第47話
「そ、それはさ、きっと」
先程、同僚を嗜めた警備兵がうーんと唸りながら考える。
「そうだ!殿下がきっとアリシア様に一目惚れなされたんだ!」
周りの警備兵達が、がくっと力が抜けたのが空気でわかった。あのね、そんな単純な理由で王太子妃を決めるわけないでしょう。あまりの答えに私も地面に顔を打ちつけそうになっちゃったわよ。
「おいおい...。」
同僚達もそう感じたのだろう。
王太子とともに国の未来を支える婚約者を選ぶのに、そんな理由なわけないだろ?とその警備兵に呆れているようだ。
「だってよ、アリシア様はレナーテ様とは違うタイプの女性だけど、かなりの美少女だぜ。
それにレオンハルト殿下と同じ読書好きって話だ。ガーラント公爵家にはアリシア様専用の図書室があるらしいし。可愛いくて趣味も合うなら殿下が好きになられても不思議じゃないんじゃないか?」
私が読書好き?いや決してそうではなくて確かに読書はよくするけど、それはいかに離縁、婚約破棄するかの指南書だし。むしろそれ以外は読んでいないし。
そして、確かに私の部屋の続き部屋は私専用の書庫になっていたりするけど。これは5歳から集めまくった婚約破棄に関する本が部屋に散乱する有り様にうんざりした侍女達が、隣の部屋に棚を置き整理整頓してくれた部屋なのよね。あっ、ちなみに集めすぎてそろそろ床が抜けそうなんで、公爵邸の庭の端に図書館を建てて欲しいとお父様にお願いしていたりする。
......あれ?私、もしや読書家と勘違いされるような行為してる?
「あっ、確かに聞いたことあるぞ。婚約者決定の最終段階で、趣味も合えば仲睦まじく国政を担ってくださるだろうと選出議会の全員一致でアリシア様に賛成となったと。」
......なんですとっ!?
ちょっ、ちょっと待って。
レオンハルト様から離れるためにしていた行為が、逆に本好きと思われて議員全員から婚約者に推されたってわけ??
王太子妃なんて、趣味が合いそうだからってそんな安易に決めちゃって良いものでもないでしょうに!?
そんな馬鹿な......。
前世で身についた隠れオタク臭は隠せていないかもしれないが、立ち振る舞いやダンス、学力については5歳から公爵家の総力をあげて仕込まれたのでレナーテ様とさほど変わらないはず。
だけど、生まれつき持っている魔法属性については明らかにレナーテ様のほうが上だ。全属性を使える人は王族を除けば滅多にいない。それぐらい希少なことなんだ。
なのに、レナーテ様は選ばれなかった。
なぜ......?
「あぁ、でも確かに趣味や嗜好は合うほうがいいよな。」
さっきまで、どちらかというとレナーテ様を気に入っているような発言をしていた警備兵が急に意見に賛同するように頷いた。
は?
「やっぱりアリシア様だな。」
「だろ?レオンハルト様とお似合いなのはアリシア様だよ。」
何?だってさっきまでは......
(まさか、これって)
ゲームでは、レナーテ様が引きこもってしまっていたからアリシアが第一候補と言われレナーテ様は第二候補と位置付けられていた。
ではなぜ、引きこもっていない彼女が第一候補にならずに私が選ばれたのか。
はっと気づいたある事に、血の気がひいていく。
「ゲームシナリオの強制力......?」
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