第5話
「それで?この全部のドレスを改造するおつもりですか?」
「は、はははははは....。...なにかしらこれは?」
半目になって現実逃避しようとしているエルケの横で、私は店員達によって目の前にズラリと並べられていくドレス達に顔を引きつらせていた。
レオンハルト様がガーデンパーティー用に発注をかけてくださったと思っていたドレスは1着だと思っていたのに、目の前に並んだドレス達の中には庭園を歩けるタイプの裾が短めなドレスだけでも10着はある。
それ以外にもアフタヌーンドレス、カクテルドレス、イブニングドレス、さらにはイブニングドレスでも格の高いローブデコルテまで数々のシーンに備えたドレス達が何十着とV I Pルームに運び込まれた。
「マダム・ポトナス、このドレス達は一体...?」
「あら、いやだ。アリシア様ったら。もぉっちろんレオンハルト殿下からアリシア様への愛のこもった贈り物ではありませんか!
おしのびデート用のワンピースやお靴などもご用命いただいていますのよ。そちらもこちらにお持ち致しましょうか?んんっ?あら、この部屋にはもう入りきらないかもしれませんわっ」
「お、おしのびデート用!?」
誰と誰がおしのびデート?
いや、きっと私とレオンハルト様がなんだろうけど。あまりに予想外のことが起こりすぎて、もう何がなんだかわからなくなってきた。
「愛し愛され合うお二人、ほんっとうに素敵ですわ!そんなお二人のためにお衣装を作らせていただけるなんて、ワタクシ、デザイナー冥利に尽きますわよ」
ほぅ、とため息をつきながらほんのり頬を染めるマダム・ポトナスの言葉を聞いて私はぎょっとした。
「は!?『作らせていただけるなんて』ですって!?これは既製品ではないのっ!?」
「何を仰られておられるのですかしら、アリシア様。王太子殿下のご婚約者様がお召しになるドレスが既製品のわけございませんわ。ワタクシがデザインさせていただき、ワタクシの弟子であるお針子達が誠心誠意、丹精込めて作らせていただいたこれらは全て『特注お仕立て品』でございますっ」
ズラリと並んだドレスの前で両手を広げ、感極まった目で空(いや、そこ店の天井ですよ)を仰ぎ見るマダム・ポトナス。パンパカパーンとラッパの音の幻聴すら聞こえてきそうだ。
「ちょ、ちょっと待って!レオンハルト様が王太子になられたのは先月のこと。しかも私が5人の婚約者候補の中からレオンハルト様の婚約者に選ばれてまだ1週間しか経っていないのよ?
ドレスってそんな短期間で作れるものなの?
ううん、作れないでしょう?明らかにこの数をそんな短期間で作ることは不可能なはず...!」
「もちろんですわ。これほどまでに精巧な作りのドレスはシンプルなものなら出来上がるまでに3カ月、細やかなものなら半年から1年はかかりますわねっ」
慌てる私にマダム・ポトナスはうんうんと頷いた。
そして次の瞬間、驚くべき発言をしてきたのだ。
「アリシア様へのドレス製作のご用命のためにワタクシがレオンハルト殿下に謁見させていただいたのは半年以上前でございますわっ」
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