クリスマスプレゼントを君に。⑦
お待たせしました!
「殿下ーー!!」
「こんなところにいらしたのですね!お戻りください!!」
そのとき、大勢の人間がやってくる足音と声がして、私はびくりと肩を震わせた。沢山の人に近づかれるのが苦手な私は人形たちを抱きしめ思わず縮こまる。
「戻らん。」
彼らの声に振り返ることもせず、『殿下』と呼ばれた少年はスタスタと歩みを進めた。
......殿下?やはり王族か。
しかし王族がなぜ従者もつけずにこんなところまで1人で?
「なにわがまま言ってるんだよ、兄上。いま席に残ってるのはレオだけだぞ。レオに全部おしつけるなよ。」
人形たちに顔を埋め首を傾げていると、まだ幼いがはつらつとした大きな声があたりに響き渡った。
青い目の少年を追いかけてきていた大勢の人たちが声の主に道を譲るように左右に分かれる。
その声を聞いた少年はやっと歩むの止め、ゆっくりと声の主を振り返った。
銀の髪の少年の視線の先、人々の間から現れたのは目も覚めるような赤い髪をした少年だった。
「......エアハルト」
冷たい瞳をした少年が呟いたその名前は私でもよく知っている。
エアハルト・シーガーディアン。
この国の第二王子だ。燃えるような赤い髪。海の神の子孫と言われる王族にしては珍しく火炎魔法を得意とし、齢9歳にして騎士団の大人たちを圧倒するほどの剣の使い手であると聞いている。
「兄上、早く席にもどってくれよ。長子が途中退出なんて様にならないぞ」
「戻らん。」
即答か。
赤い髪の第二王子が兄上と呼ぶからには、つまりこの銀髪の少年は、
「兄上、いい加減にしろよ。いくら王太子の座に興味がないからってパーティーまでサボっていいわけないだろ?」
「アルフォンス様、どうかお戻りくださいっ。」
「戻らん。今日は魔法史学の年表から各属性がどのように派生したのかを読み解く予定なのだ。何者も私の邪魔をすることは許さない。」
「だーかーらーっ!そういう趣味事は後にしてとりあえずパーティーに戻ってくれよ。兄上がいないとまた派閥がどうのこうのややこしくなるんだ。兄弟仲が悪いと思われては内部で第一王子派、第三王子派に別れて争いが起きてしまう。俺とちがって兄上とレオは正妃の子なんだからな。」
「.........だったら私は趣味事に没頭して不在ということにすればよい。」
「えっ。ちょっ!兄上えぇっ!?戻れってばー!!」
そのまま振り向きもせず歩いていってしまった銀髪の少年に私は目が釘付けだった。
なんであんなに堂々としているのだろう。
私と全く違う生き物だ。
王族とはああいうものなのだろうか。
アルフォンス王子をエアハルト王子と従者たちが追いかけていったのを見届けてから、私は手元の人形達に視線を移した。
小さな頃に両親にもらった人形たちはところどころほつれて薄汚くなっている。ずっと握ったり抱きしめたりしているから形も変形してしまっていた。
「恥ずかしくなんてない。人形達は私の寂しさを紛らわしてくれる優しい存在だ。私にとってはとても......とても大事なんだ。」
小さく呟いた言葉は吹いてきたそよ風に紛れて誰にも聞こえずに消えていった。
ーーーーーバシャン!!
水の音のようなものが聞こえて、思わず昔を回想してしまっていた意識が現在に戻った。
当たりを見渡すと雪がしんしんと降り続き、座っている私のコート越しの膝上にもうっすらと積っている。
「くくっ。このままじゃ雪だるまになってしまいますな。馬車で待たしているユリアンの元に早く帰らねば。」
私は小さく笑うと、さすがにこの雪の中連れ歩きたくなく馬車に待たせた老執事の元へ向かうべく立ち上がり歩き出した。
しかし、すぐにその歩みを止める。
ーーーバシャン!バシャン!
「何事......?」
冬場は凍結の心配があるため水を止められているはずの噴水がある方向から激しい水音が聞こえる。
「やーい!ざまぁみろ!おまえなんかがなれるわけないんだよ!」
「ちょっと金があるからって貴族の真似事なんかしやがってさ。騎士はオレたちみたいなちゃんとした貴族がなるもんなんだ!」
雪の積もる植え込みの横から声のする場所を除くとバタバタと10歳ぐらいの子供達が走り去っていくのが見えた。
そして何故か冬でも水の止まっていない噴水の水の溜まり場の中で、腰から下を水に浸かり座り込んだ少年がビショビショになった紙切れを胸にぎゅっと抱きしめ俯いていた。
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