第25話
「アリィ殿っ!!」
ビーア様の悲鳴が響く。
はっとして彼女の視線を追うと窓の外の通りに騒ぎを知らず偶然通りかかったのか、それとも避難に間に合わなかったのか小さな男の子とその子を守るように覆い被さったまま震える母親らしき女性が見えた。
氷の槍はその親子にも容赦なく降り注ぎ、母親の髪や荷物が凍っていく。
攻撃魔法を撃ち落とさなくては!
このままじゃあの親子が氷漬けなってしまう!
私は魔力を右手のひらに集中させ店の出口に走る。
王族の血縁である公爵家の娘の私は、王子達ほどではないが、かなり大きな魔力をもっているのだ。
「アリィ様!?今外に行くには危険過ぎますっ!!」
駆け出した私の後方から驚いたようなユリアンさんの引き止める声が聞こえた。
扉を叩き閉め、親子の前に立ち塞がる。
私が持つ魔力の属性は......光と闇。
相反する属性のみを持つ私は属性のバランスが悪く普段は全く魔法を使わない。
でも今はそんなこと言ってる場合じゃない!どうか、うまくいって!!
5歳から魔力を殆ど使っていない私は、高レベルの魔法防御壁は作れないけど、低レベル魔法で氷の魔槍を撃ち落とすぐらいならできるはず...!!
魔力をこめていた片手を前に突き出し、光魔法を発動しようとしたその時だった。
ーーー『お前が諸悪の根源かっ!!』
「......っ!!」
急に目の前に憎悪に歪みこちらを睨みつける気高く青い瞳が現れた気がして私は息をのんだ。
ーーー『違いますっ。これは...。これは.....っ』
次いで頭に響く何かを弁明するような自分自身の声。
ああ......。
やっぱりダメだ。
私に魔法は使えない。
ガクガクと体が震え、さっきまで私の掌に宿っていた光の魔力に黒い霧がまとわりつき光を消滅させていく。
...さっきの幻覚は夢で見た未来だ。
今世で5歳から何度も見た夢。
そして前世でプレイした乙女ゲーム『5人の王子と謎めいた王宮』の悪役令嬢アリシアの断罪シーン。
レオンハルト様の私に向けられたまるで虫けらを見るような冷たい青い瞳。
あの時、レオンハルト様の放った氷の槍は私のドレスや手足を氷漬けにし、そして私は...。
「ちが、違うんです...レオン、ハルト様っ......!」
無意識に口から夢と同じような弁明の言葉が溢れた。
「アリィ殿っ!逃げるのでありまあぁぁすっ!!」
固まって動けない私にビーア様が叫ぶ。
男の魔法石から放たれた無数の氷の槍が私と親子にめがけ降り注いで来る。
「アリィ殿ーーー!!」
そして降ってくる氷の槍を見つめ硬直した私の頬を..........一筋の涙が、伝って落ちた。
◇翡翠の小説好きだよーと思ってくださった方、ブックマークや☆評価(↓にスクロールして広告下にある☆☆☆☆☆です)いただけたら執筆頑張れます(^^)。