クリスマスプレゼントを君に。④
レジ係にニャン人形を袋に入れてもらい、ほうっと安堵のため息をついた私は販売ブース横にあるシークレットニャンイベント展示ブースへと移った。
販売ブースは屋根しかなく模範試合の観客スペースにいる騎士団の援護射撃集団からの視線を遮ることができなかったが、展示ブースは広めのテントが張られた中にあり、周囲からの視線に怯える必要はな...ではなく、周囲からの視線を気にする必要もない。
ふむ。これは恐らく第二騎士団の野営用のテントを使用しているのでありますな。
上質なテントの中は暖かく、陽キャからの視線もない安全地帯であるため、さっきまでフードを目深に被っていた同志達も各々のフードを取りはじめた。
テント内を見渡すと騎士団とニャンイベことニャンイベントを行うために企画された限定ニャン人形や限定商品がこの日のためにどのように制作されたのかなどの魔像写真や資料が展示されている。
そして、中央スペースには私の推しでもある三毛猫ニャン人形の特大サイズが騎士服を着せられ飾られていた。騎士団訓練場内のため魔像撮影禁止の貼り紙がついている。
仕方がない、拝むだけにしましょうぞ。合掌。
「あぁっ、尊い...。我が心は永遠に貴方だけのものでありすぞ......っ。」
「えっ。そこでハート捧げちゃう?猫の人形に?ほんとに?」
「は?」
合掌の際に思わず呟いた言葉に何者かが口を挟んできて驚いて目を開けた。
「人形に生涯捧げちゃうなんて勿体ないよ。君はこんなに可愛いのに♡」
「〰︎〰︎〰︎〰︎!!?」
目を見開いた先、先というかもう眼前に明るい灰色の瞳があった。
灰色の瞳の持ち主は何故か合掌していた私の手を覆うようににぎにぎと握りしめ、口元に甘い笑みを浮かべて熱い視線を送ってくる。
だ、誰だ!?
我が同志はこんな大胆なことをしない、いやできない。だとしたらこの展示ブースのスタッフか。いや、スタッフにしてはやけに身なりがいい。
黒い縁取りのエルムグリーンの柔らかそうなコートに肩下まである煌めく金髪はコートの縁取りと同じ黒い色のベルベット素材のリボンで緩く結ばれている。
混乱する頭でなんとか眼前にいる人物が誰なのか答えを導き出そうとしたが、その前に知らない人間に間近でせまられ触れられてしまったことによって私の許容量は限界を超えた。
「え、ちょっと!」
青い顔で鼻血を出し後方に倒れそうになったところを誰かが慌てて引っ張り上げ抱き止める。
「やりすぎですよ。チェラード先生。」
「やぁ、まさか、ここまでだとはね。あははは。これはアルも苦戦するわけだ。」
「全くもう。彼女をそこらの女の子のように口説くのはやめてくださいよ。もしあの人にバレたら警護役の俺まで被害が及ぶんですから。」
なにやら頭の上でさっきの金髪男とまた別の人間が話しているようだが、これ以上外界と関わるのは身の危険だと判断した私の脳は聞き取ることを許さない。
現実逃避しだした私の頭の中にいくつかの選択肢が浮かび上がった。
▷逃げる
逃走する
逃亡する
うむ、この場から逃げよう。
三択に見せかけて全部「逃げる」の一択だと言うツッコミは要りませんぞ。
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