クリスマスプレゼントを君に。⑨
「すごい!今の魔法?人形の猫が喋った!!俺が騎士になれるって言ってくれたよ!!」
ノアが大興奮でニャン人形を持っている私の手を掴み、ぶんぶんと揺する。
「さあ、この人形をノアにあげますぞ。
今みたいに挫けそうな時はこの騎士服を着た人形を見て頑張ると良い。」
興奮して赤い顔をしているノアにニャン人形をおしつける。
「い、いいの?お姉ちゃん、あげるって言いながら無茶苦茶涙流してるけどっ?」
「よ、良いのでありますっ、うぅ、私の推し...いや、大丈夫、ううう、これも若い者への激励のため。うう、泣いてはおりませぬぞっ。」
「いや、本気で泣いてるよね?お姉ちゃんの大事なものなんでしょう?」
「女とニャン人形に二言はないのであります。うっ。うっ。この人形も誰かの役に立つなら本望であろう...。」
「そんな家族との今生の別れみたいに言われても......あ、そうだ!だったらこの人形、ニャン人形って言うの?この人形を俺に預からせて?」
いいことを思いついたとパッと瞳を輝かせたノアが私の顔を覗き込む。
「預かる?」
「うん、そして俺が騎士になれたら、その時にお姉ちゃんに返しに行くから!
絶対騎士になって、お姉ちゃんに会いに行く!」
「そうか、ノア!」
お互いに微笑み合った私たちは、ギュッと力強く握手をした。
その時、雪がチラホラ降る中を誰かが小走りで近づいてくるのが遠くに見えた。
「父さんだ!おーい!!今そっちに行くよーー!」
父親に駆け寄ろうとして走り出した足を一旦停めたノアは私を振り返った。
「ベアトリクスお姉ちゃん!俺、絶対騎士になる!
約束するよ!」
「うむ。そなたなら必ずなれるでありますぞ!騎士になったら我がロナポワレ家を訪ねるがよい!」
「うん!待っていて!お姉ちゃんを守る騎士になるからっ!またねー!!」
「いや、騎士が守るのは私ではなくて国だろう?」
思わずツッコミを入れるが、もうかなり遠くまで走って行ったノアには聞こえるはずもなく、私の周りには噴水の水音と自分の息遣い以外の音が消えた。
「ぷっ。あはははは。私がニャン人形を手放すとはな。よっぽどあの子に自分を投影してしまったでありますか。
それにあの子、私を守る騎士って......あれじゃまるで口説き文句のようでありますぞ。」
常日頃、アリィ殿やシャル殿に見せている社交雑誌に載っていそうな恋人が吐くセリフを子供が意味もわからず使ったことに、つい可愛らしいなと微笑んでしまう。
ああ、不思議だな。
幼い頃の私は1人になるといつも胸の奥がきゅっとなって辛かったのに。
今は、こんなに広大な雪が降る庭園に1人でいても胸の奥は暖かい。
「屋敷の中でただ1人、人形達を抱えて俯いていたあの日々から随分と変化したものだ。
......これもアリィ殿やシャル殿と知り合えたおかげですな。」
友人達の顔を思い浮かべながら再びユリアンの元へと歩み出そうとする。
しかし、すぐにその歩みは耳に響いた冷たい声によって遮られることになった。
「ここで何をしている?」
聞いたことのある氷点下の声音に私は顔どころか全身を真っ青にして固まった。
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