第3話
◇
「アリシアお嬢様、この馬車はどちらに向かっているのですか?」
不安というよりかは呆れが混じった声で侍女のエルケが聞いてくる。
私達はいまガーラント公爵家の馬車の中でもお忍び用に使用する家章の付いていない簡素な馬車に乗り、王都の繁華街を走っていた。
「んふふふふふふ、エルケ、よくぞ聞いてくれたわ」
「いえ、今聞くんじゃなかったと後悔しております」
「そんなつれないこと言わないでよ」
耳を塞いでそしらぬ顔をしようとするエルケの両手を彼女の耳から外し自分の手に握り込むと、私は真剣な顔をした。
「いい?これから行うのは重要なミッションよ」
「ミッション......でございますか?」
エルケは澄んだ青い目を見開き、ゴクリと喉を鳴らす。
「そうよ。ねぇ、エルケ。これよ!これを見て」
私はさっと荷物台からとある物を出しエルケの眼前に広げた。
「なんですか、これは?『月刊 OJOSAMAー特集 夜会の恋の練習帳ー』.........」
「ナンデスカ、コノベタナ月刊誌名ハ...と心の中で言ったでしょ、今」
「お嬢様は読心術も心得ていらっしゃったのですね」
「心得てないわよ、そんなもの。そんなことより、重要なところはここなの!」
「んん?『都会の彼氏が喜ぶドレス選び』と書かれていますね......はっ!もしや来週のブリスタス公爵邸でのガーデンパーティーにアリシアお嬢様が着用されるドレスをこれから選びに行かれるということでしょうか?」
「いいえ、違うわ。ドレスはレオンハルト様が用意してくださるのよ」
「え?では何故この雑誌を持ってこちらの店に来られたのですか?」
唖然とするエルケと私が馬車から降りた先は、王族ですら予約待ちをすると言われる人気の高級ブティックだった。
「言ったでしょ?大事なミッションを遂行するためだと」
私はにんまりと笑うと、婚約後最初のミッションを達成するために、ドアマン達が開いてくれた高級ブティックの両扉を軽い足取りでくぐったのだった。
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