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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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クリスマスプレゼントを君に。⑧

 今月中に活動報告を整理するとお伝えしていたのですが、先程削除しようとすると負荷がかかるので頻繁に削除することはやめてほしいとの表示が出たので、このまま消さずに残すことに決めました。

 今後は活動報告ページはできるだけ使わないようにしようかなと思います。


「既視感満載であるな」


 その様がまるで昔の自分のように見えて思わず呟く。

 口を衝いだその言葉は意外に大きかったようで、噴水の中に膝をついて座っている麦穂色の髪の少年の肩がびくりと震えた。


「誰だよアンタ!?あっち行けよ!」


 少年は俯いたまま私を怒鳴りつけた。


「牽制は怯え、怯えは衛りですな。

 さすがに現在(いま)の私はそなたのような年端もない子供1人に怯えたりはしないが、昔はそなたのようであったから、他者を怖がる気持ちはわかりますぞ。」


「......?」


 今でも多勢は恐怖しかないがな。あぁ、そういえば大勢の人間の前に出る時は、全員の顔をカボチャと思えば良いとユリアンが言ったからそのように想像したら、逆に不気味すぎて卒倒した苦い思い出もあったな。顔つきの動くカボチャなどホラーでしかない。この方法を考えた先人はよっぽどのカボチャ好きであると思われる。



「むむ、しかしこんな真冬に水に浸かる勇気があるなど寒中水泳が趣味でありますかな?」


「なわけないだろっ。それにっ。この水は温水だっ!父さんが去年外国から仕入れた知識で製造販売した温水変換装置を......えっ!?アンタ何してんだよっ!?」


 ジャブジャブと足を突っ込むとブーツ越しにも水が暖かいのがわかる。


「ほう。本当に暖かい。」


「なっ、ちょ、アンタ靴と服が濡れるぞ!!」


「このブーツは防水仕様でありましてな。過保護な家老がわざわざ魔法までかけているので中には全く水が染みてこないのであります。

 だが、そなたのように座りこんでしまうとさすがに温水でも服が濡れて噴水から出た時に風邪をひいてしまいますな。

 .........ほら。」


 少年の前までいき右手を差し出すと、初めて彼は顔を上げ私を見た。

 さっき走り去って行った少年達と同じ年頃の少年だ。麦穂色の髪からのぞくへーゼルの瞳が驚いたように見開かれている。噴水から彼を連れ出し改めて顔を見る。


「私はベアトリクス。君の名前は?」


「.........ノア」


「ほう、良い名前でありますな。

 では、ノア、少し目を瞑って。」


 私は懐から白い魔法石を取り出すとその中身を解放した。魔法石から熱風が渦を巻くかのように噴き出ししばらくすると熱風は心地よい温風へと変わった。この魔法石に込められた魔法は温風魔法(ウォームブリーズ)だ。


「もう目を開けても良いですぞ。

 服はだいぶ乾いてきましたな。魔法石の効果が消えるまでに手に持っている紙も乾かし......」


「これはダメだっ!!」


 持っていたビショビショの紙も乾かしてやろうと彼の手元に手を伸ばすと、ノアはビクッと体を強張らせ紙を後ろ手に隠した。


「......?」


「あ......、えと、これは、いいんだ。」


「大事なものでありましたかな。それは失敬。」


「大事な......?」


 ノア少年は、ぽかんとした表情(かお)で私を一瞬見たあと、「ううっ」と呻いてその瞳に溢れんばかりの涙を浮かべた。


「......アイツらっ、アイツら、俺が描いた絵を丸めて水の中に投げたんだ。だから俺、噴水にっ。」


 背中に回していた紙を私の目の前で広げた。

 紙は一度ぐしゃっと潰されたような皺がより、水が染みて描かれた絵のようなものも滲んでしまっていた。威力の弱くなった魔法石を紙に近づけると少し湿ってはいるが破れない程度には乾いたようだ。


「アイツらというのはさっき走って行った子達ですかな?知り合いでありますかな?」


「同じ学校のクラスメイトなんだ。でもアイツらは貴族で俺の家は父さんが外国との貿易で功績をあげて爵位をもらえた元平民だから、いつも俺を馬鹿にするんだ。さっきも俺が訓練場で描いていた騎士の絵を見て、元平民は騎士になれるわけがないって...。」


 ところどころ滲んで消えてはいるが、紙には先程の訓練場での試合の様子が描かれていた。


「魔像写真だと水で消えなかったのになぁ。父さんから撮影禁止だと言われて持ってこなかったんだ。」


「持ってこなかった...って、まさかノアは魔道具が使えるのでありますかっ!?」


「え?あ、うん。親父が魔道具をいろいろ仕入れているから。仕事場にあった魔像写真撮影機でよく遊んでいて使い方を覚えた。」


 はぁ、どうやら魔道具が扱えるということの意味をこの少年はわかっていないようだ。

 魔道具は自らの魔力を込めないと発動しない、その上、魔像写真撮影機のような繊細な魔道具だと魔力の正確な制御を必要とするのだ。それをこの子は気付かずに無意識にできているというのなら、騎士になるどころか宮廷魔導士にだってなれる可能性がある。


「そなたは騎士になりたいのでありますかな?」


「え、うんっ!!」


 ノア少年は私の問いに目を輝かせて返事をした。

 しかし、すぐにまた暗い顔で俯いてしまう。


「でも、騎士になんてなれないよ。」


 自分の夢を描いた紙(大切なもの)をギュッと握りしめ俯く彼が、まるで昔の自分のようで心の中でクスリと笑ってしまう。


「何年前だったですかな。

 ちょうどこの場所で。私もそなたのように俯いていましてな。」


「え?」


「そのときに態度のでかい嫌なやつに出会いましてな。

 ...でも、そいつの生き様を見て自分の大切なものは隠す必要などないということに気づいたのであります。」


 ゴソゴソとさっきレジ係に入れてもらったニャン人形を袋から取り出す。


「はうあっ!!」


「ちょっ!?お姉ちゃん大丈夫っ!?」


「い、いや、大丈夫であります...。袋から取り出した推しのあまりの神々しさによろめいただけでありますのでな。」


「.........いろんな意味で大丈夫?」


 取り出したニャン人形は、通常販売されているニャン人形とコラボ服を着ているだけの違いであるのに、騎士服を着ているからか、何故か不思議と勇ましく凛々しい表情に見える。


 そのニャン人形に私が得意とする操術の魔法をかけてノアの目の前で口元を動かした。



『君が君を信じる限り、君はきっと騎士になれる。』


 

 それを見たノアは頬を紅潮させ、ぱああっと笑顔を輝かせた。

 そしてその様子を見た私はあることを決意した。

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