第23話
ぐわんっ
目の前の視界が不自然に歪んでまた元通りになる。
「結界を張らせていただきました。」
いつの間に店内に入ったのかロナポワレ家の執事ユリアンさんがビーア様と私の前に立ち塞がった。
「私の力ではこの店に結界を張るのが精一杯で申し訳ないであります。」
いや、普通の使用人は無詠唱で結界を張るような高度魔法は使えないから。というか、ユリアンさんほんと一体何者?ただの家老じゃないよね?
結界を張る魔法は、習得が難しい空間魔法の中でも本当に難しく、特別な訓練を受けなければ使えない。 さっきシャル様が剣を出現させたのも空間魔法なのだが、それでさえも習得はなかなかに難しく使うことのできない騎士は常に帯剣をしている。
常時帯剣するというのは生活する上で非常に剣が邪魔になるので騎士志願の若者達は騎士見習い時に鬼のように特訓して剣を出現させる空間魔法を習得するのだそうだ。
「ありがとう。ユリアンさん」
「さすが我がロナポワレ家の家老である。しかしユリアンの結界は物理攻撃を防ぐもの。魔法を使われるとちとやっかいですな。」
「えぇ、ベアトリクスお嬢様。微少ですが魔力の波動を感じますね」
混乱するカフェの客をかき分け、窓から外を見ると腰に剣を携えたシャル様の後ろ姿が見えた。その向こうにはさっき私達が買い物をしていた低価格帯大量生産の店がある。
「やっ!離してっ!!」
「ぶはははは。男っつーのは、離してって言われると離したくなくなるもんなんだよ。なぁ、兄弟?」
「だよなぁ、相棒!」
見ると先程商品整理中にシャル様を見て卒倒してしまった女性店員が下品な笑いを浮かべた見るからにむさ苦しい男2人に腕を掴まれからまれていた。
その近くには彼女の同僚らしき女の子達が真っ青な顔をしてオロオロとしているのが見える。
「今日はもう上がりなんだろ?俺たちと一緒に遊ぼうぜ。ひひひ。」
「誰があんた達なんかとっ...!」
「相棒よぉ。この女うるせぇから黙らせてかついで行こうぜ。...ん?なんだぁ?オマエ?」
むさ苦しい男のうち無精髭を生やしたほうの男が目の前に立つシャル様に気づき眉を寄せた。
「なんかやたらお綺麗なツラしてやがるが、男か?...んん?女か?」
「君達に答える必要などない。」
シャル様の言葉遣いが令嬢のそれではなく、騎士然とした感情の起伏のないものになっている。
なぜかはわからないがシャル様は帯剣するといつもこのようになるのだ。そして抜刀すると...。
私が以前見た光景を思い出して青ざめたその時、たんっ、とシャル様が地を蹴るのが見えた。
「てめっ!何を...!?」
「あっ、あれっ!?兄弟よぉ!女がいねぇぞ!」
「大丈夫か?」
「あ、あ...あ...っ、ありがとう...ござい...ます...!!」
一瞬で男達から女性店員を助け出したシャル様はお姫様抱っこしていた彼女を地面におろした。そして彼女の片手をとると優雅に微笑む。
「無事で何よりだ。危ないから店内にいてくれ。」
「は、はいいぃぃぃぃ♡!!!」
魅惑的な赤茶色の瞳に見つめられ、プシューと音がしそうなほど顔を真っ赤にした店員は、ふらふらしながらも両頬をおさえつつ素早く店内へと逃げんだ。
「さて。」
シャル様が唖然としている男達に向き直る。
「君達には、騎士団の管轄する留置所の反省室に来ていただこうか。」
「なっ!ふっ、ふざんけんじゃねぇやぁ!!」
「なんで行かなきゃ何ねぇんだっ!!よくも俺たちの邪魔しやがったなあぁ!!」
悪態をつきながら短剣を取り出した男達がシャル様を切りつけようと振りかぶりながら走り出す。
「ああ、馬鹿者どもが。シャル殿の言う通りにしておればよいものを...。」
私の隣で窓の外を見ていたビーア様が、哀れむかのようにため息をついた。
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