第46話
エルケと別れた場所まで戻らなきゃ、そう思って立ちあがろうとしたところで誰かが来る気配がした。
「それにしても綺麗だったよな〜、レナーテ様。」
「あぁ、水の精霊のような美しい髪をされていて、銀髪のレオンハルト様の近くにいるとまるで絵画のようだったな。」
聞こえてきた男達の会話に今1番耳に入れたくない2人の名前が含まれていて、伸ばしかけた足を思わずまた折りたたんでしまった。
今日が春の日で良かった。庭園に植えられた低木は葉が生い茂り、私の身を隠してくれている。
陽光を浴びて咲き乱れる花々も私のドレスのフリルやリボンをカモフラージュしてくれているようだ。
「お似合いだよな〜。」
「おいっ。滅多なことをいうな!レオンハルト様には婚約者がいらっしゃるんだぞ。」
はい。いらっしゃいます。
現在、庭の地面に張り付いておりますが。
葉の影からこっそりと向こう側を見上げると、警備兵らしき3人の男が見えた。
どうやら庭園の見回りをしているようだから、きっとバラ園のほうで私とエルケが見た光景を彼らも同じように見たのだろう。
「アリシア様か。アリシア様も可愛いけどな。」
うぐっ。可愛いけど、なんでしょうか?
はっ!前世の記憶持ちのために中身がちょっとババ臭いと...か?
たしかに今の年齢に前世の年齢を足すと......いや、考えるのはやめておこう。
「レナーテ様は全属性の魔法を使えるんだろ?アリシア様は光属性と闇属性しか使えないと聞いたぜ?
お二人が同じ魔力量の持ち主だったとしても、光と闇じゃ属性を打ち消しあって殆ど魔力をコントロールできないはずだ。なんで次期国王の婚約者に選ばれたのか不思議じゃないか?」
「それは......」
そう、私もそれが不思議で仕方なかった。
ゲームの世界では、レナーテ様はゲーム開始の年齢になるまで社交の場に出てこないはずなのだ。
5人の王子の婚約者候補達は私が5歳の時に選ばれるが、レナーテ様は選出されたあとも私達の前には姿を現さない。
なぜなら、お年を召してから産まれた我が子を可愛がるあまり、レナーテ様の美しさを心配されたエルドナドル公爵夫妻はレナーテ様が幼い頃に彼女を連れて領地へとひきこもってしまうからである。
エルドナドル公爵領は広く、王都に近い場所以外は穏やかな森林地帯や農地が拡がる。
その自然豊かな中で育ったレナーテ様の心の美しさや水の妖精のような容姿、そして何より他の令嬢達にはない自ら未来を切り開こうとする強い意志に惹かれ、王子達はだんだんと彼女を愛するようになる......確かゲームシナリオでは話がそう進んでいくはずだ。
でも現実では、レナーテ様は王都にいる。
彼女がひきこもっていないのならば、光と闇というような相反する属性魔法しか使えないアリシアを婚約者に据えずに、はじめから全属性魔法の使えるレナーテ様を選べばよかったのではないのかしら?
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