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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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第36話



 甘い。



 口の中に入ったソレに私の意識が持っていかれる。



 蕩ける感覚にもっと欲しいもっと欲しい......とはしたない自分の欲求が抑えられなくなる。



 こんなの、こんなの初めてだわ。

 こんな...



「こんなに美味しいクッキーがあるなんてっ!!」



「お嬢様、王宮で叫ぶのはマナー違反です。

 ですが、確かに美味しいですね。さすが王城のシェフ達の腕前です。」


 モグモグと私とともにクッキーを頬張るエルケが感心したように頷いた。


「ふふ。お気に召しましたか?でしたら今日お帰りの際、使用人達にいくつか菓子を包ませますから、ぜひお持ち帰りくださいね。」


 クスクスと嬉しそうに笑いながらラフィが執務室に続く扉から出てきた。

 私とエルケは今、執務室前に設けられた待ち合い室のようなスペースに置かれたソファーで、ラフィが用意してくれた焼き菓子と紅茶を頂いている。

 本当は殿下を待つ間、茶会の時間までまだかなりあるので別室を整えますと言ってくれたのだけれど断ったのよ。

 だって、ここにいないと意味がないの。

 そうラフィに言うと何故か周りの近衛兵達が「なんと健気な......!」と男泣きしだし、いまいるこの場所にふかふかのソファーとローテーブルを運んでくれたのだった。


「レオンハルト殿下は大丈夫でしたでしょうか?」


 ティーカップを静かに置いたエルケがラフィに尋ねた。


「ああ、さっきの件なら大丈夫どころか、むしろ逆に元気になられていらっしゃいますよ。

 アリシア様の初めて(・・・)の相手が自分だったことがよっぽど嬉しかったみたいですね。仕事も捗ってなによりです。」


 ニコニコとラフィが上機嫌なのは、どうやら殿下が仕事をどんどんこなしているかららしい。

 うぅ...。でも、私ったらレオンハルト様になんてことを。あんなこと家族にもしたことないのに。



「見事な平手打ちでしたね。さすがお嬢様です。」



「ああっ!?言わないでっ、エルケ!私ったら王族であるレオンハルト様になんてことをーーっ!あんなことをしたのは初めてだわ......。」



 そう、先程、執務室で迫り来るレオンハルト様の顔を私はつい渾身の力を込めて平手打ちしてしまったのだった。

 だってだって!あのままでは、キ、キスしちゃったかもしれないじゃないっ!

 婚約者だから別にいいのかもしれないけども!でもでもそんなこと(キス)してもし本気でレオンハルト様を好きにでもなったりしたらっ。




 ーーーBAD ENDーーー

 


 悪役令嬢アリシアは嫉妬に狂い罪人となって流されその地で命を落とし、相思相愛の第3王子レオンハルト様と主人公(レナーテ)は末長く幸せに暮しましたとさ。

 めでたし。めでたし。


 


「って、ぜんぜんめでたしじゃないわよーー!」


「お嬢様。ですから王宮で叫ぶのはマナー違反ですと先程から申し上げているではないですか。」


 私の雄叫びにエルケがふうと溜息をついた。

 そして、本人曰く彼女の7つ道具の1つである分厚いエルケメモを開いて、「王宮内ルール」とやらのメモ書きを見せてくる。


「マナー違反...!マナー違反と言えばやっぱりさっきの平手打ちよっ。あぁ、どうしよう。殿下のご尊顔に紅葉模様がくっきりと...!鼻血もでていらっしゃったし!」


「鼻血はアリシア様が初めて人を叩いたお相手になれたことで歓喜のあまり噴出されただけだと思いますけども。

 まぁ、本人が喜んでいるのだから別に良いのではないですか?ラファエル様も殿下の仕事が捗ってご機嫌ですし。結果良ければ全て良しでございます。」


 そ、そういうものなのかしら?


 ちらりとラフィを伺うと天使のような笑顔をさらに輝くような笑顔にし、沢山の書類を抱えてレオンハルト様のいる執務室にウキウキと戻って行った。


 カチャリ。それに続いて待合スペースから城の回廊へと続くほうの扉が開いて文官らしき優しそうな青年が、私の身の丈ほどありそうな書類の山をワゴンに積み上げて入ってくる。


「追加分を持ってまいりました...ってアリシア様っ!?これは失礼をっ。」


 青年はソファーに座っている私達を見て驚きの声をあげ、慌てて文官の最高敬礼の姿勢をとった。


「いいのよ。顔を上げてちょうだい。こちらこそお仕事の場にお邪魔してしまいごめんなさいね。ところでそのすごい量の書類は今から殿下に印章をいただく書類なのかしら?」


「え、あ、は、はいっ。そうです!貿易などの外交に関する書類は王太子であられるレオンハルト様が押印してくださることになっておりますので。」


「......そう。その量を1人でこなしていらっしゃるなんてやっぱり殿下はすごいのね。」


 うん。すごい。

 そして、すごい量だからこそわたしのこの紙(・・・)を紛れ込ませても気付かずに押印してくださるかもしれない。


 ニヤリと心の中で笑った私はドレスの背中のリボンの内側に挟んで隠し持っていたソレをそっと後ろ手に取ると、「一枚落としましたわよ。」と、さも今ワゴンから落ちたかのように言いながら、ワゴンの書類の中へとそっと紛れ込ませた。

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