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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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剣を握るその意味を②



◇◇◇◇



「えーいっ!!」


「たあっ!!」


 カンカンと木刀が打ち合う音が庭園に響く。

 広い庭園の芝生の上で駆け回り時折お互いに

技を繰り出し打ち合う子供たちは大人顔負けの剣術を繰り広げていた。


 子供たち2人のうちの1人、白金の髪を短く切りそろえ長めの後ろ髪だけを紐で結んでいる子供は、私の兄であるレイノルドだ。

 そしてその相手をしているストロベリーブロンドの背が高い子供はおそらくこの屋敷の息子、ハインリヒ・フォン・ブリスタス公爵令息なのであろう。



 ピーーーーッ!!



 2人の打ち合いを見ていた大柄な男が笛を鳴らす。


 その笛の音を聞いた子供たち2人は打ちつけあっていた剣の先を離し後ろ跳びに間合いをとると大きく息を吸った。



属性付与(エンチャントメント)...風刃(ウインド・ブレイド)!」


属性付与(エンチャントメント)...光乱射(スカッター・レイ)!」



 さっきの笛は魔力開放の合図だったのだろう、各々の魔法詠唱とともに剣へ属性付与の魔法がかけられる。

 ブリスタス公爵令息の剣は光魔法により金色に光り輝き、レイノルド兄上の剣は風魔法により剣の周りに小風がぐるぐると吹き荒れる。



「だあーーーー!!」


 先に踏み出したのは兄上だ。


「来いっ!!」


 ブリスタス公爵令息が兄上の剣を受け止める。


 バチバチバチッ...!!


 光魔法による剣の光放射が風魔法の引き起こした風を巻き込み、お互いの剣が触れるたびに相殺される。



「いいな...。」


 さらに白熱していく彼らの打ち合いを庭園の低木に隠れた私は目を輝かせながら見守っていた。


 ちらりと自分の手元を見る。剣だこができている小さな自分の白い手には、彼らと打ち合うための剣などはもちろんない。


 それもそのはず、私は今日ここに来ることを許されていないからだ。

 騎士団長である私の父上は、ブリスタス公爵様に頼まれて、週に一度だけ彼の息子の剣の稽古に付き合っていた。そして最近は令息と同い年のレイノルド兄上を打ち合いの相手としてブリスタス公爵邸に連れて行くようになっていて、今日もその稽古の日だった。


(兄上だけずるい。私だって1歳しか歳が変わらないのに。)


 そう思った私は、自邸で使用人が洗濯して乾かされていた兄上の稽古着を物干し竿から拝借し、父上と兄上が乗る予定である公爵邸へと向かう馬車の荷台へと乗り込んだのだった。


 強面の騎士団長として知られている父上だが、自分の子供たちにはめっぽう甘い。

 しかしそんな甘い父上でも、公爵邸に無断で侵入したと知ればさすがにカミナリを落とすだろう。いや、我がフラナン伯爵家は風魔法を継承する家なので、カミナリではなく父上の怒りによる魔力暴走により王都を覆うほどの竜巻が起こるかもしれない。


 父上の暴走を想像してぶるるっと身震いしてる間に、彼らの打ち合いは終わったらしく、レイノルド兄上は父上と打ち合いを見に来た公爵様に呼ばれて屋敷の中へと入っていった。ブリスタス公爵令息も公爵様に呼ばれたようだが、首を軽くふって何やら話した後にその場に残った。


 彼は、兄上たちが去ると自分の剣を再び握り剣術の稽古をはじめだした。

 兄上の腕もかなりのものだが、彼の剣術も素晴らしい。どうにかして自分も稽古の相手になりたいものだ。


 なんとなく彼の後方を見るとレイノルド兄上が使っていた木刀が庭木に立てかけられ置いてある。

 おそらくこの場にすぐに戻るつもりで置いていったのだろう。


(やった!!)


 私は隠れていた低木の後ろから飛び出すと彼の後方にある木刀を掴み公爵令息に向き直った。


「誰だっ!?」


 ブリスタス公爵令息が鋭い声をあげ剣をかまえた。


 その声と同時に私と彼の間にさっき笛を吹いた大柄な男が立ち塞がる。おそらく公爵令息の警護を担っている者なのだろう。


「.........子供?」


 公爵令息が彼の後ろから顔を出して私をまじまじと見てきた。


「ヤナ、大丈夫だ。下がれ。

 その子の服に付いているボタンにフラナン伯爵家の家紋が入っている。伯爵家の関係者であろう。」


 ヤナと呼ばれた大男が下がると、彼は私の近くに歩み寄ってきた。


「君は誰だ?レイノルドの弟か?いや、しかし弟がいるとは聞いていな...」


「剣の稽古がしたいっ。」


「は?」


「問答無用!!だあああああぁぁぁっ!!」


 いきなりの私の発言に目を丸くしているブリスタス公爵令息に、さっきの木刀を打ち込む。


 カアァァンッ!!


「なっ...!?ちょっ...!待てっ!!おまえ何者だ?何で急に...!?」


 不意打ちのような私の攻撃に焦りながらも自身の木刀で打ち返しながら、公爵令息が誰何の声をあげた。

 しかし、私はこっそりと兄上たちに付いて公爵邸に潜り込んだのだ。自分が誰かなんて言えるわけがない。

 無言で彼に打ち込んでいく私に、相手は名前を問いただすのを諦めたのか、グリップを握る手を握り直した。


「はっ。そんなに俺と稽古がしたいなら謹んで受けてやろう。」


 ブリスタス公爵令息が青い目をキラリと光らせ口角をあげた。



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