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王子と私の婚約破棄戦争  作者: 翡翠 律
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クリスマスプレゼントを君に。⑤


「あっ!ちょっと待ってくださいっ!ベアトリクス嬢!!」


 カッと目を見開いた私は最後の気力を振り絞って先程倒れたときに抱き止めてくれた誰かを払い除け、脱兎の如く展示ブースの出口に走った。


「うんうん。全面拒否のつれない態度もなかなかいいねぇ♡」


「チェラード先生っ!誰のせいでこうなったと思っているのですかっ!あー、もうっ!!責任とってくださいよっ!」


「責任?うん、いいよ?じゃあ式はいつにしようか?」


「そーいう責任じゃなくて!ベアトリクス嬢を責任持って追いかけてくださいと言ってるんですっ!誰が俺と結婚式を挙げろって言いましたかあぁぁっ!!?」



 慌てて飛び出したテントの中から先程の男達が何やらわめいている声が聞こえたが、私は振り返らずに走り続けた。

 そして、走って走って走って、さらにまた走って、騎士団の訓練所からはかなり離れたところまで来てやっと足を止めたのだ。



「......ゼェ、ゼェ、まいたで、ありますかな?」


 後ろを見ても誰も追ってくる気配はない。


「それ、にしても、ゼェ、やはり、ゼェ、久しぶりに、全速力で走ると、ゼェ、厳しいものが、ありますな。ふう。........ん?ここは......。」


 息を整えようと近くの花壇に腰を下ろし、俯いていた顔をあげる。走り続けてたどり着いた場所を見て私は目を見張った。



「は。よりにもよってこの場所に来てしまうとは...。」



 片方の口角がひきつるように上がったのがわかった。

 自分の中にいる暗い何かが蠢き出したような気がして慌ててそれを腹の底へとしまいこむ。


「最近は王宮に来ることも殆どなく、すっかり忘れていたというのに。一度踏み入ってしまっただけで鮮明に思いだすなんて皮肉なものでありますな...。」



ーーーーーどこか遠くでパシャリと水の音がしたような気がした。




 




「離すのでありますぞ!返すのだ!!」



「おい、ベアトリクスが怒り出したぜ。」

「えー、誰に命令してるんだよ?子爵家の子のくせに」


 私の大事な人形達を無造作に掴んだ少年たちは、泣きそうになりながら彼らを追いかけるまだ幼かった当時の私を馬鹿にするように鼻で笑った。


 彼らのうちの1人が私から奪った人形達を目の高さまで持ち上げると眉を寄せて嫌そうな顔をする。


「それにしても汚ったない人形だなぁ。こんなの大事に持って、おまえ何歳だよ?ベアトリクス」

「噴水に入れたら綺麗になるんじゃないの?」

「いいな、それ!」


「や、やめろ!やめろ!返せ!返して!」


「げっ。近寄るなよ、汚いのがうつる!」


「.........?」

 汚い?私が?


「パパが言ってたんだ。ベアトリクスの親は子爵ふぜいで王様にとりいって汚い人間だ。寝所にいる王様にまで会いに行くから愛人なんじゃないかって」

「なぁ、アイジンってなんだ?」

「わかんねー。でも悪い奴のことじゃないの?」


 父上や母上が王の愛人だと?

 何を言ってるんだ。

 父上と母上は王にとりいるために昼も夜も王宮に行っているわけじゃない!私はっ、私はっ、そんな理由でいつも屋敷に1人残されているわけでは、そんなわけではないのだ...!

 おまえ達に何がわかる...!


 来るんじゃなかった。こんな場所に。


 父上と母上と一緒にいたいばかりに、両親に無理を言って王宮のパーティーに付いてきてしまった。こんなことならいつものように屋敷で1人で本を読んで待っていたら良かったんだ。付いてきたところで両親の仕事の邪魔になるのはわかっていたはずなのに。


 それに出来るだけ邪魔にならないよう大人たちから離れていたことも失敗した。私が1人になるのを見計らって今目の前にいる奴らのようにくだらない話をいちいち聞かせにくる人間がいることはわかっていたことなのに。


「あっ!?」


 私が後悔していると、少年たちはニヤニヤ笑いながら本気で私の大事な人形たちを噴水へと放り投げた。


 人形たちは弧を描くように噴水の飛沫の中を水面めがけて落ちていく。


 なんてことを!!


 ショックのあまり動けなくなった私が目を見開いたその時だった。


 




「うるさい。」





 

 涼やかで凛とした声があたりに響いたかと思うと、噴水の吹き出し口からでる水がねじり上がり進路を変えた。


「うわぁぁぁっ!!」

「なんだ、これっ!」


 不自然に向きを変えた水は、私の人形を放り投げた少年たちの頭上を狙っているかのように降り注ぐ。

 

 何が起こったのだ?


「......?」

 水飛沫が上がる向こう側に誰かが居る?


 度なんて入っていない顔を隠すためにかけている華奢な眼鏡はいつもは外界と自分を遮ってくれて本当に役に立つが、いまは水滴で曇り私の視界を遮って逆にもどかしく感じてしまう。


 ゆっくりと眼鏡をはずすと開けた視界のその先、宙に舞う水飛沫の中に、冬の海のように冷たい二つの青い瞳がこちらを見据えているのが見えた。

◇翡翠の小説好きだよーと思ってくださった方、ブックマークや☆評価いただけたら嬉しいです(^^)。

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