第51話
「わざわざラファエル達が用紙を取り寄せたとか?確かに誓いだけではなく目で見える婚約証明書のほうが女性は安心するものなのかもしれないな。」
「は?誓いだけとは......?」
「シーガーディアン王家との婚約は民間のような書面を必要としない。祖先に......海に、誓いを立てる。だから目に見える証が欲しかったのかと思ったのだが違うのか?」
な。なんですと!?
王家には婚約証明書や婚約破棄証明書のような書面がない!?
「で、では婚姻証明書もないのでしょうか?」
「王太子妃教育でまだ習っていないか?婚姻は海に名を刻む。」
......習ってないというか、講師は教えてくれようとしていた気がします。気がしますが、婚約破棄する、もしくはされる私には関係のないことだろうと右から左に抜けてました。すみません。
「海に......。」
「そうだ。2人で海の中の祭壇に赴き愛を誓う。俺も祭壇には成人の儀の時に行ったことがあるが美しい場所だぞ。楽しみにしているがいい。」
それでわかった。
前世でレオンハルト様のルートを攻略した際に最後に出てきたスチルはレオンハルト様とウェディングドレスを着たレナーテ様の寄り添う姿だった。
輝く銀髪の下の目を伏せて口元を微笑ませるレオンハルト様と彼と結ばれた喜びでその白い陶器のように滑らかな頬に涙を伝わせる主人公のスチル。そのあまりの美しさに、クリアできた感動も相まって思わず床で悶絶したのを覚えている。
その時の2人の背景がなぜか海の中だったのだ。
海面から降り注ぐ日の光に照らされたレオンハルト様の銀糸のようなお髪は本当に幻想的で思わずスクショを......。
「どうした?アリシア嬢?」
「......いえ。なんでもございません。」
前世のゲームを思い出してつい鼻血が出そうになっただけですとはとても言えない。
私は訝しげな顔をするエアハルト様に、鼻を押さえながらにこりと笑った。
つまりあの場所が婚姻を誓うための祭壇だったということなのね。
レオンハルト様のルートを攻略したことがあるとはいえ、ゲームを作った側の運営が明かしていない設定までは私にはわからない。
王家には婚姻や婚約を証明する書類がないのか。
よく考えてみたら、今まで私が殿下から離れるために参考にしてきたのは貴族や民間人が書いた書物だ。
だから王族との婚約破棄には参考にならなかったのかもしれない。
王族には王族のしきたりやマナー、そして独特の恋愛観などがあるのだろう。
それがわからなかったから、レオンハルト様から呆れられ離れることができなかったのだわ。
なぜ、なぜ気づかなかったのかしら...!
だったら王族について学べばいい。
そして今ちょうど私の目の前には参考にできる王族がいらっしゃる。
「エアハルト様、あの、お願いがあります。」
「ん?なんだ?」
邪気なんて感じさせない真摯な紫の瞳をじっと見つめて私は胸元で両手を組み合わせた。
「私に王族の愛を教えてください。」
「......レオンに氷漬けされるのは、御免被る。」
顔を青褪めさせたエアハルト様はひくっと口元を引き攣らせてなぜか後退りした。
「えっ?なぜエアハルト様がレオンハルト様に氷漬けされるのですか?
王都の書店や図書館には王族の恋愛小説やしきたりについての書物がなくて。」
「あぁ、そう言う意味か。」
ならば王宮内の図書館に行ってみるといいとエアハルト様が教えてくださった。
レオンに誤解を招く言い方をするな、俺の命に関わるとなぜか怒られたけど。
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