剣を握るその意味を①
※アリシアがレオンハルトの婚約者になる前のお話です。
シャンデリアが蝋燭の光を反射して煌めく。
優雅な宮廷音楽の音色に身を任せ、きらびやかな装束の男女たちが、いろいろな思惑を胸に秘め今夜も踊り続ける。
化粧で厚塗りをした顔の下には醜い野心をひた隠して。
鼻をさすような香水の匂いに自身の淫らな野望の臭さを上書きさせ誤魔化して。
そんな貴族達のくだらない社交の場で、私は一人の人だけを見ていた。
どんなに汚れた者たちで溢れかえった場であろうとも、彼女の周りはまるで清浄されたかのように空気そのものが綺麗に見える。
ゆるくウェーブのかかった金髪は神に祝福されたかのように麗しく、透きとおるような白い肌に高価な宝石みたいに汚れのないエメラルドの瞳。
......ただその瞳は今は伏せがちに曇っているが。
「ふっ。」
口元から薄い笑いがもれる。
なぜなら、今彼女の憂いをなくすことができるのは私だけなのだから。
目の端に、彼女に声をかけたくともかける力も勇気もない男たちがチラチラと彼女を盗みしているのが見えたが滑稽でしかない。
王族が退出したあとの無礼講の貴族達のパーティーではあるが、次期王太子になるだろうと言われているレオンハルト殿下のお気に入りの彼女にダンスを申し込める肝の座った男などおそらくいない。
私だけだ。
彼女の手を取り、彼女を浮上させることができるのは。
そう考えるとくだらないと思っていたこのパーティーですら素晴らしいことのように思えてくる。
今まで足枷だと思っていた自分の本来の姿が逆に彼らへの優越感を感じるものへと変わっていく。
やっと見つけた。
やっと再会できた。
今の貴方に私はどう映るだろうか?
どうか私に気づいて欲しい。
私が過去の私と違うことに気づいてほしい。
私の剣は貴方のために。
そう、貴方のためだけに。
あれから私は生きる目的を自分で見つけたんだ。
さあ、手を取って。
その美しい瞳に今の私を映してほしい。
「私と踊ってくれませんか?」
ハッとした表情で顔を上げた貴方は、エメラルド色の瞳を一瞬大きく見開く。
そして、私が誰だか気づいたかのように小さく「あ...!」と呟くと、声をかけた私に天使のように微笑んで返事をくれた。
「ええ、喜んで。」
懐かしさや嬉しさが入り混じった彼女の声音をこの耳で再び聞くことができた私は心の中で海の神に誓った。
ーーーーーこの人を私の剣で一生守り続けると。
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