔法を同時に無詠唱で属性付与できるならたいしたものではないだろうかと自分では思う。げんに目の前のブリスタス公爵令息は驚きの表情をしている。
はっと目を見開いた彼は慌てて呪文詠唱し、木刀に光魔法をかけると私が叩き出す技をその光る剣で跳ね除けた。
(さすがだな。)
木刀と脚にかけられた魔法による素早い動きについてこれる相手に出会えたことに思わず笑みが溢れる。
だが、どうやら彼は何故かいまだ全力で戦うことを躊躇しているようだ。
「見かけだけでか弱き者、幼き者と見くびっているといつか命を落とすぞ!だああああぁぁっ!!」
高く振りかぶった私の剣の周りを風が渦巻いた。
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