第21話
それにしても私の近くまで辿り着けなかった思わぬことって何なのだろう?
疑問が顔に出ていたのか、シャル様は近寄れなかった理由を教えてくれた。
「あの日、わたし達騎士団の者は騎士としての正装でパーティーに参加するよう王室から命じられていたのです。ですので、わたしの所属する第5騎士団も皆、騎士服の正装で参加しました。」
そこまで聞いて、私はピン!ときた。
シャル様の所属する第5騎士団は騎士になりたての者達がまず配属されるところで、仕事内容が王都の警備なのだ。普段は騎士服は着ておらず、濃紺の巡回用の制服を来て王都中を見回りしている。式典や他国の王族などの訪問の際にだけ騎士服を着用するのである。
第5騎士団の騎士服は花形の第1騎士団と色が同じ白い騎士服で、第1騎士団の肩章や袖の飾りは金色だが、第5騎士団は銀色である。そして第5騎士団のマントは明るいセレストブルー。
王都警備で日夜走り回っている彼らがなぜ、こんな汚れの目立ちそうな薄い色の騎士服かと言うと、単に普段は騎士服着ないからあんま汚れないでしょ?みたいな軽いノリで決められているとハインツ従兄様が言っていた。そんな適当でいいのか王室。
ちなみに魔物討伐や諸外国との抗争などを担っている第2騎士団の騎士服は汚れが目立ちにくそうなサルビアブルーの色をしている。
そして、近衛部隊である第1騎士団が騎士の花形であるように、騎士になりたての第5騎士団もまた将来有望な騎士の卵達ということで、ご令嬢、既婚者にまで幅広い層に人気があるのだ。つまり青田買いというわけで。第5騎士団から後々出世していく有望株を見つけて応援するという援護射撃集団が存在するらしい。
おそらく先日のブリスタス公爵邸のガーデンパーティーにも援護射撃集団に所属する方々も来ていらしたのだろう。
そして彼、彼女達が普段はめったに見ることができない第5騎士団の正装姿を目の前にしたとしたら...。
「詰め寄られ動けなくなったのですね。」
「......令息令嬢達の作る包囲網が訓練場の鬼教官達の鉄壁より強固とは知らなかった。」
シャル様は第5騎士団に群がるファンを力尽くで強行突破するわけにもいかないしきっと八方塞がりだったのだろう。見ていなかったとしても、その時の様子がありありと目に浮かぶ気がした。
「騎士でもない人々に恐れ慄き手が出せないなど、わたしはいまだ鍛練が足りないと言うことでしょうか...。」
小刻みに震える両手のひらを見つめながらシャル様の瞳は虚になってしまっている。
「いやいや、ファンに剣抜くわけにもいかないし仕方ないのじゃないかしら。って、おーい!戻ってきてー!」
「うーむ。あまりに衝撃的だったようですな。虚ろな瞳で現実逃避しておりますぞ。
しかし、己の欲にまみれて近づき推しを慄かせてしまうなど、その援護射撃集団とやらは、まだまだ規律がなっておりませぬな。」
ビーア様がシャル様の眼前でヒラヒラと手を振ってみるがシャル様はいまだ現実に帰ってこない。しばらく手をヒラヒラさせていたビーア様は諦めたのか、ふぅとため息をつくと私に向き直った。
「アリィ殿、とりあえずシャル殿が帰還するまでケーキでも食しておこうでありますぞ。」
「そっ、そうですわね。
あれ?でも、ビーア様は社交場があまり好きではないと思っていたのですが、ビーア様も先日のガーデンパーティーに参加されていらっしゃったのですね?」
「もちろん、人の多いパーティーなどいつもなら仮病を使ってでも参加を拒否であります。
しかし、あのパーティーは我が友の次期王太子妃としての大切なものであると思われ、出来るだけ目立たない格好で隠れるように参加していたのでありますぞ。
あぁ、そうそう。アリィ殿の数歩先あたりまで近くにいた時もありましたな。」
「えぇっ!?でしたら、気づきそうなものなのに...。」
いくら地味なドレスに身を包んでいたとしても、こんな妖精のような美少女が近くにいれば、その存在感で自然に目がいきそうなものなのに、なぜ私は気づかなかったんだろう。
「テーブル下におりましたぞ。
テーブルクロスの中に。」
「隠れるように参加ではなく、本気で隠れていらっしゃるじゃないですかっ。」
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