第57話
「なぜここにいるっ!?君はここに来てはいけないのに!!」
.........!!
投げかけられたきつい言葉に胸の中でなにかがヒュッと震えた気がした。
キミハココニキテハイケナイノニ
キミハココニ......
頭の中で何回か反芻してやっと言われた言葉の意味が理解できた。
「レオ...ン...ハルト様...。」
薄く開けたまま固まっていた自分の唇をなんとか動かして言葉をひねりだす。
呟くように口からでた彼の名前にレオンハルト様ははっとして口元を押さえて慌て出した。
「す、すまない!アリシア!そうじゃない!そういう意味ではなく......」
「...申し訳ございませんでした。今後この書庫には、この場所には......二度と近寄りません。」
深々と頭を下げる私に殿下がたじろいたような気配がした。
普段はお優しいレオンハルト様の先程のきつい言葉は、私がただの婚約者で、しかもレナーテ様のように殿下に愛されているわけではないただの婚約者だから、王族が使用するこのような場所に出入りはするなという戒めだったのだろう。
あぁ、そういえば殿下はレナーテ様とお会いしていたはずなのに、なぜここに来たのかしら。
もしかして、2人の逢瀬をこの書庫に近づいてしまった私のせいで邪魔されたから余計に苛立っていらっしゃるのだろうか。
.......なんだか頭がふらふらする。
帰ろう。公爵邸に。
「では、私はこれにて失礼致します。」
「違うんだ!アリシアっ!!」
本来なら殿下がこの場を立ち去る前に一方的に帰ると宣言するなど不敬にあたることだ。でも今はとてもそこまで気を使って考える力がなくなっていた。
ふらふらと立ち去る私の背後からレオンハルト様の慌てふためいたような声が聞こえてきたけれど、さっきの言葉の意味を改めて説明されることを恐れた私は一度も振り返らずにその場をあとにしたのだった。
◇今回の話で一旦本編はお休みとなり、明日から番外編の投稿になります。主人公と殿下がすれ違ったままという心がざわついたシーンでお休みになってしまいましたσ(^_^;)が、気持ち切り替えて番外編をお楽しみください(^^)。
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