第41話
目尻に暖かいものが伝う。
「どうしたんだ、アリシア!?やはり頭を打ったりしたのか!?」
目を瞑ったまま左右に首を振る。
殿下の瞳を見ることが怖くてできず目を閉じたまま涙を流している私に、かなり動揺している殿下の気配がした。
「殿下っ!?アリシア様っ!?いかがされましたっ!?」
「お嬢様!?」
バタバタと足音がして、お茶会中は庭園の外側で待機している近衛兵とエルケが近付いてきたのがわかった。
レオンハルト様が何かにハッと気付いて、目を瞑ったまま彼の下に倒れていた私を起こしてくれた。
いつもは優雅な彼の仕草が少し慌てたような感じがしたのはなぜだろう?
不思議に思い、薄く目を開けるとレオンハルト様が城のほうを見上げ、片手をあげて魔力を使うのが見えた。すると、彼の執務室と思われる部屋の窓から仕事用の銀縁眼鏡が飛んでくる。
すちゃっと眼鏡をかけたレオンハルト様は、私を立たせると彼は数歩後方に後ずさった。
焦ったような彼の視線は私を通り過ぎ、近衛兵とエルケの後ろ側に注がれている。
「ご、誤解だ...!落ち着けラフィ!」
「今日はやけにテンションが高めでいらしたから気をつけねばと思っていましたが。まさか涙を流して嫌がる婚約者様を押し倒して強行に及ぶとまでは思っておりませんでしたよ?」
声とともにゆらりと近衛兵とエルケの間から姿を現したのは、ふわふわの色素の薄い茶色の髪を庭園のそよ風になびかせたラファエルだった。
天使のような彼の口元も目元もいつものように美しい微笑を浮かべていたが、その黄緑色の瞳を直視すると目を逸らしたくなるほどゾッとする何かが背筋を走る。
え?あれ?ちょっと待って。強行って何のこと?
「誤解だ!ラフィ!これは本が倒れてだな...」
「お二人が仲良くされることには賛成ですが、無理矢理となれば話は別。
問答無用です。」
「ラフィーーー!!」
「罰として何をしていただきましょうか?あぁ、どこの部署も人手不足ですからね。敏腕の王子様が仕事を手伝ってくださると知れば皆さん涙を流して喜びますよ?良かったですね」
にっこりと笑うラフィの背景が黒い。
「それでは早速向かいましょうか。
アリシア様、エルケ殿、失礼致しますね。」
にっこりと礼をしたラフィは自分より背の高いレオンハルト様の首根っこを掴んで引きずっていってしまった。
そして、文官として王宮で働いているテオ兄様に後々聞いた話によると、ラフィに誤解が解けたのはレオンハルト様が全ての部署の仕事を終わらせた後だったそうな。
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