第6話
「それって婚約者選定前どころか、レオンハルト殿下が立太子される以前にすでにお嬢様のドレスを注文してくださっていたってことですよねぇ」
現実逃避から無事帰還したエルケが嬉しそうにニヤついている。
「ほほほっ、才に秀でるレオンハルト殿下が王太子となられることは内々でほぼ決まっていたようなものですからねっ。愛するアリシア様のために王宮行事で着用するドレスを早め早めにご用意されたかったのでございましょうねっ」
「アリシアお嬢様、愛されていらっしゃいますねぇ」
「そ、そんなはずは......」
そんなはずはない!ない!ない!ない!
愛されているわけなんてない!!
悪役令嬢である私がレオンハルト様に愛されているはずがないでしょう?
だって、乙女ゲーム『5人の王子と謎めいた王宮』で主人公が操作して第三王子レオンハルト様と愛を育むのは婚約者選定にて第二候補だった公爵令嬢なのよ。
レオンハルト様が愛すことになるのは決して私ではないのだ。
ゲームのシナリオでは、第三王子の婚約者選定は適正テストや学力、マナーやダンスの技量を総合的に判断した上に王宮内の要人達の会議によって決定した、いわゆる政略的なものであった。
つまりレオンハルト様はアリシア・フォン・ガーラントを愛してはいなかったはずだ。
それゆえにアリシアはレオンハルト様に愛された第二候補の令嬢に嫉妬し、悪に手を染めてしまうのだから。
......となるとこの山のようなドレス達は一体なんのためなんだろう?
レオンハルト様の考えていることがいまいちわからない。
婚約者を大事にしているように見せかけたい何か理由があるのかしら。
「で、どうしますか?アリシアお嬢様?」
エルケの問いにハッと顔をあげる。
「そ、そうねっ。マダム・ポトナス。このドレス達の中で1番直近の納品予定なドレスはどれかしら?」
「あら、それでしたら、こちらですわっ。週末までにガーラント公爵邸にお届けするよう申しつかっておりますのよ」
マダム・ポトナスが沢山のドレスの中から裾の短めなAラインのドレスを手に取る。
「そのドレスが......?」
思わず息を飲むほど綺麗な若草色に近いパステル調の薄い黄緑の地に、所々薄いパステルピンクのグラデーションの飾りが施され、レース部分は全て真っ白な上にまるで朝露がついた草花のように小さなダイヤモンドが縫い付けられている。
レオンハルト様が私に準備してくれたガーデンパーティー用のドレスは、ひと目見ただけでも手の込んだ極上品とわかるドレスだった。
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